第18話 さあ、この人生での新しい仲間を得よう

ナグがうつむいて、なにやらブツブツ言い出す。


〔本当に私を入れてくれるなら、この人に着いていってもいいかも。というか何が問題なんでしょうか? ――この人を証明する要素が少なすぎるくらい? ――〕


 周りの冒険者が、俺を見ながら「お仲間のモグリに〝ダンジョン見つけてくれて感謝してるぜ〟って伝えといてくれよ」なんて言っているせいか、こちらを疑う目で観るナグ。


〔――でも相手をいきなり疑って掛かるのも失礼ですね。・・・こういう時はまず自分から〕


 ナグが全部聞こえている独り言を終えると、おずおずと俺に話しかけてきた。


「―――あの・・・」

「なんだ」


 俺の言葉に、ビクリとするナグ。

 そんなに怯えて、生きていけるのか?


「わ、私・・・パーティーに入る時にメンバーさんに必ず言っている事があって・・・」

「そうか、なんだ」

「その・・・私、召喚師なんですが」

「ほう、極レアのスキルではないか」


 召喚術師になるには、【召喚】という稀な才能スキルが必要だ。

 召喚獣のいる場所にゲートを開いて、契約した召喚獣と心を通じ合わせこっちに来てくれと願ったりする。

 1つの時代に5人いれば、良い方だと謂われている。

 そして召喚術師は幾体もの魔獣を召喚する事で、一人で数人分の活躍ができる非常に強力なクラス。

 【召喚】の才が有る人間なら、幾ら蝕み子でもパーティーから外すのは愚かだと思うが。


「・・・それが、私・・・魔獣と契約できなくて」

「なるほど――」


 魔獣と共感・接続するには契約が必要だ。しかし、契約ができないとなると。

 召喚できない召喚術師か。

 そこで俺に、一つの可能性が頭に浮かぶ。


「――お前、魔力がマイナスではないか?」

「え」


 「どうしてそれを」と言う目が俺の目を見た。


「やはりな」


 近くにいる人間のレベルアップ時に、魔力を下げる〝祝福〟。

 ならば、当人の魔力がマイナスでも不思議ではない。

 しかし見たことも聴いたこともない祝福に、極めて稀な【召喚】のスキル。


「お前は、稀代の逸材ではないか。なぜこんなボロを着ている」

「わ―――私が、逸材!?」

「偉大なる才能――偉才いさいと言ってもいい」

「い、い―――偉大なる才能!?  ――」


 俺の言葉に目を白黒させる、ナグ。

 すると、俺の言葉を勘違いしたのか。


「――貴方は、優しいんですね・・・」


 俺を観るナグの瞳に、薄っすらと光るものが浮かんだ。

 そして続ける。


「・・・私は召喚できない召喚師です―――その上、他人の魔力を下げてしまう穢を持った〝蝕み子〟なんです。駄目駄目なんです―――でも、」


 眉をしかめて、それでも笑顔を作るナグが俺に優しく微笑んだ。


「―――心配しなくても大丈夫ですよ! 私は、心までは駄目になったりしません―――負けませんから!」


 よく出来た、作り笑いだった。

 彼女が長い前髪を掻き挙げる、瞳が青と白の〝世界色〟に輝いて美しい。

 彼女は、俯いて俺に伝える。


「・・・私、やっぱり貴方とは――貴方みたいに優しい人とは行け「そうか。俺と来い」


 ナグが驚いた顔を挙げる。しかしそれは、すぐに困った顔になる。


「―――駄目ですよ、そんなに優しくしないで下さい。心は駄目じゃないって言ったばっかりですよ。私、負けちゃいそうですから・・・」

「黙れ、お前が幾ら自分を卑下しようが俺の知ったことではない。俺はお前の価値を知っている。だから俺がお前を欲しいと言っているんだ」

「―――わ、私を欲しい!?」

「お前は、黙って俺に着いてくればいい」


 俺の言葉に、口元を押さえ目を丸くするナグ。


「もう一度いう。俺と来い、お前に相応しい世界を俺が用意してやる」

「私に、ふさわしい世界ですか? ――」


 俺が手を差し出す。


「――もう、どの表情をしたらいいのか分からないですよ――」


 笑っているのか、泣いているのか、困っているのか分からない顔が俺に向けられていた。

 ゆっくりと苦労が見て取れる手が、俺に差し出される。


「――女の子に―――そこまで言っちゃったら、手遅れなんですからね?」

「お前にふさわしい場所は、俺が知っている」

「もう・・・取り消させませんから」


 彼女が俺の手を取った。




 俺の手の上に乗った、ナグの手のひら。

 そこに、もう一つの手が重ねられる。


「ボクはロファ」 

「黙れ」


 俺がマジ睨みする。


「ボクが居れば、ナグ君への君の証明になるじゃないか!」

「それはもう解決した、頭のおかしいヤツは執務室に帰れ」

「なんでボクは駄目なんだい!!」

「初心者パーティーに入るギルドマスターが、どこの世界にいる、示しが付かないだろう」

「示し!? なんだいそれ! ボクにギルドマスターとして模範的に生きろと言うなら、君も初心者ルーキーとして模範的に生きてもらえないかい!? どこの世界に初日からチャージャーボアを二頭も狩ってくる初心者ルーキーがいるんだい!」

「だから察せ、お前も目立つなと言っただろう、お前が俺のパーティーに入ったら目立ちまくりじゃないか、愚か者」

「馬鹿とか、愚か者とかさっきから! ムキー!!」


 すると受付嬢が そそ と近寄ってきて。


「〝これ〟はコッチで引き受けますんで」


 ギルドマスターを回収した。


「飛び級だ―――アイツAランクにしてやる!」

「職権乱用はやめなさい!」


 受付嬢にチョップを食らうギルドマスター。


「セウル! ナグ! 早く名声を上げるんだ、そしたら〝いつでも緊急時〟という理由をつけて、ギルドマスターが力を貸しても世間から変な目で見られないからね!」


 〝いつでも緊急時〟とか、便利アイテムみたいに言うな。

 だから、名声を上げて目立ってどうする。

 ゆっくり歩んでいこう。

 ゴージャス二人組が、引き摺られていくギルドマスターを見やりながら首を傾げた。


「なんだあれ」

「さあ、誰?」


 どうやらこの二人には〝あれ〟がギルドマスターとは、分からなかったようだ。

 そらそうだ。


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