第15話 さあ、ギルドマスターに認められよう
「――なら」俺が指を鳴らすと、弾かれた神聖剣たちが再びギルドマスターへ向きを変えた。
「――――――放った後の魔術を、こんな急旋回!? そん――」
俺はギルドマスターの背後、一本の神聖剣に更に神聖力を送り込んで射出した。
極光が鼠獣人へ向かう。
それに気づいたギルドマスターは、再び魔力を放って弾こうとするが。
悪いが今度は、彼女の魔力を上回る物を込めさせてもらった。
「破!! ――」
ズムッ
「――な――――んで、さっきより威力が――ッ!?」
ギルドマスターの魔力では、俺の神聖剣を弾くことが出来なかった。
剣を脇腹に受けたギルドマスターが、床に転がる。
「ギ、ギルマス!!」
真っ赤な血をぶちまけて丸まる獣人に、受付嬢が慌てて駆け寄った。
「――――この子、滅茶苦茶だ。――――ヒ、ルダ、倉庫から・・・エリクサーを・・・HPが残り5だ・・・このままじゃボク・・・死んじゃうから・・・急いで・・・・・・・・・」
「は、はい!! ―――この子、なんでこのギルド最強の人物であるギルマスに勝てるんですか!!」
俺は、慌てて立ち上がった受付嬢を制してギルマスに寄る。
「なにしてるんですかセウルくん! ギルマスを殺す気ですか!」
「・・・セウル君、約束を破ったのは悪かった。でも、ちょっと、冗談じゃなくて・・・ボクほんとうに、死にそうなんだ・・・血が流れてHPが減ってもう3しか・・・・・・・・・」
「わるいな、少々加減を誤った〖
この女は、俺が手加減に集中できないくらいには強かった。
彼女の脇腹に触れると、またたく間に閉じていく傷。
受付嬢が目を丸くする。
「え、なにこれ―――」
法術は失伝しているから、ポーションも無しに回復した意味がわからないのだろう。
痛みが消えて立ち上がったギルドマスターは、自らの脇腹を確認して目を見開いた。彼女は思い当たったようだ。
「こ、これは―――失われた法術!?」
「まあ、アンタの目は騙せそうにないからな。そうだ法術だ」
「一体どうやって!!」
「秘密だ」
「銀貨100万枚!!」
「いらん」
「ボクと一晩!」
「アホか」
このギルドマスター、100万タイトのあとに自分を持ってくる自信は尊敬できる。
「処女だよ!!」
「行き遅れか」
その言葉に撃沈した鼠獣人だった。
「まだ27だよ・・・。そりゃ? ちょっと
普通は15、6で嫁に行くからな。
受付嬢が苦笑いで言う。
「・・・えっと、ギルマスの婚期が絶望的なのはともかく。セウルくんの勝ちって事で―――D昇格に――逆だった。ずっとFランクのままって事で?」
「そうだな」
俺が言うと、ロファが首を振った。
「でも、Aランクになれば報酬が5倍にはなるよ?」
「それより、魔物の素材を売ったほうが儲かる」
受付嬢は困った顔で続ける。
「にしても前代未聞ですよ・・・・・・ギルマス自ら試験官をするとか―――このギルドで一番強いのに負けるとか」
「そして、ここまでコテンパンにやられたのもね」
「試験官をした前例がないですからね」
「床の血どうするかなあ・・・」
「部屋もメチャクチャですし、強盗でも入ったのかって感じで掃除する人がビックリしますよ」
そこでギルドマスターは、急に俺に向き直り手を差し出してきた。
「最初の無礼な態度は謝るよ。―――セウル君、本当にすまない」
「ギルドマスターだからな、あの態度が当然だ」
苦笑するギルマス。
俺は手を握り返した。
「ボクの名前はロファ。この冒険者ギルドのマスターをしている」
「セウルだ」
「名字は? 君は人族だよね」
「失った――――今はセウル・F・オルセデオと名乗っている」
「偽名って言わないのかい、それ・・・―――まあ、なにか事情がありそうだね。それじゃ追々」
そこでギルドマスターが手を握ったまま、俺の目を見た。
その
「でもそうだね、ランクを上げたがらない理由わかったよ。・・・その強さあまり知られない方が良いよ」
「もちろんだ」
転生者だとバレた事はないが、強さがバレれば戦争の手伝いなどをさせられる事も多い。
何度も経験している。
どうせ今回も、何らかの戦争に巻き込まれそうなりそうな予感はしているが。
「法術の事は特にね・・・」
「ああ」
ギルドマスターは、心配そうに
「下手に法術を見せびらかして、君を預言者だの救世主だのと崇める連中なんて出てきたら、大変なことになる」
「そうだな」
そこで、受付嬢がおずおずと尋ねてきた。
「で・・・あの、ギルマス・・・ダンジョンの方は・・・」
「あっ、そうだ!! セウル君があまりに強すぎた衝撃で、すっかり飛んでた!! 場所はどこだい! ダンジョンは大変な儲けをギルドと冒険者たちにもたらしてくれるからね!」
「地図はあるか?」
「この部屋にある・・・けど。なんだい、このしっちゃかめっちゃかな部屋!」
「ギルマスがいきなり襲いかかったからですよね」
「どうしてこんな事に!!」
受付嬢の冷たい目線を受けながら、紙束の山をひっくり返すギルドマスターであった。
「セウルくん、手伝ってよ!!」
嫌だ。
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