第13話 さあ、ギルドマスターの試練にいどもう
◆◇◆◇◆
「〖
ドス、ドスッ!!
月明かりと、〖
俺が広げていた腕をクロスするように振ると、左右から迫っていた二頭のチャージャーボアの頭蓋に、極光を放つ剣が突き立った。
どぉおおおおおおん
地響きと共に地に伏す巨体。
寝ていたらしい鳥たちが悲鳴を挙げて、飛び立っていった。
「依頼達成だな」
◤レベル6になりました◢
「レベルアップか。そういえば、レベルが上がると魔力はどうなるのだ?」
いや、間違いなく上がっているだろう。
つまり法術の威力が下がるということだ。
こうなると、少々つまらなんな。
なにか対策を講じなければ。
それに魔力をこれ以上あげないなら、何か別の職業を目指してみるのもいい。
先程、剣士にしようかと思っていると言ったのは、このせいもある。
しかし、魔技師――錬金術師なんかもいいかもな。
俺はどんな新しい職に着くかと、少し胸を躍らせた。こうして何を目指すかを考える時間も、楽しいものだ。
そんな風に考えながら、突き刺さっていた〖神聖剣〗を引き抜き、ボアの解体を始める。
「しかし、魔物を倒すより素材解体が面倒だな。昔ならゴーレムにやらせたのだがな」
あとこの巨体をどうやって運ぶか。
「これも昔ならゴーレムにやらせたのだがな。仕方ない、皮と牙だけを持って帰るか。肉は諦めよう、重すぎる」
俺がそうして二頭目を解体しようとしていた時である。
ボアの体から赤いオーラが立ち昇った。
「む――これは・・・、
どうやらイノシシのレベルが高く、強すぎる魂が異界に移動する際、門が開きっぱなしになったようである。
この転闢が起きると、その場所にダンジョンが生成される。
「丁度いい、このダンジョンを攻略してレベルを上げるか」
とはいえ、それはレベルアップ対策をしてからだ。
いますぐ突入して、一人でダンジョン制覇などした日にはどれだけレベルが上がるか分かったものではない。
それにダンジョンを発見したなら、ギルドへの報告義務が有る。
ダンジョンは、冒険者ギルドや冒険者の大きな収入源だ。
冒険者が一気に入ればダンジョン一つで、一日に億を超える金が動く。
「よし、街に帰って達成報告だな。しかし遅くなってしまった、依頼期限は明日までだから明日報告することにしよう」
俺はすっかり暗くなった空を見上げ、〖聖撃〗で月に向かって飛び上がった。
◆◇◆◇◆
「チャ、チャージャーボア二頭分の素材と依頼達成料あわせて2万5500タイトです」
「ああ」
どしゃり と置かれる金貨銀貨。
気づくと、後ろの冒険者達が騒いでいた。
「二日でアイツ―――どうなってるんだ」
「まだガキだよな?」
「やっぱ、モグリの冒険者とでも
「Fランクが一人で狩れる訳ねぇんだよ」
受付嬢は赤縁メガネを上げて、俺を凝視しながら「確かに、やっぱりそれしか」と尋ねてくる。
「あの、セウルくんは本当に一人で狩ってるんですか? ギルドを追放された人とかとパーティーを組んでいたら、セウルくんにも罰が与えられますよ?」
「嘘など吐いていない」
「・・・うーん。あれ? そういえば、肉はどうしたんですか?」
「運べないので、捨ててきた。俺が複数人で狩りをしているなら運んでくる筈だろう」
「それもそう――って、いやいやいや! チャージャーボアの肉といえば高級食材ですよ!? 二頭分なら5万タイトになります! あと、食べ物を粗末にするのは許しません!」
「そ、そうか―――・・・・それはすまぬ・・・なら回収に行くと良い。場所は街道沿いの橋から――」
「チャージャーボアを一人で狩るからそうなるんです! 待ってください、今地図を用意します!」
金ならダンジョン攻略で手に入る。しかし確かに、食べ物を粗末にするのは良くない。
俺は、受付嬢の用意した地図を人差し指で指しながら続ける。
「ここだ。あと、ボア肉が有る場所にダンジョンが開いた」
「えっと、トツ川の・・・・・・・・・・・・は? ―――」
受付嬢が、俺をぽかんと見上げた。
目がまん丸になっている。
「―――今、なんと?」
「ダンジョンが開いた」
すると冒険者ギルドに備え付けの酒場が ざわり としだした。
その目は、獲物を狙う獣のようになっていた。
「・・・・・・・・・・・・セ、セウルくん! ちょ―――ちょっと奥へ!!」
地図が丸まり転げ落ちた。
しかし受付嬢は、気にすること無く、
「おい、肉は」
「ダンジョンが開いたなら、近くに来た冒険者が持って帰るでしょう!」
なるほどな、5万タイトが転がっているのだからな。
俺がギルドマスター室に通されると、そこに居た十歳くらいに見える体格の灰色頭の鼠獣人の女性。
水着の様な格好だ。
窓際の棚で帳簿らしいものを見ていた彼女は、俺に一瞥くれると直ぐに帳簿へ向き直り不機嫌な声を出した。
「なんだいその子は、ボクは忙しいんだけど」
受付嬢が少し緊張しながら答える。
「実は彼、今日チャージャーボアを二頭狩って来まして」
「そうかい。その歳にしては、まぁ優秀なんじゃないかい」
「はぁ」と分かりやすいため息で、気分をコチラに示す。
「それよりヒルダ、この前の魔剣士のDランク昇級まってくれないかい、この子の実力では死んでしまう」
「えっと、わかりました・・・それよりギルマス、このセウルくんが言うには」
ギルドマスターがますます大きなため息と共に、帳簿を閉じた。
「はいはい。その子が、言うことにゃ?」
渋々と言った様子で、俺に椅子を勧めるギルドマスター。
俺が座ると、彼女が向かいに座る。
俺にジト目を送りながら、不機嫌そうに人差し指で机を叩いている。
「セウルくんが言うには、チャージャーボアを倒した現場にダンジョンが開いたそうなんです!」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・――」
指が硬直した。
「――は?」
ギルドマスターの首がカクンと斜めに倒れ、受付嬢を見た「もう一度・・・・・・・・ヒルダ」と呟く。
「ダンジョンが開いたそうです」
「倒したのかい? ――この子が? ――――こんなヒョロヒョロのちんちくりんが? ――――――ダンジョンを開くような、高レベルのチャージャーボアを―――!?」
あんたの身長だと、人の事は言えないぞ。
「分かってる――分かってるから、君に頼んでるんだ」
「・・・・・・・・・おいおい、ロファ! その歳で
「奥の部屋を、使って欲しい」
オルデマという男は、無骨な鉄の扉を見た。
「―――――――――そこもCランク用の試験場〈鉄の間〉じゃねぇか!!」
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