第10話 さあ、若き天才に手ほどきをしよう
ロッペパンという導師は、かなり若いように見える、年齢不詳な部分があるが18は超えていまい。
そんな年齢で、騎士でいえば騎士団長にあたる導師総括とは。
いくら実力主義の賢者学院でも、あの歳ではまずその実力に成り得ないのが普通だが。
相当な天才なのかもしれないな。
「おい、コイツは何者だ!!」
少年が指を突きつけたまま、俺を睨んだ。
「す、すみません、ルルア様のお知り合いらしく!!」
「オレは聴いてないぞ!!」
「お、おい、ハリス。ロッペパン導師総括様は不味い――この人を制御できるのはルルア様だけだ。ルルア最高大魔導師様を呼んで来てくれ!」
「わ、わかった!!」
ハリスという導師が駆け出す。
キースという導師は、釈明のような言葉を続ける。
「ロッペパン導師総括、この方がルルア様に会いたいと来たのですが――」
キース導師の言葉をロッペパンという導師総括が遮る。
「だからそんな話は訊いていないぞ! まさか、いきなり師匠に会うつもりか!? 事前に連絡を入れるのが当然だろう!! 相手はこの国一番――いや、世界一の魔導師なんだ。礼儀も知らないのか!!」
「ふむ、確かにそうだ」
俺が頷くと、ロッペパンはこちらに向かって、斬るように指を振った。
「帰れ!!」
「分かった」
俺が踵を返すと、
「帰らないで下さいぃぃぃぃぃぃぃぃ!!」
キース導師が、俺の腰にしがみついた。
なんだかもう、懇願の様相だ。
「帰らないほうが良いのか?」
「帰らないで下さい帰らないで下さい帰らないで下さい帰らないで下さい帰らないで下さい」
この若い導師は、なぜここまで怯えているのだ。
しかし青年導師統括は、帰ってもらいたい様だ。
「貴様、帰らないと言うなら――」
青年が彼の背より大きい杖を抜いて、自らの眼前に構えた。
そして、目を瞑り唱え始める。
「――イエザ イエム イャリ―――深き者よ我が声を聞き届けよ、来たれ、第一の証人。時の摂理の
ほう、まだ若いのに〝それ〟を使えるのか。
ルルアの教鞭の才か、はたまたこの少年の魔術の才か。
「ま、待って下さい!! 導師総括様! そんな強力な魔術をここで使っては!!」
「塔には、魔術障壁がある。被害は出ない!」
「塔の外が!!」
「反省しろ、この不埒者ぉ!! ―――〖
青年が杖を天に掲げ、魔術の銘を言う。
夜のような闇が放たれたかと思うと、杖に収束、魔術が発動された。
あの魔術を着弾させ発動させると、1万度以上の火柱を立ち上げる。
火炎系、最上位魔術。
大したものだ。
彼の魔力ステータスは、1300くらいか?
俺は、塔の魔術障壁を見ながら、迫る黒焔球に〝神聖力〟を放つ。
〝ただただ純粋な神聖力〟を。
ただし、そこに込める神聖力は俺のステータスにすれば5000程度の力。
それを、黒焔球の前に置いた。
黒焔球が吸い込まれ、動きを止めた。
「え・・・・・・・・・・?」
ロッペパンとかいう青年が、見たこともない現象に目を見開く。
俺が、神聖力の引力で黒焔球の直進を止めたのだ。
「―――え、なんだ、これ!! 進め!! ――――」
青年が黒焔球を前進させようと、魔力を込める。
「――――進めよぉ!!」
「無駄だ、その程度の力ではビクともしない」
「なんなんだ! 何をした!!」
少年が、俺に食って掛かる。
「説明するなら。――例えば、この塔にある魔術障壁は魔術が近づくと斥力で弾く物だが、俺はその逆を行った」
すると、俺を連れてきたハリス導師が、震えながら言う。
「そ、・・・・・・・・・そんなバカな! ――――それはつまりこの塔に設置されている巨大な〝魔導装置〟と同じ力を、貴方様が独力で出しているという事ですか!?」
「まあ、そういう事だな」
すると今度は、青年が叫んだ。
「そんな事、出来るはずない!!」
そしてハリス導師も首を振る。
「そ・・・そうですよ、ありえない! ――――幾らなんでも! 魔道具程度ならともかく、魔導装置と同じことをするなど――例えば、王都にある魔導機関車を腕力で押し返す様な話ですよ!!」
押し返す様な事をしているからな。
というかお前らの最高大魔導士も、出来んことはないぞ。
ルルアの魔力は15000ほどの筈だ。
すると、青年がヤケになったのか、
「――――もういい、こうなったら、爆ぜろ!!」
〖終炎〗を、無理やり爆発させることにしたようだ。
大きく開いた両の手を、胸の真ん中で合わせる。
すると、
ポン
とかいう音が鳴って、〖終炎〗が爆発した。
「――――な、なん・・・で!? なんだ今の情けない音!!」
「お前さんの力が、弱いんだ」
「――――――オ、オレの力が、よ、弱い!? オレを誰だと思ってる!! 稀代の天才ロッペ――」
ロッペパン導師が叫び始めた時だった。
辺りに雪の結晶が
俺以外の二人が、青ざめる。
不味い所を見られたという顔になる。
俺が塔の入り口に目をやると、青い髪の氷の妖精族の女性。
懐かしい顔に、俺は手を上げて挨拶した。
「元気だったか、ルルア」
彼女は涙を浮かべ
「―――師匠」
と呟き、子供の様に泣くのだった。
すると俺を連れてきた導師と、ルルアの弟子が唖然としながら叫んだ。
「「師匠ぉ!?」」
「え? この人――――――師匠の師匠!?」
「なんでこんな若い人が!! で、でも強さ的には、それなら納得というか!!」
「――――じゃ、じゃあこの人ってオレの!! ――――」
導師統括青年が駆け寄ってくる。
そして額を地面にこすり付け、「――――だ、大師匠ぉ!」と俺を呼んだ。
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