第9話 さあ、弟子に会って欲しいと願われよう

 暫く歩いた俺が、梨の芯をその辺でプルプルしていたスライムに投げる。

 あれは調教されたスライムで、様々な有機物のゴミを処理してくれる街の清掃員。至る所でプルプルしている。


 スライムが処理できないゴミを入れる樽なんかも、大通りに設置されている。

 この街は汚物をそこらに捨てたりしない、衛生管理が行き届いている。

 これは、俺が前世でルルアに頼んだことだ。


 街が不衛生だと、そこから病気が発生するからだ。


 俺は手に付いた梨の果汁を、浄化井戸で落とす。

 これも、俺が作った魔器だ。


 浄化井戸は井戸水を、そのまま飲めるように浄化する。


 井戸は普通の物すら設置の大変なので、昔は貴族が独占していたが、それを長い時間を掛けて各地に行き渡らせた。

 そしてフリオの時代に、浄化井戸を作り出した。


 俺が洗い終えた手を払って水を落としていると、後ろから足音がこちらめがけて駆けてくるのが分かった。

 さっきの追い剥ぎ3人組がまだ追いかけてきたのかと振り向くと、魔導師風の男二人が必死の形相で走ってきていた。

 賢者学院の中央塔で、俺を追い返した二人のようだ。


「お、お待ち下さい!!」

「待って下さいぃぃぃぃ!!」


「どうした、そんなに血相を変えて」


「先程は、誠に失礼いたしました!!」

「最高大魔導士ルルア様が、連れてくるようにとぉ!!」


 なるほどルルアに言いに行ったら、連れ戻すように言われたという感じか。

 しかし――。

 俺は真上に来ている太陽をみた。

 少し急ぎたい。


「俺はこれから、チャージャーボアを狩りに行かないといけないのだ」


 依頼書を見る。

 期限が明日までだ。


「そ、そんなぁぁぁぁぁぁぁ!!」

「どうか戻って下さいぃぃぃぃぃぃぃぃ!!」


 なんだか、首を絞められているとりの様な悲鳴だぞ。


「だが、実験や野菜の成長と収穫にも時間を使ってしまったしな」


 森へ行って、帰ってきたら夕方だろう。


 ボアを見つけるのが遅かったら夜だ。


 俺は二人に伝えようとするが、その顔をみて言えなくなった。

 導師の顔色がどんどん悪くなっている。

 吐きそうな顔だ。


「何卒!!」

「御慈悲を!!」


「――早く行かないと日が暮れるのだが」


「殺される!!」

「く、国が消える!!」


 凄まじい慌て様だな。

 仕方ない。


「分かった。戻ろう」


「あ、ありがとうございますぅぅぅぅぅ!!」

「たすかったぁぁぁぁぁっ!!」


 俺は何故か二人に、泣きながら感謝された。

 本当に何故だ。


 俺は学園塔に向かう道すがら、まだ若い導師に左右を挟まれ話しかけられる。


「わたくしキースと申します」

「わたしはハリスです!」

「ああ、俺は――フリオだ」


 銀のとんがり帽子にブロンドが、キース。

 銀縁眼鏡に黒髪が、ハリスと言うらしい。

 とんがり帽子のキースが、ズレた帽子を直しながら俺に言う。


「そ、その、先程の戦い見ておりました」

「ああ、見ていたのか」

「3人の冒険者を赤子扱い。果物を齧りながら、片手間のように放った魔術で粉砕・・・!! 身震致しました!!」


 ハリスという導師は、銀縁眼鏡の位置を直しながら興奮気味に言った。

 キースと名乗った導師が、ハリスという導師に相槌を打ってから俺に言う。


「そうだよな! ――しかもフリオさんは、片手間なのに無詠唱を当然のように―――しかも三重詠唱! 見たこともない魔術。なのに賢者学院には所属して居られない様子、―――どこで魔術を学んだのですか!?」


 導師たちが先程の表情とは打って変わって、尊敬の眼差しでコチラを見ていた。


「まあ、数奇な運命というヤツだよ」

「数奇な運命ですか」

「ああ」


 俺が返事をすると、導師達が頭を下げてきた。


「ルルア様のお知り合いだというのを信じず、本当にすみませんでした!」

「あれ程の実力があるなら、お知り合いだというのも当然でした!」

「しかし、なんなのですか! あの多重詠唱!! ――できれば、我々にご教授願えませんか!!」


 この二人も魔術師のさがか、魔術に対する興味が尽きないようだ。


「教えることは恐らく不可能ではないが。まあ、特殊な系統の魔術を使っているだけだ」


 法術だから出来ることだ。

 魔術でも出来ないことはないが三重詠唱はやはりハードルが高く、教えるのに少し時間が掛かる。


「使われていたのは時空属性ですか!? 世にも珍しい竜属性とか!!」


 俺は少し考えて、


「それよりも珍しい、世の中にあまり知られていない属性だ」

「なるほど・・・」

「――そういえば、先程フリオだと伝えに行けと仰られていましたが―――もしや御身おんみは、フリオ・エンド様ではございませんか!? ―――もしや五賢人では!」


 そうか、あの名前を言うと転生者だとバレかねないのか。


「いや、そのフリオは死んだだろう。生きていたとしても既に老人だ。俺はセウル・フリオ・オルセデオだ」


 俺は〖命名ネーミング〗で、自分の名前を変更する。


「ち、違うのですか?」


 ちなみにロンドは一時期使っていた偽名。だから仲間なら気づくが、他人は気付かない。


「ミドルネームのフリオは、フリオ・エンドに憧れる両親が名付けた」

「なるほど」

「しかし、なんだろうこの泰然自若とした佇まい・・・」

「本当に落ち着いている」

「何か、老齢の偉大なる大魔導師を見ているみたいだ・・・」

「最早―――そのオーラが大魔導師を象っている気がする―――」


 暫くして学院塔に着く。


「こちらです」

「ああ」


 導き入れられようとしていた時。


「何だソイツは」


 少し高めの男の声が掛かった。


「ん?」


 俺が顔を挙げると、導師服の茶色い髪をした、背の低い一応青年らしい男から指が突きつけられていた。

 しかし背が低く童顔で声も高いので、ともすれば少年に見間違いそうだ。


 彼は俺の顔に真っ直ぐ指を突きつけながら言う。


「学院の制服も着ていないそんな子供、なぜ招き入れようとしているのだ」

「ふむ」


 俺は顎に手を当てた。

 ハリスと名乗った導師が、顔色を悪くする。


「こ、これは!!  ロッペパン導師総括様!!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る