第3話 さあ、冒険者になろう

「全く何が〝死ぬのかな〟だ、我ながら情けない!!」

「ぐるぉおおおおおおおおおおお!!」


 〝俺〟は、迫りくる巨大な熊の丸太のような腕の一撃を無駄な力を使わず躱す。


「〖次元断アカシック・ブレイド〗!!」


 俺のオリジナルにして得意技、空間その物を断つ魔術を使った。

 しかし――


「発動しない?」


 再び迫る熊の豪腕を、下がって躱す。


「そうだったな」


 思い出す――自分が家から追放された理由を。


「アカシア教の神殿で妙なことを言われたんだったな、魔力-32768。聴いたことが有るな、高くなりすぎた魔力はオーバーフローという物を起こして、正から負へ反転すると。――まさか本当だったとは」


 俺は、記憶をたぐり寄せる。

 やはり――確かに俺の魔力は-32768(×2)――つまり-65536だ。

 なるほどしかし、千年を生きる魔導師である俺の脳裏に一つの可能性がよぎった。


 魔力がマイナス――つまり、〝魔がマイナスというのは、聖がプラス〟という事ではないか?と。

 ならば!


「女神よ力を貸せ!! 〖神聖剣オーラー・セイバー〗!!」


 俺が手を払うと、真っ白に輝く光の剣が空中に生まれ、それはモータルグリズリーに向かう。


 ザンッ


 回転しながら相手の首を真っ二つにした。


「ガ!! ・・・・フ・・・フォオォォオオオオ・・・ォォ」


 やはりな。


「どうだ、魔力-65536の味は、弱った人間をわざわざ襲うような魔物に、俺は倒せないぞ――」


 どお っと倒れた熊を踏みつけると、俺は息絶えたその頭に座り込む。

 そして、ヤツの生命力が全て失われる前に。


「――〖生命奪取ライフ・スティール〗」


 魔術を使った。

 しかし、それは発動しない。


「っと、中々1000年の癖は抜けぬな。女神よ、力を貸せ!〖食物作成クリエイト・フード〗」


 俺は、生命力を奪う魔術の代わりに神聖なる術――法術で食物を作り出す。

 すると、手の中に白く柔らかなパンが生まれた。


「〖水作成クリエイト・ウォーター〗」


 指を踊らせると、空中に水球が生まれた。

 俺は水球で喉を癒やし、パンを齧った。


「しかし法術は古文書の中にあるだけで失伝していて、その理由は記されていなかったが、なるほど魔力がマイナスになる必要があったとは。――にしても今回の記憶の覚醒は、年齢が少し遅めだったな」


 俺は、パンが空腹の体に染み込んでいくような感覚を憶えながら考える。


(これでは、世界で唯一の法術の使い手かもしれないな)


「さて、家に真実を話しに戻るか? ――まさかな、追い出されたのは別にどうでもいいが、我が子にあの様な扱いをする人間のもとでは先が知れている」


 俺は言いながら立ち上がる。


「東か南か、どちらに向かうか。棒切れで決めるか」


 俺は棒を地面に立てて、離す。

 すると、にわかに風が吹いて南に倒れた。


「南か、では隣の領地、リンドブルグで身を立てるか――〖神聖剣オーラー・セイバー〗」


 俺は、手の中に生まれた白い剣で、モータルグリズリーを手早く解体した。


 その後、しばらく歩いて森の出口に着いた。


「リンドブルグなら大陸最古の賢者学院がある、あそこなら弟子のルルアも居るかもしれん、顔を見せておくか」


 俺は一路、隣街リンドブルグを目指したのだった。




「おい、ガキがモータルグリズリーの素材を持ち込んだってマジかよ!?」

「それもA級サイズらしい」

「嘘だろ!?」


 俺は、リンドブルグの冒険者ギルドに来ていた。

 後ろの冒険者がなにやら騒がしいが、無視をしておく。


 受付嬢が、カウンターに置かれた素材の確認をしている。


「は、はは、はい! 確かにモータルグリズリーの爪、牙、皮、合わせて1万タイトになります! あとこちらが冒険者カードです・・・Fランクですが・・・・」

「助かる」

「ところで、本当に、このモータルグリズリーは君が倒したんですか?」

「だから、そうだと言っている」

「ほ、本当に? 嘘だったらお姉さん怒っちゃいますよ」

「本当だ」

「誰と一緒だったんですか? 一緒だった人は、冒険者じゃなかったんですか?」

「ああ、なるほど、モータルグリズリーを倒すような冒険者はFランクではマズイのだったな、そういう面倒な手続は今度で良い」

「え、いや―――そういう訳には――――」

「大丈夫だモータルグリズリー程度、いつでも狩って来てやる」


 俺は言いながら、側にあった掲示板を見る。

 何か、モータルグリズリー程度の依頼を受けておこう。


 『ゴブリン退治』――これは簡単過ぎるな。

 『建国史〝冷血のレガリア〟の写本を作成』――学院でやれ。

 『因果を断つ剣、エコーリッパーの探索』――この依頼、何百年前からあるんだ。

 『巨大突撃猪チャージャーボアの討伐依頼』――これだな。


 俺は、依頼用紙を引き剥がしてカウンターに置く。


「これを受けておこう」

「こ、これって、要注意クエストですよ!?」

「問題ない、モータルグリズリーと難易度は変わらないだろう」

「―――それは――――そうだけど ――君、5レベルなんですよね?」


 受付嬢は困惑しながらも、羊皮紙に受注の判を押してこちらに渡した。


「それから、本当にクラス決めなくていいんですか?」

「ああ、保留で」

「保留だとパーティー入れてもらえないんですよ?」

「入れてもらう必要がないからな、今は一人でいい」

「え、チャージャーボアを一人で倒すつもりですか!?」

「モータルグリズリーも一人で倒したんだ、問題ないだろう」

「だから、そのレベルでモータルグリズリーを一人で倒せるわけあるか!! 依頼書返しなさい!!」


 受付嬢は、俺の手から依頼書を奪おうとする。

 俺は、さっさと懐にしまう。


「死んじゃうんだからね!!」

「そうか。それより、ここがリンドブルグの街で間違いないならルルア・ルルという魔導士を知らないか?」

「はぁ? ルルア・ルル? ――」


 受付嬢はしばらく考えて、


「――って、賢者学院の最高大魔導士ルルア様のこと言ってるんですか!?」

「ほう、彼奴きゃつめ、もう最高大魔導士になったのか」

「・・・知ってるも何も、そんなの聴いてどうするの!?」

「ああ、もういい居場所は分かった、賢者学院の中央塔だろう」

「そ・・・それは、そうだけど」 

「では少し顔を見に行くか」

「ご尊顔を拝謁はいえつする気!? いやいや! 会えないって!! ―――君なんか、ちょ―――いいかげん人の話を聞きなさい!!」


 俺の後ろで騒ぐ受付嬢。

 そんな彼女のから右手にある酒場で、冒険者たちがため息を吐いていた。


「ったく景気のいいガキだぜ」

「ダンジョンでも見つからないかなあ、そうしたら儲かるのに」

「最近、行ってないよなあ」


 などと。

 ダンジョンか、一攫千金の場所だがなかなか見つかるものではないからな。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

最弱魔力の最強術師!? 毘沙門 子子 @mine12312

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画