神樹幻惑 2

明け方。

正確にはまだそう呼ぶには少し早いかもしれない。

ステラは必要最低限のものを携えて岩の宿を後にした。

少ししか滞在しなかったはずなのにやけに名残惜しさを感じた。

こういうちょっとしたことからホームシックが強まるのだろう。

冷たい空気が肌を刺す。

この時間はいつも眠っているためか、妙な高揚感がある。

これも一人だったら不安にかき消されていた感情だろう。

というのも、しばらくの洞窟での生活をする中で

包帯ことハルマキもこことは別の島を目指して旅をしていることがわかった。

どうやらその島に向かうついでステラと行動を共にするようだ。

こうして妙な二人旅が始まった。


洞窟を軽く登って出ると、前ほどではないが高い崖と海が背面に広がっていた。

二人が向かうのは正面。

不気味でどこか神秘的。そんな空気をまとった森へ足を踏み入れる。

ここもまた不自然なほど唐突に大きな木が大量に現れ森が始まっている。

まるで森の一部が切り取られてこの島に張り付けられたようだ。

この島のどこかにある橋。

その橋を見つけて隣の島に向かうことがステラらの目標なのだが。


ない。


橋がない。

洞窟を出てからすぐ、二人は森の中に入ることはせず島の外周をぐるっと回った。

かなり広い島であったが二人で反対に歩けばどちらかが見つけるだろう。

その方法を絵を描いて提案したのはハルマキであった。

それから数日後二人は出発から互いにほぼ同じ距離を歩いたところで合流した。

その結果。橋は見つからなかった。

しかしハルマキによると確かに橋はあるらしい。

何かがおかしい。

そこでステラは気が付いた。

そういえばいつからだろう。

うっすら自身を包んでいた霧がいつの間にか、やけに濃くなっている。

霧のせいとはいえ明らかに長い間、日の光を拝んでいない。

二人は考える。今自分たちがすべきことはなんだろうか。

ふと。二人の視線は島中央に向けられる。

ここにいても何も変わらないだろう。

解決策をはどこにあるのか。

考えられるのは二人が避け続けてきた森の内部だ。

ハルマキはステラが森に入ろうとするたび、服を引っ張り止めていた。

ただ。海岸に落ちていた謎の漂着物ランチもそろそろ限界だ。

ステラは霧がかかる森に足を踏み入れる。

今までと変わらない不気味な森。そこを流れる風の声。

しかし。今回後ろのハルマキがステラの服を引っ張ることはなかった。


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