神樹幻惑 1

そして互いに最後の一口を食べ終えると何度目かの静寂が流れた。

こんなことを言ってもわけがわからないだろう。

ステラは今、布で顔をぐるぐると覆った怪しい人物と焚火をかこっていた。

ただ、奇妙な感覚は拭えないながらお互い敵意がなさそうなことは感じていた。

最近はいろんなことが起こりすぎた。

少し振り返ってみよう。


数日前


結論から言うと海に飛び込んだ後ステラは助かった。

より正確に言うなら助けられた。

岩場の少し低くなった場所に漂着した後、ちょうどそこで野宿をしていた人物が

ステラの救命措置やらなんやらを施してくれたようだ。

詳しいことはわからないが目が覚めるとそう捉えるのが妥当であった。

それからステラはその人物と軽い会話をした。

と言っても実際はステラが一方的に質問を投げ

それに素っ気ない単語が淡々と返ってくるというものを繰り返しただけである。

言葉のキャッチボールとはよく言うが

これは明らかに一方的な投球練習であった。

そんなことをしつつ近くの川や森で食べれるものをかき集め

とりあえず暗くなったら火をつけ、それらを雑に焼いて食べるという生活を続けた。

ステラも最初は先を急いでいたがどうにもその人物が気にかかったのと

体力的だけでなく精神的にもひどく疲れていたため

野性的な生活は良い薬になった。

そんなことを数日続けた結果、冒頭の状況につながった次第である。


回想-完-


「じゃあ。ここは僕がいた町の橋の先の島ってことで良いんだよね?」


ステラは明確に自身の現在地を確認するために

わかっているすべての情報を雑にまとめて確認をとる。

その人物。この呼び方を続けるのは些か不便であると感じたステラは

恩人に対して「ハルマキ」というあだ名をつけて呼んだ。

失礼極まりなかった。

しかしステラが何度聞いてもハルマキが名前を答えてくれることはない。

ハルマキもまたその呼び名を嫌がるそぶりを見せない。

結果この恩義や礼儀という言葉をトイレのスリッパで雑に蹴り飛ばすような行為が

まかり通ってしまった。

そのハルマキがステラの方にゆっくりと顔を上げ

布の隙間からのぞいた目を合わせると、頭を縦に振った。

ここでようやく今のステラの状況がはっきりした。

つまりこういうことだ。

ステラの決死のハイダイビングは奇跡的に成功。

漂流先でハルマキに命を救われ、

目的の橋の先。隣の島に来ることができたのだ。

ちなみに話の中で分かったことだが、このほかにもいくつか島はあるようだ。

だが、それらの島の行き来は今回ほど難しくないだろう。

それはステラが初日にハルマキに投げた、ほかにどんな島があるのかという質問。

それに対するハルマキの少し驚いた様子からなんとなく感じられた。

もちろん言葉もなく表情もわからないがなんとなく


知らないの?


といった驚いた反応が最もしっくりきた。この島の話は追々尋ねてみようと思う。

まだわからない事も多いが当分は

・自分の住んでいた島以外の島について知ること

・姉がどこに行ったのか知ること

・今自分がいる島を探索すること

を大きな目標として、今は主に3つ目を中心に動いていくのが良いだろう。

そうして今日も焚火を消して眠りにつく。


. . . 。

わかっている。

もう一つの大きな問題。いや。

実際には思っているような問題ではないのかもしれない。

頭をひどく打ったりしていてもおかしくないだろうし。

が、それでも目をそらし続けることそろそろ限界だろう。

そんなことを考えている今も少し目を開けると

見える。

岩場の奥に、黒髪の女の姿がそこにはあった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る