Scene5 ロゴスは密室の謎に興味を示さず、不可解な行動を指摘する

「まとめると、こうだ。

 しき巡査は夜道でたなもと氏と遭遇した。

 たなもと氏が何かに怯えて逃亡し、しき巡査は追走ついそう

 しき巡査は、たなもと氏が路地裏に曲がる瞬間まで、彼の姿を視界に収めていた。

 そして、しき巡査は路地裏の前で足を止め、呼吸を整えてから中へ入った。

 するとたなもと氏の遺体を発見したわけだ」


 ロゴス様はしんさんの要約を受け、腕を組んで頷く。

「しかも、路地裏の先は約三メートルのへいが塞いでいた……、と」


「もちろん、しき巡査はその場ですぐに通報した。その警察車両パトカーが到着するまで、現場はしき巡査の監視下にあったから、犯人が路地裏に潜み続けていた可能性はない」

 しんさんが付け加えた。


「あのあのっ、犯人は例えば、体操競技の選手なんじゃないでしょうか!」

 私は大きく手を挙げて主張する。

「三メートルくらいなら、助走をつけてこう、ぴょーんと飛び越えれるんじゃないですか?」


「いや、残念ながら犯人がへいの向こうへ逃げたとは考えられない。現場周辺の写真を見てもらえばわかると思うが、へいを越えた先の地面は土だ。事件当日、その土は雨によって泥濘ぬかるんでいたが、警察は足跡などの痕跡を一切見つけられなかった」

 しんさんは机の上に並べた数々の写真の内、一枚を指しながら言う。


「むむーっ、それじゃあ! 犯人は大跳躍ジャンプしてへいに登ったあと、向こう側には降りず、他のところに逃げたんですよっ!」

 私は自信満々に言ったが、しんさんは呆れた態度で首を横に振る。


「ちゃんと写真を見てくれよ。へいの左右は住宅の壁になっていて、どこにも逃走経路はないだろう。それにそもそも、犯人がへいに登ったという前提からしてナンセンスだ。手で掴めるとつも足を掛けられるおうもなく、その上、雨で滑りやすくなっていたへいに、わずか数秒程度で登れたはずがない」


 反論できない……。うぐぐ……。

「ロゴス様ぁ。黙ってないで、ロゴス様も何か言ってくださいよぅ。可愛い助手がやり込められてますよ?」


「うーん。僕は視線密室の状況より、被害者の行動が気になるね」

 ロゴス様はどことなく能天気な口調で言った。

しんさん。被害者は殺害される直前、しき巡査から逃走していますが、何か後ろめたいことでもあったのでしょうか? それとも、被害者は普段から精神的に不安定だった、とか?」


 神似さんは首を横に振る。

「残念ながら、たなもと氏が逃走した理由はまだ判明していない。少なくとも、遺体の所持品はポケットに入った携帯端末スマートフォンだけで、違法な物はなかった。また、生前のたなもと氏が日頃から何かに怯えていた、という証言も得られていない。もっとも、人間関係には問題を抱えていたようだから、しき巡査を誰かと勘違いして逃走した可能性はある。事件当時は雨で、かなり視界が悪かったようだしな」

 そう言うと、しんさんは新たに、三枚の写真を取り出して机に並べる。


 左からそれぞれ、三十代前後の綺麗な顔立ちの女性、二十代前後の目が細い男性、二十代前後の化粧っ気が薄い女性の顔写真だった。


「警察が現状、有力視している容疑者候補についても説明しておこう。たなもと氏の妻のまきさん。たなもと氏の担当編集者のふでさかぶんさん。そして、たなもと氏の不倫相手のかみしおりさんだ」

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