Scene4 神似は戯れに軽口を叩き、演算師の協力を要請する

 演算えんざんは基本的に、警察とは完全に異なる、独立した立場である。


 警察が民間人に捜査情報を教えるわけにはいかない。

 しかし一方で、情報がまったくない状況で謎を解くことは、どんなに優れた頭脳を誇る演算えんざんにとってもなんわざだ。


 そのため、ほとんどの演算えんざんは〈四大機関ビッグ・フォー〉のいずれかと繋がりコネクションを持っている。


 では、その〈四大機関ビッグ・フォー〉はなぜ捜査情報を得られるのかというと、『〈四大機関ビッグ・フォー〉には様々な場合にちょうほうてきが認められているから』だそうだが、私も詳しくは分かっていない。

 法学に明るい人なら、きっとすらすら答えられるのだろうけれど。


 ともかく、巫女みこがみ演算えんざん事務所のお得意先は、〈四大機関ビッグ・フォー〉の一角いっかくを占める治安維持組織、獅之しのづか機関だ。


 獅之しのづか機関の幹部――獅之しのづかしんさんは私が淹れた紅茶を飲み、気障きざっぽく口を開いた。

「ふん、悪くない。六十五点といったところか」


 しんさんは長身の若い男性で、みょうに入るの字が示唆する通り、獅子ライオンのような鋭い眼光を持つ青年だった。

 ロゴス様に比べたら大人の渋みが足りないけれど、世間一般の基準で言えば、美形イケメンと表現して差し支えないだろう。


「ところで、実に驚いたよ〈巫顧ふこ神仏しんぶつ〉。まさか君が、娘ほどもとしの離れた少女を囲っていたとは」

 私をちらりと見てから、しんさんは失礼な口を利いた。


 ロゴス様は困ったように眉を寄せる。

へいしかない言い草ですね……。今どき、十代の助手を雇う演算えんざんは、さほど珍しくもないでしょう。かの〈機械仕掛けの悪魔ラプラス・エクス・マキナきょうも、十代の少女をちょうようしているとか」


 年齢はロゴス様の方が上のはずだけれど、しんさんはロゴス様にタメ口で話して、ロゴス様はしんさんに敬語で話す。

 立場の差が分かりやすく表れていた。


 しんさんはロゴス様の言葉を受けて、かいそうに喉を鳴らして笑う。

「何、少し揶揄からかっただけだよ。君となみあかりくんについては、色々と面白い噂を聞くものだからね」


 しんさんがそう言うと、ロゴス様は私の顔をじろりと睨んだ。心外だ。まるで私のせいみたいじゃないか。


「君の言う通り、昨今は演算えんざん助手のじゃくねん化がけんちょだ。まあ、信用と実績は両立不可能トレードオフであるゆえ、必然の流れではあるが……」

 そこまで言って、しんさんはくすっと微笑む。私には意味がよく分からなかった。

「おっと、いけない。今日はそんな楽しい話をしに来たわけではないのだった。いい加減、本題に入るとしよう」


「そうしてくれると、大変助かりますね。お互い、多忙な身ですから」

 ロゴス様が軽く嫌味を込めた口調で言う。


「違いない。それじゃあ、雑談はここまでだ」

 両手をぱん、と軽く叩き、しんさんは真剣な顔つきに変わった。それは先ほどまでの冗談混じりの態度とは、似ても似つかない冷徹な表情だった。

「事前の連絡で伝えた通り、今回〈神仏しんぶつ〉に推理してもらいたい謎は、たなもとしょうすけ氏が殺害されたの状況及び、犯人のじょうあるいは特徴だ。まずは事件の概要がいようだが……」


 そして、しんさんは第一発見者である警察官、しきふみのりさんというかたの証言を説明し始めた――。

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