Scene3 あかりは小説家の神性を謳い、残酷な犯罪は許さない

「小説家っていうのは、神様なんですよ!」

 私は堂々と胸を張って、高らかに宣言した。


「洗練された言の葉が紡ぐ情景シーン! 隣人のごとく読者の心に喜怒哀楽エモーションを生む登場人物キャラクター! 現実のわずらわしさをぼうきゃくさせてくれる構成プロットを、現実にこうみょうを与えてくれる主題テーマが貫いて、考え抜かれた伏線回収が快感カタルシス恍惚エクスタシーで彩ってくれる! 物語っていうのは、そんな箱庭世界の楽園エデンなんですよぉ!」


「分かった。分かったから、一旦座ろう。ね? なみさん」

 ロゴス様が暴れ馬をなだめるみたいに、手を上下に動かして言う。


 だけれど、いくらロゴス様が言っても、今日の私は止まらない。

「そんな箱庭のゴッドが! おくなりになったんですよ! これって神殺しじゃないですか!? 世界が一つ失われたんですよ! 許せませんっ!」


「……なみさんって、そんなにたなもとしょうすけの愛読者だったの?」

 私の機関銃演説マシンガン・トーク途切とぎれた隙をって、ロゴス様は静かに尋ねてくる。


「いいえ、最新刊しか読んでませんっ!」

 おくさずはっきりと、私は答えた。


 何ら恥じるべきことはない。

 私は先日、たなもとしょうすけの最新刊『小説家になれなかった男』を読んで、彼の愛好家ファンになったのだ。大事なのは愛好家ファンれきではなく、想いハートだろう。


「そもそも、愛好家ファンかどうかさえ、重要じゃないですよっ! 私が知らない作家だって、私が嫌いな作家だって、みんな世界をつくる神様です! いいえ、小説家に限った話じゃありませんね! 漫画家だって脚本家だって、物語を紡ぐ仕事はどれも、純潔にして神聖なんですよっ!」


 ロゴス様は降参と言いたげに両手を顔の高さまで上げる。

「君の気持ちは痛いくらい分かったよ。うん、本当に痛いくらい。痛々しいくらい」


「分かって頂けて何よりですっ」

 私は元気よく答えて、椅子に座り直す。


 なんかちょっと暴言をかれた気がしなくもないが、きっと気のせいだろう。

 ロゴス様は私のことが大好きすぎて、たまについ意地悪を言ってしまうのである。


 この場所――巫女みこがみ演算えんざん事務所では、いくとなく繰り返されてきた光景だ。


 〈巫顧ふこ神仏しんぶつ〉の異名を持つ演算えんざん巫女みこがみロゴス様の助手になってから、かれこれ半年。

 私は暴走するとついわれを忘れてしまうときがあるけれど、ロゴス様はそのたびに優しくなだめてくれる。


 一児の父親でもあるロゴス様は、包容力にあふれているのだ。

 まあ、ちょっと皮肉的シニカルなところもあるけれど……。


「君がそこまで夢を見ている職業は演算えんざんだけだと思っていたな」

 ロゴス様はあんの息を漏らし、掛けている眼鏡めがねを押しながら言った。


「実は私、ロゴス様と出会う前まで、小説家になりたかったんです。あっ、もちろんあの日、ロゴス様に救って頂いてからは演算えんざん一筋ひとすじになりましたけど」


 演算えんざんは、現代の英雄ヒーローである。


 ちまた蔓延はびこるトリック犯罪の数々は、被害者だけでなく、全ての事件関係者の心をむしばむ。

 かつて殺人事件のぎぬを着せられた私は、その残酷ざんこくさを痛感した。


 演算えんざんという英雄ヒーローは、そこに颯爽さっそうと現れて、論理的思考だけを武器に、秘密ミステリーやみを晴らしていく。

 ロゴス様は、そんな演算えんざんの中でも、特に多くの実績を持つ熟練ベテラン演算えんざんだ。


 〈巫顧ふこ神仏しんぶつ〉とは、まるで神仏から天啓てんけいを受けるかのように真相へ至る、ロゴス様の天才的な推理の性質から付けられたらしい。

 ロゴス様はまぎれもなく、神のごとき天才演算えんざんなのだ。


 私がそんな風に陶酔とうすいしていると、ロゴス様は壁掛け時計に視線を向けて口を開いた。

「おや、もうそろそろ時間だね」


 が到着する時刻だった。

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