5.リクは、ノンデリ?





「へー、リィンさんに何か教えてもらってると思えば、押し花ですか」

「なんだよ。いいだろ、別に」

「別に駄目なんて言ってないですよ」



 ピクニックを終え、リィンを伯爵邸に送り届けてから。

 宿に戻った俺は令嬢から教わった『押し花の作り方』を実践していた。そんな姿を後ろから物珍しげに眺めたカノンが、不思議そうに声をかけてくるのだが、俺は作業に集中する。

 そうして、しばしの時が流れて。

 おおかたの工程を終えた頃、聖剣少女はふと訊ねてきた。



「そういえば、リクさんって詳しいんですか? 『花言葉』とか」

「そんなの詳しいわけないだろ。コリンの花言葉だって、さっきリィンに聞いたばかりなんだからさ」



 彼女の問いかけに答える。

 するとカノンは、どこか鼻で笑ったような声で言った。



「ですよねー……リクさんみたいな『ノンデリ』に、意識できるわけないです」

「おい、こら。誰がノンデリだ、誰が」



 その言葉に、俺は不服を申し立てる。

 しかし彼女は悪びれた様子もなく、ベッドに寝転びながらこう続けるのだ。



「そうやって、無意識に誰かの心を引っ掻き回してそうだなー……って、そう思っただけですよー」――と。



 そして、すぐに寝入ってしまった。

 どうやらずいぶんと遊び疲れていたらしい。いつもなら、もっと会話のドッジボールを続けるところだが、いまばかりは寝かせてやろう。

 そう考えて、俺はふと考えるのだった。



「ん、でもたしか……?」



 ――誰だったか。

 後輩を励ますために、花を渡したような記憶がある。



「まぁ、いいか」



 でも、それも束の間。

 俺は再び押し花の作業に没頭するのだった。






「信じられない! あんなことは、絶対に許されない!!」

「ロ、ローズ様!? いったい如何なされましたか!?」




 ――その頃、魔族領。

 自身の根城に戻ったローズは、怒りを露わにしながら壁を殴りつけていた。その姿を目の当たりにした配下の魔族はみな、戦々恐々と震え上がっている。

 そして、どうにかなだめようとするが……。



「ぼ、僕というものがありながら、あんな幼い女の子に手を出すなんて!?」



 ローズは髪を激しく搔きながら、そう叫んでいた。

 どうやら出先のエルタにて、何やら心が穏やかでなくなるものを見たらしい。魔族たちはそう口々に予測を立てて、現主の錯乱を見守っていた。

 すると、ひときわ強く壁を殴りつけてローズはこう口にするのだ。



「ふ、ふふふふふふ……決して、逃がしませんよ。……リク先輩」



 殴った壁が、轟音を響かせながら瓦解する。

 そんな只中でローズは、懐から一つの『押し花』を取り出すのだった。








「貴方の隣にいるべきなのは、僕以外にあり得ないんですから……!」







 そして口角を吊り上げ、くつくつと笑い始める。

 リクの想像もしない場所で、まったくの想定外の事態が起ころうとしていた……。




――

短いですが、これで第2章は終わり。つなぎの回でしたね。

そして、作者は書きながら思いました。


この世界にも、ドッジボールってあるんだ……と。



面白かった、続きが気になる。

そう思っていただけましたら作品フォローと★評価など。

応援よろしくお願いいたします。


※すみません。一日休みます、明日からまた更新で。

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