5.リクは、ノンデリ?
「へー、リィンさんに何か教えてもらってると思えば、押し花ですか」
「なんだよ。いいだろ、別に」
「別に駄目なんて言ってないですよ」
ピクニックを終え、リィンを伯爵邸に送り届けてから。
宿に戻った俺は令嬢から教わった『押し花の作り方』を実践していた。そんな姿を後ろから物珍しげに眺めたカノンが、不思議そうに声をかけてくるのだが、俺は作業に集中する。
そうして、しばしの時が流れて。
おおかたの工程を終えた頃、聖剣少女はふと訊ねてきた。
「そういえば、リクさんって詳しいんですか? 『花言葉』とか」
「そんなの詳しいわけないだろ。コリンの花言葉だって、さっきリィンに聞いたばかりなんだからさ」
彼女の問いかけに答える。
するとカノンは、どこか鼻で笑ったような声で言った。
「ですよねー……リクさんみたいな『ノンデリ』に、意識できるわけないです」
「おい、こら。誰がノンデリだ、誰が」
その言葉に、俺は不服を申し立てる。
しかし彼女は悪びれた様子もなく、ベッドに寝転びながらこう続けるのだ。
「そうやって、無意識に誰かの心を引っ掻き回してそうだなー……って、そう思っただけですよー」――と。
そして、すぐに寝入ってしまった。
どうやらずいぶんと遊び疲れていたらしい。いつもなら、もっと会話のドッジボールを続けるところだが、いまばかりは寝かせてやろう。
そう考えて、俺はふと考えるのだった。
「ん、でもたしか……?」
――誰だったか。
後輩を励ますために、花を渡したような記憶がある。
「まぁ、いいか」
でも、それも束の間。
俺は再び押し花の作業に没頭するのだった。
◆
「信じられない! あんなことは、絶対に許されない!!」
「ロ、ローズ様!? いったい如何なされましたか!?」
――その頃、魔族領。
自身の根城に戻ったローズは、怒りを露わにしながら壁を殴りつけていた。その姿を目の当たりにした配下の魔族はみな、戦々恐々と震え上がっている。
そして、どうにかなだめようとするが……。
「ぼ、僕というものがありながら、あんな幼い女の子に手を出すなんて!?」
ローズは髪を激しく搔きながら、そう叫んでいた。
どうやら出先のエルタにて、何やら心が穏やかでなくなるものを見たらしい。魔族たちはそう口々に予測を立てて、現主の錯乱を見守っていた。
すると、ひときわ強く壁を殴りつけてローズはこう口にするのだ。
「ふ、ふふふふふふ……決して、逃がしませんよ。……リク先輩」
殴った壁が、轟音を響かせながら瓦解する。
そんな只中でローズは、懐から一つの『押し花』を取り出すのだった。
「貴方の隣にいるべきなのは、僕以外にあり得ないんですから……!」
そして口角を吊り上げ、くつくつと笑い始める。
リクの想像もしない場所で、まったくの想定外の事態が起ころうとしていた……。
――
短いですが、これで第2章は終わり。つなぎの回でしたね。
そして、作者は書きながら思いました。
この世界にも、ドッジボールってあるんだ……と。
面白かった、続きが気になる。
そう思っていただけましたら作品フォローと★評価など。
応援よろしくお願いいたします。
※すみません。一日休みます、明日からまた更新で。
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