第8話 スキル、駄目。絶対
色々あったが、俺の疑いは晴れた。
あの男性も納得して帰って行ったし、これで俺達はただの人間だと証明された訳だ。
しかしながら、未だ支部長と受付嬢さんに捕まっている。
何故だ、無実なのに。
そもそも魔族やら魔人ってなんだよ、ゲームにはそんな種族なかったぞ。
ある意味デーモンとかが魔人の分類なのかもしれないけど、詳しくは知らない。
アイツ等、弱いし。
「連れ回して悪いが、君達の実力が見たい。ココが修練場だ、一度全力を見せてくれないか?」
だ、そうで。
支部長が用意したのか、天井の無い広い会場には数名の冒険者達が。
あらま、何かみんな強そうな雰囲気ですけど。
厳つい方々が、適当に整列しながら待っているではないか。
「あれだけ魔石が集められる実力者なんだ、長年を掛けて溜めた……という訳でなければ、彼等が適任だと思ってな。構わないか?」
構わないか? と言われましても。
彼等が誰なのか分からない上に、めっちゃジロジロ見て来ますけど。
いやまぁ、現状俺も所どころ露出ある鎧姿だし? イズやダイラも居るから仕方ないけど。
見るなよ、ニヤケ顔キモイぞ。
そんでもって、男の視線が胸に行く時は大体分かるって言葉を、身をもって理解した。
なるほど、こりゃ分かるわ。
中身が男だから、同情もするが。
「それぞれの適性に合った人物と一対一で戦って貰いたいんだが、良いか? この結果によって、君達に合った仕事を任せる事になる。本気でやってくれ」
「この結果……えぇと、レベルとかランクとかではなく?」
はて、と首を傾げてしまった。
だってこういうのって、大体そういう言葉が付きまとうんじゃないの?
あ、でも鑑定が無いって言ってたから……どうなるんだろう?
未だ分からない異世界ルールに振り回されっぱなしだが、受付嬢さんが此方に近付いて来て。
「えぇと、ランクという意味ではギルド内での評価がそれですかね。仕事の成果、依頼者からの評価などで変動します。しかし一般に公開される事はありません。そしてレベル……という意味では、大都市に比べれば流石に低いと言う他ありませんね。しかしこの辺りにも大型の魔物も出ますから、他の街よりかは“レベルが高い”と言って良いと思います!」
フンスッと拳を握って語ってくれた訳だが。
違う、そうじゃない。
ランクは基本的に内申点というか、会社からの評価。
そしてレベルに関しても、ギルド全体の話であり個人の話ではない。
え、あれ? これってもしかして、本当にそういう概念そのものが無い?
インベントリは開けても、ステータスが開けない理由ってマジでソレ?
数字化出来ないのであれば、当然そんなものは無いだろう。
あ、ありゃ……これはマジで、ギルドはフリーランスの集まりって認識の方が良いのかもしれない。
もしくは日雇いのアルバイト。
良い仕事をすれば、良い仕事が回って来る。
そして有名なパーティでも生まれれば、そのフリーランスを統括する組織の評判も上がるみたいな。
だとしたら、俺等の能力ってどんなもんなの?
ゲームでは一応全員レベルカンスト、能力値も限界まで振り、スキルツリーも無駄なく振ったつもりだ。
だからこそそれぞれの能力は尖っているが、パーティとしては補い合える。
更には武装の類は本当に長い時間を掛けて集めた&強化した訳だし……。
でも、これって。
「戦ってみないと、俺等の能力分かんないって事?」
「えぇと、普通……そうじゃありませんか?」
ですよね、すみませんでした。
インベントリが唯一のチートって考えて良さそうだ、それ以外は確かめる術もなし。
こりゃ覚悟を決めて、対戦相手をぶちのめすってのが一番分かりやすい評価方法になりそうだ。
仕事を得る為にも、俺達の実力を計る為にも。
「では、始めようか。最初は誰が良い? こちらの人選ミスがあれば、遠慮なく言ってくれ。対戦相手を変える。多少怪我をしても、回復術師にも来てもらっているから安心してくれて良い」
そんな言葉を洩らす支部長の視線は、非常に真剣。
適当にやる事なんぞ許さねぇぞって言ってるみたいだ。
だったら。
「いつもだったらイズに初手を頼む所だけど……」
「了解した、リーダー」
そう言って、軍服姿のイズが前に出る。
まだ戦闘自体やった事無いので、いくら何でも先に行けと言い辛かったのだが。
イズは気にした様子もなく、いつも通りの雰囲気で対戦相手の元まで近づいて行く。
すると相手も一人踏み出し、イズを見ながら笑っていた。
「君、前衛って聞いたけど……その恰好で戦うのかい? 武器は? 新人を怪我させるのはちょっと気が引ける――」
「心配無用だ、今準備する」
相手の言葉をキッパリと遮ったイズが目を閉じれば、その姿は見慣れた赤い鎧に変化していく。
はっきり言えば皆が皆、趣味を前面に押し出したパーティなのだ。
珍しい装備を集め、性能がガン上げして。
その結果、随分とカラフルな四人組が出来上がってしまった訳だが。
「“焔の剣”、なんて恥ずかしい名前で呼ばれた事もあったが……本気でお相手する。一応魔法剣士だ」
それだけ言って、イズは両手に“魔剣”を構えた。
やばいやばいやばい、マジで恰好良い。
むしろゲームの時よりも恰好良い構えって事は、リアルで剣術とか習っていた口だろうか?
見ているこっちがゾクゾクしてしまうほど、今のイズは格好良かった。
細い見た目の全身鎧に、兜の奥からは輝く赤い光。
更には双剣と来たもんだ。
もうこんなの主人公でしょ。
なんて、一人興奮していたのだが。
「あ、あの……さ、クウリ。これ……大丈夫かな?」
「うん? 何がだよダイラ」
やけに心配そうに此方を覗き込んで来るダイラが、ヒソヒソと耳打ちして来た。
お前ゲームの時と違って行動と言動が清楚なんだから、そういうの止めろ。
とか、冗談でも言おうとしたんだけども。
「よく考えたらさ……ゲーム終了間近って、全レイド&ボスの解放とかしてたじゃん? だから多分、今のイズの装備って……」
しまった、忘れていた。
終了間近のイベント、なんて言いながらコレは数ヶ月続いた。
だからこそ、アイツが装備している武具やアクセは……常に最高火力が叩き出せる様にしたもの。
隅々まで計算し、イズの能力を最大限に伸ばせる組み合わせになっている。
簡単に言うと、ボス相手でもイズ一人で前衛攻撃が間に合ってしまう程の。
「イズ! 待った! ソレ人間相手に使う装備じゃ――」
「始め!」
叫んでみたが、遅かった。
「はぁぁぁっ! 怪我しない様に、しっかり防――」
「スキル、“残影”」
イズが二本の長剣を振った瞬間、姿が掻き消え。
相手がピタリと停止したかと思えば、再び同じ場所にイズが出現した。
あっ、コレ……ヤバイ。
「あ……れ? 鎧も普通に刃が通った? それに、ノックバックが発生しない? 牽制の攻撃だぞ、コレ」
攻撃した本人もポカンとしているが、コレは不味い。
実力を計る為にはこれしかないというのはあるが、あまりにも火力が高すぎたのは明白。
「ダイラ回復! 急げ! 死者蘇生魔法! このままだと相手はサイコロステーキに変わるぞ!」
「わ、分かった! “リザレクション”!」
変態シスターが魔法を使った瞬間、空から光が降り注ぎ相手の事を照らしていく。
頼むぅぅ、頼むから有効であってくれぇと願いながら掌を合わせていれば。
「クウリ……不味い」
「なんだよ……イズ」
不安そうな声を上げるイズが、こちらに振り返って来て。
そして、更なる絶望を告げて来た。
「まさかこんなにも刃が通るとは思わなかったのと、スキルを使うと手加減が出来ないみたいだ。それから完全に使う武装の選択ミス……このままだと彼、復活しても燃える。追加効果で……」
「火葬すんな馬鹿ぁぁぁ! あぁクソ! “ドレイン”で燃える前にお前が放った魔力を吸収して――」
「クウリ! 相手がちゃんと復活してからじゃないと、俺の回復魔法の魔力も奪っちゃうよ!」
「ずわあぁぁぁぁぁ! 面倒クセェぇ!」
と言う事で、イズの斬撃によりバラバラになりそうだったお相手に対し。
彼が燃え始める前に蘇生&魔力の全吸収が目的となってしまった。
いやいやいや忙しいわ! 蘇生が間にあっても、俺が遅れたらアイツ燃え始める……あぁぁぁ! ヤバイ燃え始めた!
「ダイラ!」
「もう大丈夫、の筈!」
「信じるからなぁぁ!?」
思い切り前に飛び出し、怖がられた角と翼も装備してから相手に向かって杖を向け。
「敵味方関係なく奪う! 空間拡張、広域化! “ドレイン”! 周りも燃えてくれるなよぉ!?」
イズが残してしまった魔法の残滓と、相手の体内にある魔力関係なしに。
情け容赦なく、それこそ根こそぎ奪い取りに掛かるのであった。
多分それくらいしないと……イズの斬撃に残る効果を消せないので。
あぁもう、このパーティリアルだと滅茶苦茶だよ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます