第7話 我々は、ニンゲン、デス
と言う事で、とりあえず脱いだ。
変な意味ではなく、ローブを。
「あぁ~えぇと? 軍服に学生服に……そっちの小さい子は、何だ。動きやすそうな恰好だな。それから……ゴホンッ、シスター。貴女も教会に身を置く存在であれば、その様な格好は少々……」
「すみませんすみませんすみません、コレしか無かったんです。今日また魔石売って、お金出来たら普通の服買いますから!」
支部長はあからさまダイラから視線を逸らし、チラッと背後におっさんを見てみれば、思い切り鼻の下を伸ばしていた。
まぁ、ダイラの持っている装備ってこんなのばっかだからな。
まだ“普通そう”なカテゴリーで言えば、何故か水着系がいっぱい出て来たが。
その上にローブだけというのは、流石に変態だ。
いや、今でも変態シスターなのだが。
「そ、そうだ魔石。アレはどこで手に入れたんだ? しかもあんなに大量に」
「えっと、前の所で……普通に戦闘して」
「君達は皆術師なのか? 随分と細いが」
すみません、純粋な攻撃術師は俺だけです。
そんな訳で、それぞれの役回りを説明したら支部長酷く驚かれている御様子。
ちなみに、トトンがタンクだという事を一番驚いていた。
ま、ですよね。一番小さいからね。
「とてもではないが信じられんな……まぁ実力は後で見せてもらうとして。そちらの男性が言っている事はどうなんだ? 角と羽が生えていたというのは」
ようやく最初の問題に戻って来た。
とはいえ、コレが一番問題なのだが……頼むから、指輪の時みたいに外れてくれよ?
「あ、その前に。こっちじゃインベントリ……アイテムボックス? えぇと、収納魔法? の類ってありますか?」
コレだけは聞いておかないと、後々また面倒に巻き込まれたら困る。
「インベン……何とかは聞いた事がないが、アイテムボックスと言えば、取り扱いが難しい魔道具を補完する箱だな。収納魔法はかなり卓越した術者なら使える。一般的に大きな物品を持ち運ぶ際、運搬屋に頼るか“マジックバッグ”を使用するだろう? 君達が居た所では違うのか? いったいどこから来た」
日本です! とは言えないので、あとで何かしら言い訳を考えておこう。
しかしまぁ、そう言う魔法があるって事ならインベントリ自体は問題無さそうだ。
むしろ俺達にはコレしか無い。
ついでに言えばステータスも開けないし、自身のレベルや能力値も分からない。
なんて不便なんだ、いやインベントリあるだけで滅茶苦茶助かったんだけどさ。
「え、えぇ~と。これから起こる事は他言無用でお願いしたいのと、こちらも初めての事があるので、何が起きても落ち着いて少し時間を頂けると嬉しいです」
「よく分からんが、分かった。君達が誰かを害そうとしない限り、こちらも手を出さないと誓おう」
うし、言質は取った。
と言う事で目を閉じてインベントリを開き、俺が使っていた装備のセットを引っ張り出す。
そんでもって、早着替えっと。
「ふぅ……」
「なっ、なっ!?」
「ホラ! 俺の言った通りだろ!? コイツ魔人だ!」
前面からは驚きの声、後方からは男の叫びと受付嬢の短い悲鳴が上がって来た。
まぁうん、そうよね。
街中とかギルドを見ている限り、こんな装備の人いないもんね。
見てくればかり意識した様な黒い鎧に、捻じれた真っ黒い角。
そして巨大な鉄の翼を携え、ゴッツイ杖を持った女が登場したのだから。
格好良いのになぁ……コレ。駄目かぁ。
ちょっとだけしょんぼりしながらも、杖をテーブルに置き自らの角を掴んだ。
そして。
「よっ、ホッ! あれ、取れねぇ。解除! とか?」
色々試しながら色んな方向に角を引っ張った結果、解除を強く意識した瞬間スポッと頭から何かが取れた感触が。
目の前に持って来てみれば……。
「お、お前……カチューシャだったのか!?」
俺が一番驚愕してしまった。
でっかい角が、どう見ても支えられないでしょってくらい細いカチューシャにくっ付いている。
いやはや凄い見てくれだが、やっぱり恰好良いな、角。
しかもこの装備なら、やっぱり角と翼は欲しいよ。
「あ、あぁ~えぇぇと? 装飾品だった、と言う事か? 魔道具? 何か特殊な効果があるのか? それで、えぇと、翼の方は……さっきから仲間達を押し退けているが」
え、マジで?
今更ながら左右に視線を向けてみると、確かに俺の翼が出現した事により、相当な被害が出ていた。
「今騒ぐのは不味いと思って……その、クウリ。少しだけで良いから、前に出てくれるか? 痛い」
「つ、潰れ……る」
「俺は既にダイラのおっぱいに潰されてんぞー」
三者三様、ソファーに押し付けられているではないか。
正直、すまんかった。
こういう所でも、実体があるとデカイアクセは邪魔になるんだな。
「すまん皆。あともう一個ゴメン、翼引っ張ってくれる? 多分“解除”~みたいに念じながらだったら、こういうアクセも取れるみたいだ」
そう言って少し離れ、皆に背中を突き出してみれば。
「コレめっちゃ重そうだよなー。外した瞬間ズドンッ! とか来るんじゃね?」
「あぁ、確かに。装備者以外には重量が来るかもしれない。皆で支えた方が良いな」
「ぜ、全然自信無いけど……クウリの翼を壊しちゃったら不味いよね。コレもレイドドロップだし、俺も手伝うよ」
何やら色々言っているが、全員で支えてくれたらしいので、皆が羽に触れた所で“解除”と念じてみれば。
「なっ!? 重っ!?」
「ぶはははっ! クウリめっちゃ力あるじゃん! こんなのいつも背中に付けてんの!?」
「ちょ、無理! 無理だって! 床! 一回床に置くよ!?」
どうやら装備者から外されると本来の重さに戻るらしく、皆して物凄く苦労しながらも床に広げられた俺の羽。
あ、もしかしてコレ装備条件のペナルティか?
レイド戦でどうしても手に入れたくて皆を連れました挙句、随分な時間を掛けて手に入れた装備品。
確かレベル制限の他にも、俺の使っているヤツは闇魔法系のスキルレベルが上がってないと装備すら出来なかった筈だ。
イズが大きく振り分けてあるのは“炎”、トトンが“無”。
そしてダイラが“性”……じゃなかった、“聖”。
そこが原因なんじゃないかと思って翼を持ち上げてみれば……うん、普通に俺なら片手でも持ちあげられる。
「アクセの装備条件のせいだな。悪い皆、ありがと」
「「壊さなくて良かった……」」
「おー、クウリのゴテゴテしてない鎧姿。なんか違和感凄いよねぇ」
とりあえず全部パージ出来た。
ふぅ、スッキリ。
いや別にスッキリはしてないか、俺には重さとか感じなかったし。
むしろスースーするわ、現状アクセを外した影響で能力値も下がっているだろう。
と言う事で振り返り、支部長に笑みを向けてみれば。
「これで、証明できましたか?」
「あ、あぁ……その、なんだ。全て魔道具だった……と言う事で良いんだな?」
思い切り営業スマイルを浮かべた筈なのに、おかしいな。
相手からは引きつった笑みと、ドン引きした雰囲気が伝わって来るのであった。
おいコラ、俺のキャラ可愛いだろ。
スマイルサービスしてやったんだから、もっと喜べよ。
せめて引かないでくれ、頼むから。
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