第5話 変化が多い


「あぁぁ~……意外と、眠れた」


「お? クウリ、おはよう」


 何とか宿屋を見つけ、無事宿泊する事の出来た俺達。

 周囲を見回してみれば、イズは既に起きていた様で着替えも済ませていた。

 とは言え、俺等の着替えってインベントリからの装備変更だから一瞬なんだけどね。

 この辺はゲームの仕様と同じで助かった、だがしかし。


「おっすー。しかし、慣れねぇなぁ……女の身体。不思議と嫌悪感はないけど」


「それは確かに、風呂とかトイレでも何か気まずいし。こうして仲間達を見るのも、ちょっと気恥しい気持ちになる」


「落ち着いてる様に見えて、イズでもそういう事考えるんだなー」


「そりゃまぁ中身は男だから。とはいえその程度で済んでるんだから、精神的にも何かしらキャラの影響が出てるのかもな。トトンはともかく、男の状態だったらダイラは……ちょっとな」


 言われて二人の姿を確認してみれば、確かに破壊力が高い。

 中身を気にしなければ、絶世の美女が若干着崩れしながらスヤスヤ眠っている光景が広がっているのだから。

 寝間着なんぞ持ってないので、皆どうにか寝られるだろって恰好に変更したのだが。

 どうしてコイツはネグリジュやら何やらを持っているのか。

 そんなもんネタエロ装備な上に、ガチャでしか排出されないんだが。

 俺なんかろくに普通の装備が見つからず、イベントで配布された学生服なんぞ来ているのに。

 そして、トトンに目をやれば。


「コイツは、何と言うか。気を使わなくて楽だな」


「トトンは何処にいってもトトンだよ、ホント」


 ちびっ子だけは随分と過ごしやすそうな恰好をしている。

 “体操着”、というか学校ジャージ。

 俺が着ている学生服と同じイベントで配布された物だが……とっときゃ良かったなぁ、寝間着にもなりそうだし。

 なんて今更言っても、配布イベントも無ければガチャを回せる環境も無いのだが。

 唯一の所持者は、腹出して寝てる。寝相わっる。


「クウリ、今日はどうする?」


「んー、色々と調べておきたい所だけど。まずはインベントリの整理からかなぁ、必要な物と売れそうな物だけでも選んでおきたい」


「だな、それじゃ俺の方も漁るよ」


 そう言ってから、二人して目を閉じた。

 まるで瞑想でもしているかの様な見た目になってしまうが、こうしないとインベントリが確認出来ないので仕方ない。

 転生系のお話であるみたいに、空中にウィンドウとか出て来てくれれば楽だったのだが。


「ま、何はともあれ魔石は売りだよなぁ……どれくらい売って良いんだか、よくわかんないけど」


「昨日の数でも驚かれていたとなると、いっぺんに売りに出すのは控えた方が良いだろうな。地道に売るのも面倒だが……他の場所でも買い取って貰えないか、調べてみようか」


 カンスト組の俺等にとっては、魔石などもはや倉庫の肥やし状態。

 ゲーム内では、経験値としての役割を果たしていた魔石。

 途中からいちいち売却するのも面倒くさくなり、とんでもない数が溜まっていた。

 こちらの世界では色んな道具の燃料的扱いの様で、売れたのは助かったが。

 とまぁそんな訳で、各々のインベントリを漁っていく訳だが……うん、やっぱどれが売れるかなんて全く分からないな。

 換金アイテムの金塊とかは普通に売れるだろうが、どこで売れば良いんだろう。

 もう一度冒険者ギルドに行って、色々と教えてもらった方が良いかもしれない。


「……あれ、二人共早いねぇ。おはよ~」


 何やら寝ぼけた声が上がり、思わず瞼を上げてみれば。

 物凄く着崩れ状態のダイラが、未だ眠そうに目を擦りながら半身を起こしていた。


「おはよーさん。とりあえずダイラ、隠せ隠せ」


「男同士だと分かってはいるんだけど、目に毒だから」


 俺達に何を言われたのか一瞬理解出来ていなかったのか、はて? 首を傾げたが。

 しばらくして理解したらしく、すぐさま装備を変更していくダイラ。

 メイン装備よりもマシな修道服……なのだが、それも例の如く露出が少ない訳ではない。


「あぁ……そうだったね、ごめん二人共。完全ゲーム中に寝落ちしただけの気分だった……」


「ま、慣れるまでは仕方ないわな。俺も現実感ないし」


 などと言ってみたが、こう言う服を身に纏っても嫌悪感とかないのは、やはりキャラ自体が何かしら影響しているんだろうな。

 元の姿だったら、スカート? マジで? ってなっていただろうに、全然違和感ないし。

 とはいえこういう普通っぽく見える装備って、キャラをコスプレさせて楽しむ程度の需要しか無かったのだ。

 相当強化すれば話は別だが、ネタ装備の意味合いが強い為軒並み能力値が低い。

 だから、あんまり持ってない。

 初期の方の装備とかなら、まだそれっぽかったかもしれないが……流石にそんな装備は保管してあるはずも無く。

 縛りプレイする時に使う、ちょい地味なセットが保管してある程度。


「やっぱ服は買わないと駄目だよなぁ……」


「戦闘職を始めるなら鎧でも良いかもしれないけど、私生活を考えるとどうしてもな」


「うぅぅ……戦闘は嫌だなぁ。というか、俺だけ戦闘でも装備揃えないとだし……性欲に忠実だったのが裏目に出た」


 ゲーム内と性格が乖離しているダイラだけは、悲しそうな顔をしているが。

 見た目とのギャップがエグイんよ。

 こんなオドオドしつつ今にも泣きだしそうな顔をしているのに、装備は露出高め。

 コイツだけは、真っ先に装備を整えてやらんと不味いだろう。

 とはいえ、俺も他人の事言えないんだよな。

 メイン装備は所々露出してるし、あの装備はとにかく派手だ。

 魔王少女じゃぁ! なんて言って喜んでいた俺よ、死ね。

 常識的な格好をしているイズならともかく、トトンにも負けているとなると悲しくなって来るわ。

 思わず大きなため息を溢しながら、そろそろ寝坊助を起こしてやろうと近付き。


「おい、トトン。起きろ、異世界生活二日目だぞー」


 適当に声をかけ、ベシベシと頭を軽く叩いてみた結果。

 ものっ凄く眠そうな顔を此方に向けてから。


「んあぁ? あれ、リアルクウリが居る……夢かぁ、ダークネス厨二病のクウリが学生コスしてるしー……」


「引っ叩くぞお前。い い か ら 起 き ろ」


 と言う事で、無理矢理ちびっ子を起き上がらせるのであった。

 何だよダークネス厨二病って、否定できんけども。

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