第4話 登録


 冒険者ギルド。

 そこには様々な人達が集まり、仕事を求める。

 優秀な人材も居れば、他に才能を見いだせなかった者や荒くれ者。

 冒険譚に憧れた若者など様々。

 まさに社会の縮図と言っても良い場所に、本日……普段見かけない風貌、というか顔をフードで隠した四人組が現れたではないか。


「あ、あの……すみません、冒険者登録ってここで出来ますか? あと、身分証の発行も。門番に、今日中に持って来いって脅されちゃって。あっ、今は魔物から獲れる魔石で目を瞑って貰いました!」


 良く分からないが、お金に困っている四人組らしい。

 凄いな、門番が魔石で目を瞑るなんて。

 普通なら絶対不可能だ。

 門番が不真面目だった……という可能性もあるが、あまり考えられない。

 とすると、冒険者に登録すればメリットがあると考えた上で、許可を得た。

 つまり、それだけの実力を示して“仮”の状態で街に入ったと言う事。

 と言う事は兵士さえ黙らせるほどの実力、もしくは戦果があると言う事になる。


「いらっしゃいませ、冒険者ギルドへ。登録にもお金が掛かりますが、大丈夫ですか?」


「出来れば、買い取りから始めて欲しいんですけど……」


 自信無さ気に俯く先頭の少女。

 他の面々を見ても、あまり強そうには見えない。

 全員魔術師というのなら分かるが……あまりにも、華奢過ぎる。

 これで前線に放り込まれたら、すぐさま死んでしまうだろうという見た目。

 だからこそ、彼女達は身分証だけを求めてココへ来たのだろう。

 役所に行くより目立たないから……つまり、訳アリ。

 そう確信付けながら、書類を書かせてみれば。


「これで合っているんだろうか? ……見慣れない文字が書けるって、不思議な感じだな。クウリ、どうだ?」


「間違いなく書けたとは思うけど……おい、トトン! お前は真面目に書け! “職業補正”にも影響が出るかもしれないんだぞ!」


「真面目に書いてるってば! 字が下手なのは元から!」


「か、書けましたぁ……文字とか、間違ってないですか?」


 な、何なんだろうこの人達。

 皆ローブを着ているし、顔も隠している。

 更には、こういう“普通の事”に全然慣れていないと言うか。

 もしかして、奴隷から解放された女の子達?

 だとすれば、世間を知らずで露頭に迷っているのも頷ける。

 もしくは貴族の娘さん達が、身分を隠して皆揃って家出とか?

 そんな想像をしながら、彼女達の事を覗き込んでみれば。


「あ、あの……何か、変でしたか?」


 先頭の女の子が、不安そうな顔を此方に向けて来た。

 フードの奥から見えるのは銀色の髪、紫色の綺麗な瞳。

 その声は鈴の音の様な声色――

 次の瞬間、何やら鼻血が吹き出した。

 何、何この子。

 滅茶苦茶可愛いんだけど。

 思わず鼻を押さえながら顔を背けてみれば、相手は慌てた様子で指輪を外し。


「あぁ、ごめんなさい! そ、そっか! 多分コレだ! フレーバーテキストにも気を付けなきゃいけないのか!」


「クウリ、何を装備していたんだ?」


「……“惑わしの指輪(淫)”。装備してると、数秒間に一度相手のMPを奪えるっていう。ヘイトは上がっちゃうけど」


「つ、つまり……このお姉さんにはクウリが滅茶苦茶官能的に見えた上に、魔力を吸われたって事?」


「クウリは見た目がエッチだからなぁ。だから顔隠しててもジロジロ見られてたんだな」


「るせぇトトン! 死ね!」


 何やらおかしな会話をし始める彼女達だったが、鼻血は収まり。

 タオルで真っ赤なソレを拭い去ったあと。


「し、失礼しました……お嬢さん方、買い取りから先にという話でしたが、どんな物を?」


 良く分からないが、とりあえず何かの衝動は収まったらしい。

 仕事しないと、なんて思っていつもの営業スマイルに戻ってみれば。

 先頭の子がガサゴソとローブの中を漁り始め。


「これなんですけど、どれくらいになります? 登録料とか宿代とか……あぁそっか、街への通行料も払わないと。そのへん賄えるくらいにはなりますか?」


 そういって、ドンッとデカい袋がカウンターに乗せられた。

 いや、何コレ。

 それから、どうやってこのサイズの物をローブで隠してたの。

 頬をヒクヒクさせながら、袋の口を開いてみれば。


「ちょ、ちょぉっとお待ちいただけますか? 今、支部長を呼んで来ますので……」


「うぇっ!? な、何か不味かったですか!?」


 袋の中には、ぎっしりと詰まった魔石の山。

 特大の物さえも混じっている様に見える。

 この子達……本当になんなの?


 ※※※


「全部支払い終わったー!」


「お疲れ、クウリ。ほとんど任せてしまって悪かったな」


「お、お疲れ様。ホントゴメンね、俺リアルだと対人慣れて無くて……」


 やる事やったぜとばかりに、腕を伸ばし街中をブラブラしている俺達。

 実際には宿屋を探しているだけなんだけど。

 もうとっととベッドで横になりたい、疲れた。

 だというのに、トトンの馬鹿があっちこっちの露店に走っていくもんだから中々進めない。


「おいトトン行くぞ? 飯はまだ後だ、先に宿見つけるぞー」


「なぁクウリ! これ何の肉かな!? すげぇ旨そうな匂いする!」


 聞いちゃいねぇ。

 前からテンション高い奴だとは思っていたが、今では見た目の事もあり完全にお子様にしか見えなくなってしまった。


「でも、色々と調べていかないと不味いな……インベントリが使える事が分かったのは良いが、まさか金が使えないとは」


 クッと苦い声を上げる大豆豆。

 とはいえそのまま名前を登録したら、「お前ふざけてんのか」って言われそうだったので“イズ”という名前になった。

 贅沢な名だねぇ、ダイズマメ? 今日からはお前はイズだ! わかったかい!? ってヤツだ。

 偽名って疑われても不味いので、ソレっぽくした訳だが。


「で、でもいきなり戦闘とかは無理だよ? すぐ街道に出られたから良かったけど、あの森でさえ怖かったんだから」


 やけにビクビクしているダイラ。

 こいつも正式名称で登録しようとしたら「馬鹿にしてんのか?」ってなっただろう。

 名前が“大淫乱お姉さま”だもんな……なので今日からコイツは正式にダイラになった。

 まぁゲーム中でもそう呼んでいたので、あんまり違和感はないけど。

 という訳で色々問題は解決した訳だが、その他の問題は未だ山積み。

 イズの言う通り、インベントリが開ける事が分かり感動したのも束の間。

 金の種類が違ったのだ。

 門番に見せたら「どこの硬貨だ?」って普通に言われたし。

 単純に素材として売りに出したり、溶かしたりして金塊には出来るらしいが……自国にバレた時に犯罪になりかねないから止めておけって門番に言われてしまった。

 そんな訳で、溜まりにたまった魔石を売りに出した訳だが……こっちは共通の物があったらしく、売れて良かった。

 そしてダイラのずっと言っている戦闘に関して、コレに関してはマジでどうしよう。

 物を売ってずっと街に居るってのも考えたけど、どう考えても怪し過ぎるし。

 そもそもゲームに居たモンスターがこっちに居るのかも分からないので、変な素材とかは出さない方が良いだろう。

 一応カンスト組だから、アイテム自体は多いのだが……売れんのかなぁ、コレ。

 ついでに言えば、装備の問題も発生している。


「メイン装備使えないのは痛いよなぁ……というか、私生活を考えれば普通の服が欲しい」


 俺の本気装備はマジでNG、馬車の人も悲鳴を上げて逃げてったくらいだしな。

 羽とか角とか生えていると、一目見ただけで問題になるらしい。

 まぁ当たり前か、いくらファンタジーな世界に来たからとはいえ。

 周りを見ても普通の人ばっかだし。

 鎧を着てる人が歩いてたりするのは、まさにって感じだけど。

 そして俺に比べて皆の装備は……ダイラを除けば、まだセーフと言ったところ。

 厳つい上にやけに綺麗な見た目の鎧なので、目を引いてしまうかもしれないが……一応鎧だし。

 問題は色んな意味で目立つ格好をした二人。

 一人はドエロシスターで、もう一人は魔王かって感じのゴテゴテ装備の俺。

 派手派手な俺達は当然の事として、目立ちたくないという理由で今は全員メイン武装を解除した状態。

 インベントリから普通に見えそうな物を探した結果……生憎とゲーマーなんぞ趣味に走るもので。

 今ローブの下は、それぞれバラバラのおかしな格好をしているという状態になっている訳だ。

 まぁ街中でどんな恰好するのが普通なのかも分からなかったので、とりあえず私服っぽい物をチョイスしたのだが……砂漠地帯で使うローブ、取っておいて良かった。

 コレが無かったら頭のおかしい仮装集団が出来上がっていた所だぞ。


「ま、まぁ考えるのは後にして今日はもう休もうよ。トトンも何か買ってあげれば大人しく付いてくるんじゃない?」


 ダイラの声にため息を洩らし、走り回るちびっ子を追いかけるのであった。

 ほんと、何なんだろうねこの世界。

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