第2話 バランスの崩壊


「ひ、ひとまず色々確認しよう。こういうのって、アレだろ? チート貰ってたりとか、ゲーム能力引き継いでたりとかするだろう!?」


 そんな声を上げてみれば、各々あたふたし始めてはいるが。

 コレといって、確かめる術は無い様で。


「姿形だけゲーム同様にされて、中身は普通。とかだったら流石に不味くないか? どういう世界なのか知らないが、ゲーム通りなら絶対に戦闘が発生するぞ。むしろ肉体的には、弱体化と言っても良い」


 真っ青な顔で恐ろしい事を言い始める“大豆豆”。

 確かに、ソレはヤバすぎる。

 というか戦闘なんか出来るかよ、これまで平和に生きて来た人間だぞ。


「いやいやいや! 無理だって! リアルで戦闘とか、俺には絶対無理! むしろゲーム内でもテンパるから後衛回復職やってたのに!」


 続く大淫乱お姉さ……もういい、ゲーム内とテンションが違い過ぎるのでいちいち名前を呼ぶのが面倒臭い。

 “ダイラ”も慌てた様に声を上げた。

 そうだよな、肉体能力はそのままで姿を変えられていた場合。

 俺達は絶望的、というか絶体絶命も良い所だ。

 多分この身体、見た目的には前の俺より体力なさそうだし。

 他の皆だってそうだ。

 大豆豆は鎧を着ているものの、中身は俺達同様女性の姿になっている。

 しかもあの鎧を脱げば、モデルかってほどの美人が出てくるのだ。

 ダイラに関しても同様。

 普段はふざけた態度と、あの肉体を見せびらかす様な行動を取ってはいたが。

 それはネットで、男同士でふざけていたからこそ出来た事なのだろう。

 今のコイツは随分と引っ込み思案に見える上、どう見ても体力など無さそうだ。

 あと一人、居るのだが。


「おい、トトン。いい加減お前も会話に参加しろよ、不安じゃないのか? 今の状況」


「んぁ? まぁ~皆居るし? 何でも良いかなぁって。あとクウリ、上半身だけでも鎧外せない? せっかくの微乳があんま揉めない」


「隙間から手を突っ込みながら何言ってんだお前は……オラ、いい加減離れろ」


 コイツだけは、状況を堪能している様であった。

 まぁ、理解してないだけって可能性はあるが。

 とはいえ、トトンだけはいつも通り。

 本当に、いつも通り。

 ある意味この中では一番頼もしいのかもしれない。


「つっても、マジでどうすっか……信じるかどうかは別として、ゲーム内転生? それとも全く知らない世界? 更にはパーティ全員TSな上に、自分の能力値も分からない。ていうか、俺とダイラなんかマジでどうすんだよ。魔法職だぞ、使い方も分からねぇよ」


 もしもコレが本当に予想通り、ゲームや他の世界への転生とかふざけた状況だった場合。

 更には戦闘が発生する場合、俺は……どうしたら良い?

 大豆豆とトトンは、魔法剣士とタンクだからまだ良いのかもしれないが。

 俺とダイラは完全魔法職なのだ。

 こっちが攻撃魔法専門で、ダイラが回復と補助。

 ゲーム内ならバランスも良く、能力を計算しながらカンストまで持って行ったから、かなり有能なパーティだったのだが……。


「とりあえず、使ってみりゃ良いんじゃない?」


 未だ此方の乳を揉みながら、声を上げて来るトトン。

 なるほど確かに、とでも言うと思ったかバカタレ。

 使ってみるったって、どう使えば良いのかすら分からないってのに……。


「ホラ、このゲームって“詠唱”とか無かったじゃん? スキルとして使って、ズパーンってやった後にリキャストタイム。それだけっしょ? だったら、キャラのモーション真似して技名叫べば何とかなるんじゃないの? 良く分かんないけど」


 ほぉ、なるほど。

 ソレは試してみる価値があるかもしれない。

 そんでもって、スキルとして一番派手な効果を発生させられるのが俺。

 トトンの憶測が正しいのなら、俺はこのキャラのスキルを使えるって訳だ。

 まぁ、失敗したら一番恥ずかしい思いをするのだが。

 とはいえ一応、俺はココのパーティリーダーを任されているのだ。

 ならば、やるしかあるまい。

 と言う訳で立ち上がり、掌を仲間の居ない方向へ構えた。

 背後からくっ付いている鬱陶しいのにそのままに、魔法初挑戦という情けない形にはなってしまったが。

 それでも。


「“プラズマレイ”!」


 俺が一番多用していた魔法が、コレ。

 ゲーム内ではレーザーが何本も照射され、結構遠距離まで届く範囲攻撃技。

 それなりにMP消費も激しいが、攻撃力は髙い。

 そして何より見た目が恰好良い。

 こちらのパーティが少人数だからこそ、仲間を巻き込む事無く乱発出来た大技なのだが。


「「「……」」」


「うっひょぉ~相変わらず大火力だねぇ、クウリの攻撃は」


 一人だけ楽しそうな声を上げているが、皆……黙ってしまった。

 出たのだ、なんか。

 俺の周辺に青い光が発生したかと思えば、指示した方向にレーザーを照射した。

 だが、その……何て言うか。

 威力が、ヤバイ。

 周りには鬱蒼としていた森が広がっていたのに、俺が魔法を放った先だけ森が抉り取られている。

 しかも、結構先まで。

 森に道が出来ちゃった、しかも森の出口が見えた。ヤッタゼ。

 なんて、言えれば良かったのだが。


「クウリ……高範囲系の魔法は……しばらく封印しよう」


「嘘嘘嘘っ!? マジで使えるの!? だとしたら今のクウリ、個人で殲滅兵器じゃん! こっちのスキルと比べてもヤバすぎるって!」


 大豆豆とダイラが、震えながらそんな声を上げた。

 でも、気持ちは分かる。

 俺も今、同じ気持ちなので。

 これってさ、超極大範囲の大魔法とか使ったら……どうなるの?

 フィールドを一掃してやるぜぇなんて言って、気軽に使っていたけど。

 あの時は、仲間にダメージ判定が無かったのだ。

 ヒットモーションは出てしまうので、何度も巻き込んで怒られた記憶もあるが。

 でも、今はどうだ?

 現状俺達は肉体を持っており、このレーザーに試しに触れてみろとは言えない。

 本当に死ぬかもしれないのだ、言える訳がない。

 だとすれば、だ。


「な、なぁ……俺達。滅茶苦茶バランス悪いパーティになってないか? 特に俺と大豆豆。広範囲攻撃、結構多いよな……」


 この世界は良く分からないが、とにかく。

 仲間を巻き込む可能性が大いにある、とんでもないパーティが爆誕してしまった事は確からしい。


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