自キャラ転生! 強アバターは生き辛い。

くろぬか

1章

第1話 サービス終了後のログイン


 とても長い時間を費やして、やり込んだオンラインゲームがあった。

 “ユートピアオンライン”という、あまり目立つ名前ではなかったが。

 それでも「どんな自分にもなれる」という振れ込みに嘘はなく、出来る事の幅が非常に広い。

 この魅力に取りつかれた多くの人々で賑わっていたVRMMORPG。

 スキルツリーも膨大であり、プレイヤーの方向性によって同じ職分でも個性が出て来る。

 本当に“ただ一人のプレイヤー”になれる上、レベル以外に上限と呼べるモノがない様なゲームだった。

 細かい所まで追求して、悪い言い方をすると時間と金を掛ければ、たった一人で軍勢を相手取る事だって可能になるという。

 ひたすら仲間達とやり込んで、レベル上げや武装の徹底的な強化、スキルツリーを何度も繰り返し見直して。

 メンバー全員で話し合い、個々の能力の振り方さえ相談しあって。

 かなりの装備を揃えたし、対人戦でも結構な成果を残してきた。

 けどそんなゲームでも、サービス終了が告げられてしまった。

 仕方のない事だ、どうしたって。

 長く続いたゲームだったとしても、こういう瞬間はいつか訪れる。

 それは、分かっているのだが。


「あぁぁ……こんなに金と時間を掛けたのに、終わりかぁ……」


 はぁ、とため息を溢してみるが結局の所何も出来ない。

 当然だよな、此方は所詮プレイヤー。

 経営に関しては、口を出せない“お客様”でしかないわけだ。

 そんな事を思いながらもサービス終了のカウントダウンを見つめる。

 まぁ、駄目だよね。

 プレイする側ってのは、基本的に我儘なのだ。

 作る側の事を考えず、自分勝手な事ばかりを言葉に残す。

 それは今の俺も一緒、分かってはいたのだ。

 だからこそ、大人しくカウントダウンを眺めた。

 オープンチャットでは様々な言葉が飛び交っている。

 感謝の言葉や、罵詈雑言などなど。

 ホントに、色々だ。

 コレがネトゲの終わりかぁ、なんて思いながら。

 俺も最後に一言くらい、そう思ってチャットツールを開いてみれば。


「お、おかしいな……こんな事言うつもりじゃなかったんだけど……」


 “俺はまだ、やり切ってない”

 そんな言葉を全体に向かって発信していた。

 もはや滅茶苦茶恥ずかしいヤツだ。

 分かっている、何だかんだ言いながら俺が未練タラタラだと言う事は。

 思い切り溜息を溢してから、発言を削除しようとしていると。

 誰かも分からない相手から、返事がきてしまったではないか。

 “まだ、続く。終わらない”

 こっちもこっちで、何を言っているのか分からなかったが。

 だがしかし、徐々の意識は掠れていき。

 “大丈夫、待っている”

 チャットのその文字を見つめながら、此方の意識は完全に無くなってしまった。

 ゲーム中毒者の孤独死、一人暮らしの突然死。

 色々な言葉が頭の中で飛び交う中、再び目を開いた時には。


「……は?」


 周囲には、鬱蒼と茂る森林の光景が。

 いや、マジで何。夢? 俺、ゲームが終わる瞬間を見届けようとしたのに、寝落ちした?

 そんな事を思いながら起き上がると……身体に違和感を覚えた。

 妙に、小さいのだ。

 腕の長さ、脚の長さ。

 それらが記憶と一致しない。

 ひたすらに混乱しながら、自らの身体を見つめてみれば。


「……アバター?」


 視界に映るソレら、とはいえ鏡も無いので見える範囲は限られているが。

 それでも、装備品を見て気が付いた。

 紫に近い黒色の鎧に、赤い模様。

 更に言うなら、ファンタジーゲームあるあるの中途半端に肌を見せた様な鎧の着方。

 脇や太ももが露出している恰好で、チラッと視線を動かしてみれば。

 趣味全開でアバターに装備させていた、竜の翼を象った真っ黒い鉄の羽みたいなのがパタパタと動いている。

 そんでもって、嫌でも視界に入り込んで来る長い銀髪。

 いや、待って。

 これは俺が使っていたキャラが可愛い女の子だから似合う訳で、俺が着ていたらただの変態じゃないか。

 自分の使うキャラだから、ひたすらに可愛さと恰好良さを詰め込んだ訳だが、決して俺がコレを着たい訳ではない。

 コスプレがしたい訳ではないのだ。

 などと思って頭を抱えそうになった所で。


「“クウリ”、クウリなのか?」


 声のした方向へと視線を向けてみると、見覚えのある三人が俺と同じ様に草むらに腰を下ろしていた。

 全身真っ赤でスタイリッシュな装備に身を包んだ、前衛の“大豆豆だいずまめ”。

 こっちは俺と違って完全にフルプレート、恰好良い鎧と女騎士が好きなんだと言っていた。

 更にその隣には見た目が完全ロリ、タンクのちびっ子“トトン”。

 小さい子がタンクだったり、ちびっ子がデカい武器を振り回す姿が良いと言っていたテンション高めのプレイヤー。

 確か中身もまだ若い学生だった筈。

 そんでもって最後に、滅茶苦茶スリットの入った上、動くだけで色々と見えてしまいそうなドエロシスター“大淫乱お姉さま”……うん、通称“ダイラ”が俺と同じ様な姿勢で座り込んでいるではないか。

 名前からしてふざけているが、ネトゲなんてものはそういうモノだ。

 皆、共に長い時間を過ごした仲間達。

 つまりコレは……ネトゲの中?

 いや待て、俺等が楽しんでいたゲームは、先程サービスを終了した筈だ。

 更に言うなら、VRゲームではあったもののこんなに解像度は髙くなかった筈。

 もっというなら、こんなフルダイブみたいな技術は現代にはない。

 つまり、コレは。


「異世界転生ってヤツゥゥゥゥ!? てな感じ?」


 トトンが、どっかのアニメ主人公のテンションを真似して叫び始めた。

 おい、ロリ。

 煩い、あと緊張感が無い。

 もっともっともっと言うなら……非常に、問題が発生しているのだ。


「あの、さ。一旦落ち着いて、話し合おうぜ。これ、すげぇ問題だらけな気がするんだけど」


 うわっ、自分の喉から発せられたとは思えない程高い声が上がった。

 自キャラの声だから聞き慣れてはいるが、ちょっと感覚のズレが気持ち悪い……まぁ、今は話が先だ。

 気にしない、気にしない。


「分かってる、クウリの言いたい事は……凄く、分かる」


 大豆豆が、非常に落ち着いた声を洩らすが……すげぇ、恰好良いお姉さまって感じのハスキーボイス。

 俺のが若干若さを残している感じで、トトンは完全にロリ。

 しかし、煩いというオマケつきだが。

 そして最後に残った面子に視線を向けてみれば。


「あ、あの……俺達って、全員男じゃなかったっけ? なんで皆アバターのままなの? ……見慣れてるけど、マジで慣れないんだけど」


 そういって恥ずかしそうに視線を背けるドエロシスター、正式名称“大淫乱お姉さま”。

 お前の格好が一番露出も多い上に、目に毒なんだけどな。

 それでも聖職者かと言いたくなる程、すんごい恰好をしている。

 まぁ、ゲームでは見慣れていたけど。

 というか俺も、やっぱりアバターのまんまなのか。

 女装した変態にならずには済んだ。

 でも……。


「問題だらけだな……勘弁してくれよマジで。コレ、ゲーム内とかじゃないよな? 夢でも無いよな? 皆自分の頬をつねってくれ」


「ちょっと待ってくれ、兜外さないと。うん、普通に痛いな」


「いやうん、痛いね……というか、夢の事を願うけど。ゲームではありえないでしょ、こんな再現度」


「おぉ、ちゃんとおっぱいあるぞ。俺のは小さいけど!」


 一人だけ別の場所を触っているらしく、鬱陶しいロリはシカトしておいた。

 とりあえずまぁ……なんだ。

 色々と思考を放棄した状態で話を進めてしまうと。


「俺達……ネトゲの世界に入った?」


「「ま、まさかぁ……」」


「ねぇクウリのも触らせてー、この中で二番目に貧乳なんだから」


「てめぇは黙れ、マジで。状況分かってんのか、トトン」


 俺の背後に回って鎧の隙間から手を突っ込み、ひたすらに乳を揉みしだいて来るトトン。

 コイツだけは、本当にゲーム中とテンションが変わらないな。

 まぁソレは良いとして、本来ない筈の部位をちびっ子に揉まれている感触はある。

 つまり、肉体として正常に感覚があると言う事。

 そこら辺の草を触ってみてもしっかりと感触が返って来ており、現実じゃないと言われた方が納得出来ない程。

 つまり、やはり。


「俺等……マジでゲーム世界に放り込まれた?」


 ありえないんだけど、ラノベかよ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る