「キスひとつ」ドキリ弾んだ心臓よ 大将の「あいよ」で我に返る

「紀本君、お疲れさま。……みんなは?」


「えっと、今日は俺たちだけです」


 なんと、推しとサシ飲み⁈

 紀本君が、はにかむように答えたのにも「何、何なのっ」と、超動揺しているけれど表には出さない。


「私と、2人……どうしたの? 何か相談事かしら?」


 頼もしい先輩らしく答えられたと思う。

 

「……大野さんには本当にお世話になっているので、一度御礼をしたかったんです」


「そんな、いいのに。チームなんだからお互い様だよ」


「いいえ。初異動だったので、様々なフォローや細やかな声かけに助けられてました」


 ……構い過ぎた訳じゃないよね。




 お寿司は絶品だった。

 見目麗しい鮪の赤身は味も香りも最高!


「この店、白身も美味しいですよ」


 鯛、平目、どれにしようかな。


「キスひとつ」


 キス……。

 彼の唇、触れたらどんな……。


「あいよっ!」


 大将の景気のいい返事にハッと現実に戻ってきた。

 危ない危ない……。


 キスは、柔らかく上品な味わいで、とても美味しかった。

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