社長室 口角上げていざ行こう 君の作った資料を持って

 重役説明は何度経験しても慣れない。

 新規のプロジェクトを通すには避けては通れないのだけれど、あの黒っぽいスーツに身を包みずらりと並んだ難しい顔のおじさま達を前にすると、変に緊張が高まってしまう。

 

 質問されるのは怖い、でも何の質問もないと興味を擽れなかったんじゃあ……と落ち込む。


 準備は充分したんだもの大丈夫。

 どんな質問だって、きっと。


 声が震えないように、噛んだりしないように、誤魔化し笑いをしないように。

 アドレナリンを出しつつも、「平常心」と唱えながらいつもその場に挑む。


 いざ。

 社長室に併設されたミーティングスペースでプレゼンへ。

 ぐっと抱きしめたパソコンには紀本君が作成した資料が入っている。

 消費者の行動や市場動向を、分かりやすいグラフやダッシュボードにまとめてくれたそれは、とても良くできた代物だ。

 

 大丈夫。出来る。口角を上げろ!

 表情は武器だ。

 いくぞっ。



「失礼します」


 扉をノックして、私は重い扉を開いた。


 

 

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