第13話
小さい頃、小学生二年生の秋。君は初めて『帰りたくない』と言った。
学校帰りの通学路。公園のブランコに座って泣いている。
(これは、、、何かあったかな)
「、、、今日の晩ご飯は、オムライスだよ」
「えっ」
オムライスという単語にすぐに反応した。でも、すぐに俯いた。
「う、、、それは、すっごく食べたいけど、、、でも、、、」
陽茉莉ちゃんがブランコを漕ぐ。それに合わせて狐の根付が揺れる。
「きつねさんは、、、お家に帰りたい?」
「え?」
「ひまり、、、家出したい」
一体何処で家出という言葉と意味を覚えて来たのだろうか。
僕は家は好きだよ。あの本棚の匂いも、南向きで温かい君の部屋も、君がよく冒険をしていた古びた匂いのするあの倉庫だって、君の育った場所だから。
「僕は好きだよ。でも、、、君がいないなら帰っても意味ないなぁ」
そっと陽茉莉ちゃんのランドセルを左手に持ち、右手で手を繋ぐ。
「、、、うん」
そうすれば寒くないよ。
それから僕達は行き先もなく歩いた。陽茉莉ちゃんが水溜まりで跳ねたり、塀の上で寝ていた猫と会話を試みていたり、たまたま見付けた花畑で花冠を作ってあげたり、、、。
夜になれば陽茉莉ちゃんを抱き上げてビル街のキラキラした場所まで飛んだり。
「うわぁ、、、。きれい、、、!!」
高台に登り、遠くからビル街を見下ろす。
「ここから陽茉莉ちゃんの家は見えるかな?」
「、、、」
陽茉莉ちゃんはさっきまで興奮していたのに、少し泣きそうになっている。ホームシックかな?
「お家、、、帰りたい、、、」
「、、、」
「でも、ひまりがいたらみんな笑顔じゃないの、、、友達も、先生も、、、」
ひゃっくりを上げながら一つ一つ言葉を吐き出していく。
「お、お母さんが、何で変なこと言うのって、、、泣いてて。だからっ、帰れないよぉ、、、」
そうか、君は、ずっと苦しかったんだね。ごめんね、何もしてあげられなくて、、、。
「陽茉莉ちゃん、陽茉莉ちゃん」
優しく泣いている陽茉莉ちゃんを抱きしめる。
「やだよぉ、、、のあさん」
「陽茉莉ちゃん、泣かないで」
帰りたいけど帰れない。
「陽茉莉ちゃん。目を瞑ってみてごらん」
「目?」
いくよ〜という声で少し慌てて目を瞑る。
「三、二、一」
マジックをかけると、陽茉莉ちゃんの手の中に四葉のクローバーが現れた。
「わっ、四葉のクローバー、、、!」
「四葉のクローバーは周りと葉の数が違うけど、見付けたら嬉しい気持ちになるだろう?他と違うことが、幸せを与えてくれるんだよ。陽茉莉ちゃんは、僕にとって四葉のクローバーだね」
「ほんと?」
「本当さ」
「嘘、ついてない?」
「勿論!」
心の中の寂しさとか不安を僕が全て溶かしてあげるから、だから、、、一人で抱え込まないで。
「、、、オムライス」
グウゥーと可愛らしいお腹の音が聞こえた。オムライスのことを考えて余程お腹が空いていたのだろう。そういえば、まともなご飯は給食以来だったね。
「帰ろうか」
「うん!」
「陽茉莉!!」
家に帰ると、半泣き状態のお母さんは陽茉莉ちゃんを抱きしめた。
「ごめん、ごめんなさい」と、何度も繰り返して陽茉莉ちゃんに言う。
陽茉莉ちゃんは口を開くと、大きな声を上げて泣いていた。
お父さんは警察の反対を押し切って、陽茉莉ちゃんのいそうな場所を泥だらけになりながら探していたらしい。
僕はそっと、陽茉莉ちゃんの頭を撫でた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます