第11話

何時ものように部屋で宿題をしていたら、一階からゴトッて物音が聞こえた。

不思議に思いながら一階の降りると、店から聞こえてくる。我が家は本屋を営んでおり、表通りに面しているのは本棚で囲まれた部屋。

小さい頃から本を読み漁るのが好きだった。ノアさんが持っていた絵本もうちの店で買ったものかもしれない。ちなみに貸し出しや小学生以下を対象とした読み聞かせも行っている。

何かに引かれるように店に入ると、何もいなかった。シャッターも確認したがちゃんと施錠はされていた。

泥棒という単語が脳裏によぎったが、こんな本屋に目ぼしい物なんかないよねと結論を出した。

「陽茉莉ちゃん、こんばんは」

「あ、ノアさん」

いつの間にか隣に立っていたノアさんに、もう慣れてしまっている自分がいる。

「おや、珍しいね。君が夜、ここに足を運ぶなんて」驚いたような、不思議そうな声で言うノアさん。

「ちょっとね、、、」

「あ、この本懐かしいね。まだあったんだ」本棚を物色していたノアさんの手には一冊の絵本。

「君はこの本、大好きだったよね。何時もこれ持ってきては読んで読んでって、、、子供が成長するのは早いなぁ、、、」

不機嫌そうにも、悲しそうにも見える。でも、何時も道りの顔だ。

何だかとても、ほっとした。

昼白色の光が店内を明るく照らす。

はっきりと見えているのに、ノアさんはどこか遠いところにいるような気がして、、、。

「蜃気楼、、、」

無意識に呟いていた。

ノアさんは一瞬固まったが、すぐに笑った。その笑いは、何時も見ている胡散臭い笑みではなく、心から面白いと笑っている時の表情だった。少なくとも私はそう思った。

「そっか、蜃気楼。陽茉莉ちゃんは僕を蜃気楼に例えるんだね。うん、良いセンスをしているね!だが」

そこで言葉を切り、真剣な目をして言った。

「心配しなくても僕が陽茉莉ちゃんの傍から離れることはないよ」

「、、、うん。ありがとう」

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