第4話

「やぁ、おはよう。陽茉莉ちゃん」

部屋の真ん中で堂々と立っていたのは、ノアさんだった。

あまりにも堂々し過ぎていたので、第一声は悲鳴を上げるよりも先に「はぁ、、、、?」という、何とも間抜けな声が出てしまった。

「ど、どうやって入って来たの、、、、?」

「ん〜?窓から?」

ノアさんは相変わらず笑みを貼り付けながら、窓を指差す。二階に登るのはマジシャンでも流石に無理だと思う。うん、人間技じゃないもんね。

「おーい、陽茉莉ちゃーん。どうしたの?」顔を覗いてノアさんが言った。「怖い夢でも見たの?」

夢。

何か大切な夢だった気がするけど、思い出そうとすればする程、思い出せない。

「、、、、分からない」

どうしてだろう、どんな夢かも分からない。

「ふ〜ん。そっかそっか、覚えていないんだ」

少し嬉しそうな声に聞こえた。気のせいだろうか?

「そうだ!陽茉莉ちゃん。マジックを見せてあげよう!」

「マジック?」

「そ、マジック」

ノアさんはハンカチを取り出し、ヒラヒラさせる。

「三、二、一」

パッと勢い良くハンカチを取ると、ノアさんの右手には一本の赤い薔薇。

(凄い、、、、テレビで見たのと同じだ、、、、)

「はい、これは陽茉莉ちゃんにあげるよ」

「あ、ありがとう。、、、、綺麗」

赤い薔薇は三個くらいしかトゲがなかったので持ちやすい。

花瓶に飾ろうか、そんなことを考えていたら「喜んでくれて良かった。いらないって言われたらショックで立ち直れないかも、、、、」とノアさんが冗談混じりに呟いた。

「こんなに素敵な花、流石にいらないって言わないよ」

「君は優しいね、昔から」

「え?」

「何でもないよー」

「じゃ、僕はそろそろ帰ろうかな」思い出したように窓をがらりと開ける。

(本当に窓から帰るの、、、、?てか、何で家知っているの?)

「バイバイ」

ふわりと、ノアさんは浮いた。、、、、浮いた!?

それから重力に引かれるように落下していく。

「ノアさん!?」

慌てて窓から首を出して下を見るが、そこには何もない。

二階から飛び降りたら軽く骨折でもしていそうなものだが、ノアさんの姿は何処にもなかった。


「ねぇ、お父さん。人って二階から飛び降りても骨折しないの?」

「、、、、は?」

お父さんの味噌汁がお椀ごと零れた。それが盛大にズボンを濡らしている。

後で冷めてて良かったと安堵あんどしたのは数分が経った頃だった。

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