第3話
懐かしい夢を追った。その頃は、まだ小学生一年生くらいだったと思う。ずっと、泣いていたっけ。
『陽茉莉ちゃん、陽茉莉ちゃん』
誰?
『陽茉莉ちゃん』
懐かしい声。でも、顔が見えない。
『そんな悲しい顔しないで。辛いなら、泣けば良いよ。僕とお喋りでもしようよ』
何処かで聞いた台詞だと思った。
淡い光が私の周りを回っている。
『ねぇ、✕✕さん、ひまりはおかしいの?』
口が勝手に動いた。拙い日本語。
『可笑しくないよ。ね、陽茉莉ちゃん。学校は楽しい?』
ふるふると首を振る。
名前が聞き取れない男性はそっかと言って、幼い私を抱き締めた。
とても仲が良い関係なのだろう。
『✕✕さんは、ひまりの、そばにいてくれる?』
『うん、いるよ。だから、笑顔を見せて?』
『ひまり、へんなこだよ。うそつきって、いわれちゃうよ、、、、』
『陽茉莉ちゃん。君は今、幸せ?』
『しあわせ?』
『そ、幸せ。例えば、君の好きなショートケーキを食べている時、嬉しいだろう?』
『うん。、、、、じゃあ、ひまりがしあわせなのは、✕✕さんとはなしてるとき!』
そう言うと、男性は悲しげにそっと視線をずらした。まるで、自分じゃ駄目だとでも言いたげな目付きだった。
『駄目だよ。僕は陽茉莉ちゃんを幸せには出来ない』
『でも、✕✕さんはマジック?をひまりにみせてくれるよ!』
『君が望むなら、いくらでも僕はマジックを披露しようね』
微笑んで、マジックにありがちな台詞を口にした。
『三、二、一』
ポンっと空中に現れたのは兎のぬいぐるみ。
くるくると回転するそれは、空中で停止し、ゆっくりと幼い私の手に降りてきた。
『わぁ、うさぎさん!ありがとう!!』
『うん。笑顔になってくれてよかった。もう、悲しくないだろう?』
『うん!』
眩い光を浴びて目が覚める。
何の夢だったのか、思い出せない。でも、忘れちゃいけないような、、、、そんな夢。
兎のぬいぐるみを手に取り、抱き締めたままベッドに転がる。
懐かしい。でも思い出せない。それが虚しくて悲しくて、、、、。
『泣かないでよ、陽茉莉ちゃん』
そんな声が聞こえた気がした。
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