第3話 灰被りの魔女
01
聖女を聖女たらしめる”奇跡”
言葉通り、本来ありえない事象を引き起こす祝祷術で、聖女以外には使うことはできない。
その力を、イザベラは最期に、3回分、俺に刻んでくれた。
これから、マリアーナが成人するまでの3年間、生命線に近い切り札。
「いきなり使っちゃったよ……」
あのままでは、マリアーナにイザベラでないことを看破されていたし、仕方ないことだった。
それは理解しているし、後悔はしていない。
ただ、この先の不安がすごく募っているだけだ。
「………………はぁ」
どれだけ悩んだところで、無茶苦茶な頼みであることは変わらないし、なんだったらイザベラの公務の量も変わらない。
朝から晩まで、公務が詰まっていて、その移動の間も、すれ違う顔見知りらしい騎士たちと会話。
部屋に戻るまで、表情筋のひとつも休まらない。
「灰被りの魔女殿には、まだお会いになられてないのですか?」
灰被りの魔女?
もちろん、知らない相手だが、騎士の様子では、その灰被りの魔女とイザベラは親しいようだ。
それこそ、王都に戻って数日、会っていないのを哀れまれる程度には。
「時間があれば、会いに行きたいのだけど……今、どこにいるか、わかりますか? すれ違えそうなら、がんばってみるわ」
「特に、何の要請もありませんから、おそらくいつも通り、ご自身の研究室に籠っておられるかと」
なるほど。
研究室がわからないな。
詳しく話を聞いても怪しまれてしまうから、この騎士にこれ以上聞けないが、それほど仲が良いなら、会いに行かない方がおかしいかもしれない。
できるだけ、その魔女に早急に会いに行く方法を考えるとして、実は、もう一人会わなければいけない人物がいる。
”クリミナ”という、イザベラの友人だ。
イザベラ曰く、悪友とか、イタズラ仲間に近いそうだが、今回の件で、一番力になってくれるという。
既に、奇跡を一回使ってしまった手前、協力してくれるというなら、早々に接触したい。
イザベラからの情報では、城の隅っこに引き籠っていることが多い。自分と同じ白い髪。
もしくは、紳士的な猫を探せ。
知らない人を説明するというのは、難しいと思うが、その情報で、しかもその人物を知っている体で探せというのは、難しすぎる。
「ちょっといいかしら」
「聖女様!? は、はい。なんでしょう」
「クリミナに会いに来たのだけど、部屋を忘れてしまって、教えてくれるかしら」
正直、少し厳しいかな。と思い始めた、巡礼の旅で、部屋の場所をすっかり忘れてしまったという設定。
しかし、それ以外に聞き出す方法を思いつかず、できるだけ人の良さそうで、以前の事を知らなさそうな若い使用人を狙って声をかける。
「クリミナ……? あぁ、灰被りの魔女様ですね」
どうやら、”クリミナ”と”灰被りの魔女”は、同一人物らしい。
それは、都合がいい。
「お部屋ですね。ご案内します」
特に疑いもせず、案内をしてくれた、本当に城の端に位置する部屋。
案内してくれた使用人にお礼を言って、その扉へ向き直る。
魔法が大して得意ではない自分でも、この扉に掛けられた偽装の魔法はわかる。
というか、ドッペルゲンガーは、偽装や変化の魔法に敏感だからこそ、この魔法の不気味さを感じた。
たぶんだけど、この扉の先には、とんでもない魔力の溢れた空間が広がっている。
だが、それを少しも感じさせない魔法が掛けられている。
固唾を飲み、その扉に手を掛け、力を入れる。
「よく来たな。赤い瞳の君」
異様な程、濃い魔力が循環する部屋の中、薄灰色の髪を持った女が、本来の俺の瞳の色である”赤色”を言い当てながら微笑んでいた。
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