第46話 漆黒の鎌
ロイは悠然と闊歩して来るキマイラへ、リリィはロイの様子を見つつ、エーデルへと向かう魔物を倒していく。
「はあああああああああっ!」
気合の雄叫びを上げてキマイラへと斬りかかるロイだったが、
「うおっ、危なっ!?」
ライオンの俊敏さ、山羊の魔法、死角をフォローする蛇の尻尾による三位一体の攻防に、有効打を引き出せず手をこまねいていた。
さらに、一体のキマイラに肉薄すると、残る二体のキマイラがロイの背後を突いて攻撃してくるので、相手に攻撃を加えるよりも、自身の身を守るので精一杯だった。
「このっ、近付くな!」
一方のリリィも、ロイの援護が受けられなくなった事で多数の魔物に囲まれ、身動きを封じられていた。
「チィッ! どけぇ!」
リリィの危機を察知したロイは、毒を吐こうとしている蛇の尻尾を剣で追い払い、二体のキマイラの間を抜けると同時に、
烈風剣は一直線に飛んでいき、リリィに噛み付こうとした人狼を真っ二つにする。
「わぷっ、ぺっ、ぺっ……あ、ありがとう」
人狼の血を全身に浴びてしまったが、リリィはどうにか魔物の囲いから抜け出し、再び一匹ずつ魔物を屠っていく。
しかし、ロイが無理を押してリリィを助けた代償は安くなかった。
「いぎぎぎぎっ!?」
キマイラの胴の上から生えた山羊が放ったライトニングボルトの魔法が直撃する。
さらに、
「ぐがっ!?」
横合いからの猛烈なタックルをまともに受け、ロイの体が宙を舞う。
「ロイッ! この、邪魔しないでよ!」
リリィはすぐさま倒れたままのロイの元へと駆け寄ろうとするが、魔物の群れに再び囲まれ、身動きが取れなくなってしまう。
「このっ! こっち来ないでよ!」
必死の形相で魔物を追い払うリリィであったが、冷静さを欠いて周りが疎かになっていた。
「キシャアアアアアアアッ!」
リザードナイトの尻尾を振るった攻撃がリリィのダガーを弾き飛ばし、さらに胴を薙ぎ払う。
「かはっ!?」
ロイが受けたダメージほどではないが、全身を強打したリリィは苦し気に呻く。
そして、身動きが取れなくなったリリィを魔物たちが見逃すはずがない。
「い……や…………こな……で」
リリィの懇願する声が、魔物の群れによってかき消されそうになった時、
「……待たせたわね」
闘技場に澄んだ声が響き渡り、一迅の黒い風が吹いた。
「な、何よそれ……」
露わになったエーデルの姿を見たイリスが驚愕に目を見開く。
「フフン、どう? これが私のとっておきの闇魔法、イビルフォームよ」
そう言って艶やかに笑うエーデルの姿は、一言で言うなら悪魔だった。
頭には二本の長い角、背中には蝙蝠を思わせる巨大な二枚の羽、さらには先が尖った特徴的な尻尾まで生えている。
服装も魔法使いのローブ姿から、体の要所だけを爪のような物で隠した目のやり場に困る扇情的な格好に変わっており、手には愛用の杖から巨大な鎌を携えていた。
唖然としているイリスに、エーデルが得意気に口を開く。
「この魔法は冥府の王、ハデスの力をその身に宿す魔法よ。一見すると、ただのコスプレ魔法にしか見えないかもしれないけど、その威力は……」
エーデルは赤く濡れそぼった唇を一舐めすると、手にした鎌を横薙ぎに払う。
すると、三メートルを越す漆黒の刃が鎌から生まれ、リリィを襲おうとしている魔物をリリィ諸共飲み込む。
「ヒッ!?」
体が引き裂かれる。そう思ったリリィが反射的に体を窄めるが、
「……あれ?」
漆黒の刃が通過した後、彼女の体には何の変化もない。
しかし、リリィの周辺には劇的な変化が起きていた。。
「う……そ……」
リリィの周りにいた魔物たちは、足首だけを残してそこから上が跡形もなく消え、液状の金になっていた。
魔物たちは消えているのに、リリィだけでなく建物にも傷一つついていない。
どういうわけか、エーデルが放つ攻撃は魔物にだけ作用しているようだった。
「そ~れ、もう一丁!」
エーデルはウインクしながら、再び巨大な鎌を振るう。
今度はさらに巨大な漆黒の刃が生み出され、ロイを取り囲んでいた三体のキマイラに迫り、一瞬にして液状の金へと変える。
「……相変わらず、無茶苦茶だな」
漆黒の刃の圧倒的過ぎる威力に、助けられたロイですら呆れていた。
「どう? これが大抵の魔物を一瞬で葬り去る名桜ハデスの力の一端、シュヴァルツゼンゼよ」
「そ、そんなふざけた格好の魔法に私の子たちが!」
顔を両手で覆ったイリスが悲痛な叫び声を上げる中、エーデルは鎌を振るって残った魔物たちを驚くべき速さで葬っていく。
全ての魔物が漆黒の刃の餌食になるまで、そう多くの時間はかからなかった。
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