第37話 勇者VS王国の騎士たち

「クソッ、何をしている! お前等も騎士ならとっとと仕事をするんだ!」


 意識が戻ったのか、髪の毛をちりちりにした怒り顔のフロッシュ公爵が、騎士たちにロイに襲い掛かるように命令を下す。


「ク、クソッ!」

「こうなったらやってやる!」


 上司からの怒気をはらんだ命令に、ロイの剣気に圧倒されていた騎士たちが叫び声を上げながら襲いかかる。


 だが、そんな弱腰の状態で倒せるほど、勇者という存在は安くない。


「はあああぁ!」


 上段から斬りかかって来た騎士に対し、ロイは防御も回避も行わず、強化された木剣で振り下ろされた大剣ごと吹き飛ばす。


 飛ばされた騎士は後ろにいた二、三人を巻き添えにしながら壁まで吹き飛び、壁に大穴を開ける。


 続けて左右から同時に襲い掛かってきた騎士の突きを飛び上がって回避すると、空中で剣を一閃させて真下を通過した剣二本を同時に叩き折る。


 さらに、着地と同時にロイは左側の騎士には掌底を、右側の騎士には回し蹴りを喰らわせ、壁際まで吹き飛ばして二つの新たな穴を作った。


「つ、強い……」

「これが勇者の力なのか?」


 圧倒的過ぎるロイの力に、騎士たちの間に動揺が広がる。


「勇者がダメなら……」

「あっちの奴を狙うんだ!」


 ロイを倒すのは無理だと判断した一部の騎士は、援護に回っているクロクスへと仕掛けようとする。


 だが、その剣がクロクスへ届くより早くロイの攻撃が、もしくは彼の攻撃によって吹き飛ばされた騎士の体によって攻撃を阻害される。


「ハッ、そう簡単にやられるかよ!」


 また、薬によって強化されたクロクス自身も騎士たちより早く動くので、彼を倒す前にロイによって無効化されていく。



 こうして攻勢が始まってから数分も経たないうちに、立っている騎士より意識を失っている騎士の方が多くなっていた。


 騎士たちの全滅は時間の問題、そう思われたが、


「ロイ、もう止めるんだ!」


 端の方に控えていた人物による叫び声が、場の流れを一時的に止める。


「これ以上の狼藉を働くというならば、あたしが相手だ!」


 そう言って現れたのは、白銀の鎧に身を包んだ騎士姿のプリムローズだった。


 ロイは斬りかかって来た騎士の攻撃を木剣の腹で受け流し、返す刀で相手の首筋を討って意識を奪うと、プリムローズに切っ先を向ける。


「いいぜ。プリムとは一度本気で戦ってみたかったんだ」

「ほ、本気なのか!?」

「勿論、本気だ。遠慮はいらないから全力でかかって来るんだ」


 ロイは木剣を肩に担ぎ、獰猛な笑みを浮かべてプリムローズに手招きする。


「ロイ、お前って奴は……」


 プリムローズは腰に吊るした刺突に特化した剣、エストックを抜くとロイへ向けて構える。


「そんなにあたしと戦いたいのなら、望みどおり戦ってやるよ!」


 涙目のプリムローズが雄叫びを上げながら地を蹴り、ロイとの距離を一気に詰める。



「このっ、わからずやあああああああああああぁっ!!」


 錯乱状態に見えなくもないプリムローズだったが、彼女もまた、いくつもの修羅場をくぐり抜けてきた歴戦の猛者である。

 どのような精神状態でも理想的な動きは体に染み付いているようで、素早く、的確にロイの急所目掛けて素早い突きを繰り出していく。


 素早い刺突攻撃による三連撃を、ロイは木剣の腹を使って器用に全て受け流し、隙を見て目にも留まらぬ速さの剣戟をプリムローズに見舞う。


 エストックのような細身の剣ではロイの嵐のような攻撃は受け止められないので、プリムローズは後ろに下がるのではなく、身を捻って一歩前へ出て回避する。


 衝撃でキラキラと輝く金色の髪の毛が数本抜けるが、受けた被害はそれだけだった。


 回避しながらロイの背後へと回ったプリムローズは、背後から刺突攻撃を仕掛ける。


 しかし、空気の流れを読んだロイは、まるで後ろに目でも付いているかのようにプリムローズの刺突攻撃に合わせるように木剣を振るう。


 次の瞬間、ロイとプリムローズの互いの剣が交差し、甲高い音と主に火花を散らす。


 弾かれた勢いを利用して一度距離を取った両者は、着地と同時に再び前へ出る。


「やるな!」

「っ! ロイこそ!」


 ロイとプリムローズはまるで輪舞曲ロンドを舞うように、決して鍔迫り合いのような力押しはせず、互いの攻撃を紙一重で回避し、時に火花を散らしながら華麗に舞う。



 そんな二人の攻防を、周囲の人間は息をするのも忘れで呆然と見守り続けた。


「…………はぁ」


 ロイたちの攻防に目を奪われていたクロクスは、時限の違う戦いに深い息を吐く。


「これが世界を救った奴等の戦いか……」


 妖しげな薬を飲んだお陰で、騎士たちには肉薄できるようになったが、目の前で繰り広げられている戦いには、どう考えても役に立ちそうになかった。


 それは他の騎士も同じようで、プリムローズに加勢するどころか、呆然と立ち尽くすクロクスにすら目もくれず、目の前の戦いに注目していた。

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