第25話 若かりし勇者の活躍
――遡ること三年前、フィナンシェ王国では王が原因不明の病で伏せ続けるという、表沙汰にできない問題を抱えていた。
国中の医者が王の快復を試み、あらゆる治療、回復魔法、各種解毒魔法を試したが、そのどれもがなしの礫で、王の体は日に日に弱っていった。
そんな時に現れたのが、まだ旅慣れていない感じが初々しいロイとエーデルであった。
フィナンシェ王国の重鎮たちは、現れた勇者に王の病気の治療の為、フィナンシェの北に広がる広大な森、通称『迷いの森』の奥に住む、エルフが処方する霊薬『エリクサー』を手に入れてくるように依頼する。
二つ返事で依頼を受けたロイは、騎士になりたいと願う少女、プリムローズを仲間にして、一ヶ月以上にも及ぶ迷いの森の捜索の末、見事にエルフの隠れ里を発見してエリクサーを手に入れたのだった。
「ああ、ありましたね。あれは、戻って来てから大変だったんですよ」
事の顛末を思い出したロイが、当時の苦労を懐かしむように口を開く。
エリクサーを手にフィナンシェへと帰還したロイたちは、夜も更けていたのでその日の城への訪問を諦め、宿屋を取って休むことにした。
「そこへ王宮から来たという使者が現れ、いきなり襲われたんですよ」
しかもその使者は人間ではなく、二本の角を持ち、背中にコウモリを思わせる大きな翼を持つデモンと呼ばれる人型の魔物が変身した姿だったのだ。
どうにか最初のデモンを倒すことに成功するロイであったが、彼等の前にフィナンシェ王国の民に化けていたデモンが次々と襲いかかって来て、夜通し戦う羽目になった。
「あの時は日の出と共にボロボロの勇者様が現れて、本当にビックリしました」
「本当に必死でしたから……でも、そのお陰で、変身する魔物の術を破る術がわかったんです」
城に乗り込んだロイは、自分を襲った人物を特定する為、城の重鎮たちを叩き起こして一か所へと集める。
困惑する重鎮たちを前に、ロイは城の壁を盛大に破壊して陽の光が入るようにする。
室内に陽の光が満たされる中、ロイはエーデルの力を借りて街で買った聖水の瓶の中身を霧状にして散布する。
すると、集められた重鎮の一人、ゼルトザーム公爵が顔を両手で覆って苦しみ始めたかと思うと、変身が解けてデモンの上位種の魔物、アークデモンが姿を現す。
このアークデモンこそがフィナンシェ王に呪いをかけ、病に伏せさせていた真犯人であり、ロイはフィナンシェ王国の騎士たちと協力して魔物を討伐し、事件は幕を閉じたのだった。
この事件は、魔物が人間組織の中枢部分にまで入り込み、一つの国を裏から滅ぼそうとした事件として世界を大いに震撼させた。
「いやはや、いきなり城の壁を粉々に壊したあの時の勇者様の行動を思い出すと、今でも失神してしまいそうになりますよ」
「俺も……あの時はどうかしていたと思います」
魔物の正体を暴くためとは言え、城の壁一面を破壊するのは流石にやり過ぎだったと、ロイも苦笑する。
ロイの活躍で事件は解決したが、アークデモンがどのように街の中に入り、ゼルトザーム公爵の体を乗っ取ったかは最後まで不明だったという。
「あの事件でゼルトザーム公爵家は取り潰しとなり、街の復興に大きく貢献した当時男爵だったブルローネ家が代わりに侯爵に抜擢されたのです」
「それってイリスさんの……」
「そうです。彼女は伯爵となった前ブルローネ卿が連れてきた連れてきた女性です。何でも、視察先で見つけて一目惚れしたとか」
「はぁ……」
「フフッ、勇者様はこの手の話には興味なさそうですね」
ロイが色恋沙汰に興味なさそうだと判断したカーネルは、話を元に戻す。
「幸福を掴んだブルローネ家とは対照的に、残されたゼルトザーム家の者は、国外追放という過酷な運命を辿る羽目となりました」
「その人たちの行方は?」
ロイの質問に、カーネルはゆっくりとかぶりを振る。
「今思えば、ゼルトザーム家の方たちは何も知らなかったのですから、全員は無理だとしても、せめて年端の行かぬ子供だけでも保護すべきでした」
「そう……ですか」
いくら王を殺そうとした大罪人の家族とはいえ、戦う力を一切持たない一般人が街の外へ放り出されたらどうなるかなんて考えるまでもない。
ゼルトザーム公爵家の悲惨な末路を思ってか、カーネルは目を伏せると悲しげに十字を切る。
ロイもそれに倣い、顔も知らない侯爵家の冥福を祈って黙祷を捧げた。
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