第24話 大国の病
それは、長年フィナンシェが抱えている問題でもあった。
フィナンシェ王国は何十万人もの人々が暮らす大都市であるが故、普通の街では考えられないような多くの問題があるという。
問題の代表的なものは、貧富の差だ。
富を得た物は貧しき者を疎み、貧しきものは富を得た者を妬む。二つの階級は決して馴れ合おうとはしない為、必然的に生活の場を違えるようになる。
富を持つ者は、より強い金と権力を求めて絶対君主である王の近くへ、そうでない者は自由を求めて街の外側へと集まっていく。さらに、その器にすら収まる事ができない者が、全てから逃れるようにスラムを形成した。
基本的にこれらの階級は互いに干渉することなく、独自のコミュニティの中で暮らしていた。
「しかし、どの世界にも例外が現れるように、普段は一切関らないそれぞれの階級が交わる時があるのです」
それは互いの利害が一致した時。
だが、その殆どは褒められたものではなかった。
「大体は貴族が金に困っている平民を集め、非合法な事をやらせるのです。貴族は自分の手を汚すことなく目的を達成し、金に困っている平民は金を得る。ただ、後者は証拠隠滅の為に別の者に消される事もしばしばあり、その度にこちらの操作は難航するので厄介な話です」
また、他にもフィナンシェには非合法に金を稼ぐ手段がいくつもあるという。
当然ながら命のリスクが高い仕事ほど報酬は高くなるが、一度でもその身を裏の世界へと費やした者は、まず表の世界には戻れないと言われている。
「仕事の多くは違法薬物の運搬や、貴金属の窃盗、金持ちからの強盗から、果ては殺人から人身売買の斡旋まで人の道から外れたものが殆ですな」
「どうしてそんな非人道的な仕事をやろうと思うのでしょうか?」
「理由は単純明快です。たった一度の仕事で、普通に働く何年分の報酬が手に入るからです」
思わず素直な質問をぶつけてくるロイに、カーネルは肩を竦めて答える。
一度の非合法の仕事で大金を手に入れた者が、再び実りの小さい仕事に従事できるだろうか? 答えは否だろう。
まともな人間でなくとも、自分が一般人とは違う存在になってしまったと認識するには充分だ。
裏の世界に一度でも関わった者は、近隣の者に自分は旅に出る等の言い訳をして、何処か遠い地へ逃げるように立ち去るという。
そういう人間が後を断たないことから、街の人間は、誰かが突然姿を消したり、町から出て行くという話を聞いたりしても「またか」ぐらいの認識しか持たなくなっていったという。
「これは魔物討伐、竜王討伐と謳い、騎士の名誉の為と外へばかり目を向け、国内の事件を疎かにし、憲兵の存在を蔑ろにしていた我が国の過失でした」
しかし、国内の事情に手が出せないくらい街の外の情勢は不安定で、魔物の討伐に力を注がなければならなかったのも事実であった。
ロイのお蔭でその心配も無くなった今、国内の情勢を見直し、憲兵を増強した結果、これらの事件は大幅に軽減できたという。
「そ、そんな世界が……」
普通に暮らしているだけでは垣間見ることのない裏の世界の事情に、ロイは戦慄を覚える。
魔物相手では、倒す、倒されるだけの関係だった。
そこには複雑な利害関係や遺恨等は一切存在せず、単純な命のやり取りだけだった。
「いえいえ、そんなことありません。勇者様もかつて魔物相手に複雑な事件を解決した事があったじゃないですか」
「……そんなことありましたっけ?」
カーネルがロイの活躍を指摘してくれるが、ロイには何の事なのかピンと来ない。
「はい、覚えておいでではないですか?」
カーネルは微笑を浮かべると、ロイのかつての武勇伝を語る。
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