6話


 先程の真っ赤なドス黒い地獄絵図とは打って変わり、巨大な木々が深緑に不思議と密集するでなく木々の葉の隙間から光が差し込む。


 「……っ」


 木や草といった植物は所々、異彩の色を放ち異世界の奇抜な植物が彩りを加えている。 

 ベルヴェールは気がつくと、そこは見覚えのある景色、アンジェリカの屋敷の玄関前だった。


「あ…あああ」

 正気に目覚めるベルヴェール。


 ……

「っあ……戻って来たのか? 迎えに来るって言ったじゃないか……あの手の事を迎え。と…呼ぶのには違うんじゃないか? くそ!」 


 (ああ)


ベルヴェールは気づく、先程まであんなにも疲弊していた身体が調子を戻している。

「なんだかパンみたいにちぎって……」


 (本当に最悪だ。僕は俺は千切ったパンのシチューか)

 魔力も疲労感もなく先程までが嘘の様に身体は全快と言えるだろう。

 (くそ千切ったパンで)

「元気百倍か」

 ボソッと突っ込みながらも、それ程、余裕が出たとも言える。


 ベルヴェールはそのまま玄関の扉を開け魔法陣のある部屋へ赴き……

 ガチャッ……と


 目の前に光景として現れたのは、何処となく精神世界に似た空間と三倍四倍に大きくなった魔法陣と、何よりこの騒音の元凶だろう檻に入れられたボロボロの喋る武器達だ。


 「おい、本当に本当色々と言いたいことが有るんだが……その、ただいま」


「おかえり楽しかったか? 帰ってくるまでが遠足だぞ」

 茶化すように意味不明な事を言うゼロツー。


「うむ。それで素材の方はどうだった?」

 魔法陣を描きながら早速とばかり素材の話しをするアンジェリカ。


 (ここにある素材やマジックアイテム見る限りだとかなり楽しんでいる見たいだな)

 ……

「何体かモンスターと戦って、一通り武器や魔術を試したんだが……最後にちょっとな」

 ゼロツーは分かってるとばかりに薄緑の液体で魔法陣を描きながら口を開く。

「みたいだな、転移魔術が発動したみたいだし、大方調子に乗ってデカい魔術でも使ったんだろ?」

「……それは、そうだ!! あの転移した時に出てきた手! あれはなんだよ」

 確信を突かれたベルヴェールは慌てて話しを変える。

「はああ!?」


 ゼロツーは呆れたようにため息をしながら話しを続ける。

「まずな、手じゃない。名前がある!」

(えっと…はい? 名前?)

 ジト目で影だから眼はないが見つめながら言われる。


「だいたい助けてもらってそれは無いんじゃないか? あん?」

 ジリジリした威圧感を感じる。


「…それは…そうなんだが……で、名前は??」

「可愛いムカデちゃん」

『は?』

ベルヴェールもアンジェリカも思わず聞き返す。

 はい! 皆さんご一緒にリピートアフターミー。

 (は?)

 

 ……

「いや、だから可愛い可愛いムカデちゃん」

 可愛いが増えた。


 ゼロツーが黒影で耳を澄ませ。

 うんうんと頷く。

「チョットナニイッテルカワカラナイ」

 (お前だよ!!!!)


「なんでカタコトなのか理解に苦しむが」アンジェリカも筆を落とし慌てて拾い直す。


 ゼロツーが話しを続ける。

「ムカデちゃんて言っても虫の百足じゃないぞ、ちゃんと人型で冥界のアイドルだ!! それなのにお前は握手してもらったクセにアレ呼ばわりしやがって」


 大地は初めてゼロツーが威圧感と恐怖を感じた。


「!!」部屋の空間が揺れ煩かった武器達も一瞬にして黙る。


 アンジェリカは我感せずといそいそ作業を進める。

「あの娘は転移魔術の際に力を貸してくれてる。ベルヴェールは身を持って感じただろう。彼女は名前の通り無数の手がある。それは転移する前に身体を粒子分解して転移先で再構築した際に、身体の外傷や状態異常の類を全て無かった事にする。どうだ可愛い可愛いムカデちゃんは凄いだろ??」

 (やだ、この人怖い…て死神だった)


 ……とばっちりを受けないよう、話し半分に聞き逃しわかったわかったと頷くベルヴェール。

 (彼女て女だったのか確かに色白で細かった

が……)……正確には蒼白いだが……

 「そうだろう!!神の手とも言っていい」

 (そうなの? そうなのか?? え? え)


 正式には空間魔術と錬金術を用いた設置型魔術式。


『あの手この手の導き手』、ゼロツーの探索魔術、見つけて指定した場所へ導く、正確には対象を見つけ数百の蒼白の手によって拘束し、身体を小分けに分解し転移先へ放り込み再構築する。

 再構築の際、外傷や魔力の有無問わず完全回復する。

 ただし、呪や誓約の類は回復しない。


「それで転移前に闇魔術の多分、禁呪や神呪だと思う。あと素材と呼べるか分からないが魔物の死体をそのままにしたんだが大丈夫か?」

 詳しい状況を話す。

「ああ、実はな今後ここを隠れ家に考えた時、魔物は強ければ強いほどいいからな」

 ゼロツーは魔物の死体が溢れた箇所から魔素が流れ広まり魔物や動物は勿論、植物の類も変異し環境が変わる可能性を示唆する。

「なるほど興味深いの、ただでさえ未開だったここが更に進化してここを守るか。外に出れば危険な魔物だが内にいれば守護獣と化すか」

「あ、あとこれ」

 ベルヴェールは地竜アースドラゴンに襲われてた人型の魔石を渡す。

「なるほどなあ、こいつは状況的に考えればヴァンパイアだな。時間が出来て暇になったら魔石と灰を調べて何処から来たか辿るかな」

「それで何か手伝える事はあるか??」

「魔法陣はそのままアンジェリカに任せるとして、そうだな……素材を並べてもらうか」


 ベルヴェール、ゼロツー、アンジェリカの三名は従来の魔法陣より三倍、四倍近く大きくなった魔法陣の最終調整を行ってた。

 

 ある程度、目処がたった所でゼロツーが口を開く。

「よしそれじゃあ、三人で手分けもした。最終確認するか、まず担当した所を教えてくれ」

「うむ我は大元となる中心の三つの魔法陣と重なりの魔法陣か周囲に関してはベルヴェール殿と一緒に行ったので同じく確認出来ればと」

 アンジェリカが答えベルヴェールは頷く。

「ああ」



 

 魔法陣は当初の空間では足りず冥界のダンジョンと繋がった空間で広々と描かれ、一番に目に入るのは中心にある丸い円を描いた、魔法陣を元にほぼ同じ大きさで描いた三つ山型に並べられそれぞれ上に重なるよう四枚のスクロールで重ね一つとなっている。

 その重なった魔法陣を中心とし更に山形になった魔法陣と同じ大きさの魔法陣が十四もの数が重なり合い、それぞれ間を開け七つになるよう周囲を囲んでいる。

 ここまででも、かなりの大きさなのだが七つもの囲んだ同じ大きさの魔法陣が三つ並び信号機のような形になって横一線引かれ両端の丸い魔法陣にはそれぞれにアンジェリカの用意したマジックアイテムや素材またベルヴェールが倒し解体を済ませた物も並べると言うよりか円の中に置かれている。

 反対側にはゼロツーが用意した神器と呼べる程の杖や、剣、ベルヴェールが使った槍や黒刀、そしてアクセサリーの類がアンジェリカと比べると多く用意してあるようだ。

 またゼロツーが最終確認の為、他の魔法陣よりも外側にある魔法陣はより細かな言葉が紡ぐられ魔法陣に言葉、文章を追加していく。

 ちなみに騒がしい知識ある武器インテリジェンスウェポン達は中心に置かれギャーギャーと騒音の大合唱中、ゼロツー本人曰く概ね勇者の類は勿論、武器含めてクズの集まりとの事で武器としても、性根にしても叩き直すそうだ。

 他に七つの円には、魔術に描いた赤い液体の入った樽や何かは分からないが察するに骨等の入った樽だがそれぞれ二十八個全てに重なりあった七つの魔法陣の中にある十四の円に二つずつ並べられ種類の違う剣や天秤、金剛石だろうか? で出来た盾など様々なマジックアイテムが振り分けられている。

 ゼロツーは徐ろに亜空間倉庫から宝石や魔法金属を山のようにと言っても過言では無いだろう出した瞬間に雪崩れが起きたのだから。

 ゼロツーは大きく三つ横に並んだ魔法陣に適当で良いから散らばって置けと曖昧な指示を出してベルヴェールは渋々従うが、アンジェリカは自分が作った魔法陣が別物になって行く悲しみより次々に出される希少素材アイテムに思考が追いつかず傀儡と化している。

 ゼロツーは俗に言うびっくり素材の玉手箱なのかもしれません。

「はい」

 アンジェリカが質問する。

「なんだ?」

「その老龍の骨があるのだが使えるだろうか?」

 使えるも何もといいたげに……ゼロツーは呆れながら

「希少でも、シャンゼリオンでの素材なら足りないくらいだ。じゃぶじゃぶ使え」

 (じゃぶじゃぶは分からないが……水の様にて事か?)

 ベルヴェールは考える。


「俺からも一つアンジェリカはシャンゼリオンの金の類はあるか??」

「むっ……金か……少ないがあるにはある宝石等はどうかの?」

「金があるなら、それも魔法陣に適当に置いてくれ。宝石はそうだな、アンジェリカの用意したマジックアイテムと一緒に置いてくれ。あ、後、老龍の骨だっけか?収まる様なら同じ場所へ、入りそうに無いなら分けてくれ」

「うむ。そうすると分けた方がいいな。その散りばめた財宝の類と重ねても良いだろうか??」「ん、ああいいぞ。あっそうだ」

 思い出したようにゼロツーはベルヴェールに伝える。

「魔法陣が完成して魔力を込める際、詠唱するんだがこれ渡しておく」

 一枚のスクロールを手渡される。(まさかと思うが……)

「これは?」「カンペ」「おい!! ……いや必要か」

「そうそう、大体さっきも魔力使いきったんだろ?? だったら疲労感もわかるよな?? お前には出来るだけ詠唱に集中して欲しい」

 アンジェリカの作った生命有る創世魔術は一生に一度しか使えない。

 それはゼロツーが改変しても変わらないと伝えられていた。

「そういえばゼロツーは腹心? を蘇らせるんだろ??」

「蘇らせるとは違うな。生まれ変わりも少し違うか、適応させるが近いか、それに蘇らせるて死んでねえよ寝てるだけだ」

 そんなもんかと思いつつベルヴェールは渡されたスクロールを読み耽るのであった。

「老龍の素材とこの世界の金と宝石の類だがアイテムボックスを入れてた箱でもよいか??」

 見てみると細かい彫刻と小さな宝石達が綺麗に飾られてるアイテムボックスは価値こそ高いが見た目で比べるとこの宝石箱と比べれば価値の分からない者からしたら首を傾げるだろう。

「問題ない。そうだな竜種か俺も出そう」


 ――轟、轟


 いやドン!! となってはいないが、突然だされたそれ、否、そいつらは二匹いた。

 老龍の素材よりも大きく三つ横並びになった魔法陣よりも一匹でもはみ出る大きさだ。


「こ……これをどうするのかね?」

 アンジェリカが聞く。

「どうて、素材ちなみに二匹でワンセット。あ、そもそも種族が分からないか多分だけど竜種で名をウロボロス」

「それって神話に出てくる魔物? 神獣の類だろ?」

 ベルヴェールは日本に居た頃、本かなんかで聞いたのだろう。

「詳しくは言えないが二匹でワンセットが二つ素材にする」

 ……その後、入らないなら切ればいいとベルヴェールに言いアンジェリカはそんな勿体ない事をと伝えるもベルヴェールはどうせ生命有る創世魔術で消えるのだからとアンジェリカを説得し切る事にした。

 ゼロツーはまた別で色々な世界に行ったのに縮小や拡大のスキルは今の所無かったと嘆きながら今度時間あったら探しに行こうかなとゼロツーはブレないでいた。

 そんな話を聞きつつもベルヴェールは魔法陣に並べてあった黒刀を手に取る。

「そういえば、森や荒野で刀を使ってみたんだが魔術が大半で武技と呼べるかは自信がないが、なんかこう一刀両断みたいな技はないか?」

「そうだな、今はまだ死属性も身体に馴染んでいないだろうし黒刀使って神呪を出して空間が割れたんなら同じ要領で空間を切る事が出来るかもしれないな」

「空間を切る?」

「別に空間じゃなくてもいい火属性でもいいし、黒刀があるんだ闇属性でもいい。とにかく一太刀で切りたいんだろ?」

 (空間、火、闇、空間? 早さか)

 ベルヴェールは思い付いたのか徐ろに構え黒刀に魔力を流す。

 (自己時間加速、瞬閃、神閃、時超える絶剣……)

次元切断ディメンションライン……零閃!!」

 流派絶剣(必中)の次元切断ディメンションライン、火属性の自己加速の応用で自身でなく武器に多重付与し闇の黒刀も相まった結果その斬撃は、ほんの少しの時間を任意で過去にも未来にも時を超える。

 また闇魔術第七階梯の言霊を飛ばして事象を起こす。

 次元切断ディメンションラインの名前の通り次元を斬り火魔術を帯びた絶剣の紅い黒刀が一閃する。

 また現在に戻るとタイムパラドックスが起き対象者は切られた事を認識した際に熱を感じるがそれは氷点下になって身体が凍り焼けるからである。

 零閃の由来は太刀を振るうのを現在では視認出来ない為と、大地の前世で零戦に乗っていた為である。

 

 ――ザ、斬、斬斬……

 次々と斬って行く。


 斬


 切断されたウロボロス達はぶつ切りにされその切り口は凍っている。

「さて」ベルヴェールは満足気だ。

「ふふ、良かったですね。これなら素材を無駄にせず……いえ、どのみち吸収されるんでしたね」

 アンジェリカが嘆くように呟く。

 

 ベルヴェール達はウロボロスを魔法陣の中に重ねながら最後の確認をして行くゼロツーは更に異世界の貴金属や魔法陣の文章の変更または追加ていく。

 アンジェリカも指示を受け行動している。

 ベルヴェールは黒刀を元に戻し魔術の詠唱文を確認しているとゼロツーがいよいよだがと話し始める。

「最後に素材と言ったら失礼だが俺の腹心を出す。くれぐれも驚かないでくれ」 

 そうすると亜空間から片手を突っ込み持ち手が付いているのか、それでもかなりの大きさの白く丸みおびた箱のようなイス? があった。

 ベルヴェールはそれが何か一目瞭然であった。

「コックピット」

「ああそうだ形はコックピットだが自立式の棺だ」

 棺の装飾は縁をなぞる様に眼を閉じヴェールを被った女神像が彫刻され前面全てに薔薇の花が幾つも彫金され模してある。

 また十三個の鈴が彫金されそこに青い魔法陣が描かれている。

 鈴にもそれぞれ違う種類の宝石が散りばめられており女神像の彫刻されているアクセサリーの類も全て本物の宝石や魔法金属の素材で出来ており劣化を防ぐ為、時空間魔術で時止めしてあるそうだ。

 足元には対象的と言えるだろう薄く青みがかった白銀の魔法金属で出来た大きな杭がありコックピット型の棺を動かす事により地面に刺せそうな感じである。

 杭には金の棘ある蔦がそれぞれ巻き付き拳大の宝石が杭の周りを囲い杭自体には青い魔法陣が棺を支える台座を初め彫刻された女神の足元にかけて刻まれている。 

「その、この中に?」アンジェリカが尋ねる。

「ああ」ゼロツーは大事そうに棺の中を開ける。

 取っ手の様な類は無く魔力に反応して中心から両側へ開く。

『…………』ベルヴェールもアンジェリカも黙る。

 いくら話しを聞いたからと言って聞くのと見るのは違うのである。

 外装と同じく真っ白い中はコックピットの様な形をしており棺の中に居たのはミイラや死体の類ではなく、十代半ば程だろうか、金髪の髪に青いドレスを着て眠り身体の周りには白系統の薔薇を中心とし青い薔薇が差し色に映え眠りつく彼女は色白ではあるが生気を感じ頬は薄く紅に染まっていた。

「彼女はアリス俺の居た世界での養子だ」

 養子と聞いて詮索していいのか悩む二人、最初に口を開いたのはアンジェリカだった。

「そのアリス殿を生命有る創世魔術に使われるので?」

「ああ、高次元生命体にしてシャンゼリオンの世界とも適応出来るはずだ! そういえばアンジェリカは何になるのか決めたのか?」

「うむ、我はやはり研究を行いたい可能であればホムンクルスやゴーレムにでも最悪アンデットも……むう」

「わかったわかったホムンクルスだな。問題ない」

「最後に確認と言うか伝えるべきは」

 そこからゼロツーは消滅させた世界の魂を贄とし収容されている冥界の扉を魔法陣の中に取り込む事を当然と言うべきか危険性や術の行使後どうなるか等、話し合い行う事で纏まる。


 ただアンジェリカやベルヴェールが不安になったのは術の発動と同時に冥界の扉から大量の魔力が流れ込み爆発し飛散し収縮して魔力が纏まり一つの魂となる事だろうか、どこかで聞いたようなと思うのはベルヴェールを屋敷に連れ戻した際に『可愛いムカデちゃん』の設置型魔術式『あの手この手の導き手』である。

 二人は似たような物だと理解し半ば流れで納得した。

「それじゃあアンジェリカは三つ並んだ真ん中の魔法陣へ、ベルヴェールは自分が用意した素材のある魔法陣。俺はアリスと一緒に素材を置いた魔法陣へ」

「……&i」


 ……

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