5話

 その出会いは突然に!! ベルヴェールとは違う翼、羽根の音と空間を支配するかの声と共に、そいつは現れた。

「グルルルルルルルゥ!」


「なっ!!!」

 

 すぐその場を離れ飛び立とうとした矢先のベルヴェールだったが、一足遅く声の聞こえた方向を凝視する。

 目の前や後ろ等の類ではなく……上……正確には、空つまり魔力感知に引っかからず。

 上空からやって来たそれは……その姿は鷲の翼と上半身、獅子の下半身を持つ怪物。

 体長は五、六mにもなりそうな程の大きさで天空の死神の異名を持つが威嚇するよう唸り声を上げ足を振り上げていた。 


「……っ!?」


 ベルヴェールはその一撃を横に跳ぶ。

 その先に生えていた木を蹴り、三角跳びの要領で攻撃を回避して、グリフォンの胴体へと魔術を叩き付ける。

 

 

「流石異世界って!! かあっ火球ファイアボール!!」


 グリフォンに向かって行く。

 火球ファイアボールは激しくグリフォン身体にぶつかるが効いてる様子は無い。

 ベルヴェールは『亜空間倉庫』から黒刀を出し。

 火魔力を込め。

 魔術を放ち、近付かれた距離を離し続ける。


「我は唄う火炎の力を火鳴文カナブン

 火魔術の詠唱破棄、詠唱力、魔効力を上げるバフ。

 

 ベルヴェールは続けて詠唱する。

『火よ泣き絶まえ。火と人なりて闇集めたまえ。夏全てに飴の夜、花の世、君の代、故に汝は虚しさ病みて消え太陽と蛇なり。身を焦がしてく様。選択の連続、羽の様、夏の夜、我がままの雨模様、晴れの様、火と火となりて炎と成せば道半ばにて縁となれ。汝、我が思いのままに進め』


 この時、最悪だったのはグリフォンだろう。

 ベルヴェールは火、炎魔術の随一の使い手。

 短略詠唱でも高い攻撃力を持ち永遠と放ち続ける。


飛んで火に居る夏の虫エテ・ヴァーミン・フランメ・マチソワ・ショー。羽撃け上げ羽鳥アゲハチョウ

 

 ベルヴェールは詠唱した火炎の魔力と続けた詠唱破棄により。

 自身の翼に火炎を纏いて高く飛躍し位置を変える。

 

紅鏡シャムシエル!! 漂え。流れ黄金雲ナガコガネグモ

 ベルヴェールを中心に空は輝き炎の雲が漂う。

 

白い熱体夜アークロスナイト、その場を照らし輝け猛白千陽モンシロチョウ

 白炎の空は更に輝き、天地に続き白の炎獄、天獄の苦しさを覚える。

 

紅獅子身ベニシジミ

 自身に炎のバフを更にかける。

 ……

 

「グルルゥ」

 ベルヴェールとの立ち位置が逆転しながらも両翼十メートルはあろう翼を広げ威嚇するかの如く。

 グリフォンは前脚を蹴り上げ五十近くはあるだろう風の矢をベルヴェールに向け放つ。


「グルゥッ!!!!」

 

 ベルヴェールはこの戦い。

 否、この場所の緊張感を感じつつも、どこかこのグリフォンが戦闘を楽しんでいる様に感じていた。

 それはベルヴェール自身も同じで真正面からグリフォンに向かって行く。

 

燕死時視ツバメシジミ、示し輝け七星天灯ナナホシテントウ火球ファイアボール……」


 少し先の未来を読み。

 風の矢を躱しながら白炎の夜に、七つの光がグリフォンを刺し押さえる。

 貫々……貫々……貫々ッ貫!!

 更に七つの火球ファイアボールが……

 ――轟!! 轟、怒轟!!


 火花が散り、爆発的に白い天獄に包まれ分裂した。

 火球ファイアボールが風の矢と衝突し、周囲の温度を更に更にと上げていく。


「グルルルルル……ラゥ……」 

 眩い火炎の光を浴びグリフォンは遂に墜落して行く。


 ――轟っ!!!!


 墜落した衝撃と何より纏わりつく熱さ、炎を消す為に必死にグリフォンは暴れ回る。


「グルルルルルルルァァァ!!」


 メキメキと音を立てて、折れた木をチラリと見る。

 グリフォンの膂力に苦笑を浮かべながらも黒刀を振るい続ける。

 

火精の障壁サラサラウンド、炎上の地中柱よ壁にて地を放ち。閉じ込めたまえ。爆炎の縛園ダイナマイトガーデニアン」 

 暴れていたグリフォンの周りを炎の壁が囲い込み。

 更に中心へと火の柱は温度を上げ……火炎の鳥籠。

 

「グルルゥッ」

 

 甘いと言わんばかりグリフォンは跳躍し翼を広げ何度もバタつかせ炎の壁の内側から竜巻を起こし炎を吸収し飛散させる。


「グラアアァァッッ!」


 煽る様に吠えグリフォン。

 

「……何?」


 思わず凝視し手が止ま……

 

「……ると思ったか!!」


 ベルヴェールはすかさず亜空間倉庫から双刃の槍に魔力を流し投擲する。

 

 轟

  

 グリフォンは後方へと跳躍して回避するが雷の衝撃波は空間を歪め小爆発を起こす。


「グラアァッッ」 

 グリフォンはバランスを崩しよろめき……その隙を突くかのように、槍から弓に変え火属性の矢を放つ。


 ……

 槍の投擲とは違い。

 一本の矢は空間魔術により膨張し破裂する。

 三百はゆうに超えるその火矢は炎の雨となって降り注ぐ。


 断断断々……突々!! 貫ッ轟!!


 再びベルヴェールは黒刀を右手に、左に戻った双刃の槍を弓に変え。

 両手に持ちながら黒刀と双刃弓へと魔力を流し。

紅蓮の閃光矢 ストライク・オブ・ベニハス

 閃光の火矢は千を超え、赫輝の雨が激しく嵐と成る。

 

 ドスドスドスと次々にグリフォンやその周辺に赫輝の矢が降り注ぎ、槍を最初に投げた場所は地面が割れ五十メートル程のクレーターが出来ている。

 かなりの炎の矢により。

 空に居ても地獄を感じるがベルヴェールには意味は無い。

 グリフォンは低い唸り声を上げながら火の雨に傘で雨を防ぐ様、翼を使って耐えている。


「グルルゥゥゥ……」


(さっき見た感じだと。魔物の生命力を考えた場合は致命傷という訳でも無い傷だ身体は焦げてたか? 魔術に対して、かなり抵抗有るのか……となると接近戦なんだが)


 ベルヴェールはアンジェリカやゼロツーの魔術。

 外に出る前に渡された様々な武技を思い出し。

 弓を槍に変え黒刀の一刀と両刃の槍を持ち詠唱、詠唱破棄を続ける。


「ここに統赫王有りムネアカオオアリて、晴天の霹靂を発せし火炎に御火様蝗トノサマバッタ大火羅トンボオオシオカラトンボ。炎を帯び双刃槍の一撃!! 穿て、時し。一矢報て銀矢ン魔ギンヤンマ


 自身に再度火炎のバフをかけ更に天獄を落ちゆる雨に強化魔術をかけた槍の矢の一撃を放つ。

 放たれた一撃は空を青に戻り地は赤に変えて。

 寒暖色のコント……ラストのトランプカード。


 ベルヴェールは双刃の槍を亜空間倉庫に収め続ける。

「オワリはじまり飽茜アキアカネ火舞踏しカブトムシ炎月ノ三日月……死神の斧デスサイズ!! 大鎌斬りオオカマキリ炎斧の瀑布 ヴァーミリオン・ストライク

 更に紅く染まる地に降りた炎獄の天使、ベルヴェールが火魔術速度を再々、再々、加速し流れる様に連撃の斬撃のスピードを上げてゆく。

  

「その火で満たせ潮火羅トンボシオカラトンボ!! 伏せし蒼炎の園畑。湖蒼花夢ぐりコアオハナムグリの波打ち立てろ!!」


 目まぐるしく変わりゆく紅の地の世界は蒼炎に空も青く再び訪れる一色世界の訪れ。

 寒暖色からの、波襲いし蒼炎染まる天変地異の真剣衰弱トランプ・オブ・ザ・セイム・ザ・カードゲームは続き取る。

  

 ……

 固有魔術結界複合……火と闇の複合、半位十キロを対象に上空含め囲むように出来た蒼炎の煉獄に捕らえた者(対象者)は地下から幾つもの火柱が上がり。

 鞭の様に対象者を攻撃し絡め取って行く。

 

 闇の第五階梯『魅力チャーム』で対象者は操られており炎を愛しく感じてしまう。

 炎の鞭は包みこむ様、絡め取られ逃げ様にも逃げられず攻撃を受け続ける地獄。

 

 また術師自体の火属性魔術の攻撃も対象者は防ぐ事は出来ても避ける事は難しい。

 ベルヴェール自身は半精霊化、外見も体自体に炎に覆われ一体となり。

 

 結界内では火属性の消費魔力が限りなく零に抑えられ術式展開速度も大幅に飛躍する。

 


 ……

 ベルヴェールは黒刀に火属性の魔力を流しながら闇魔術第一階梯の『幻痛ペイン』を発動し黒刀を振るう。

 『幻痛ペイン』、対象の精神に作用し倍の痛みを感じさせる。


「火盗り牙」

 火属性の突きの攻撃で胸元にドスッと鈍い音を立て。 

 グリフォンの魔法を耐え抜いた身体を無視し貫く……

「グラアアァァッッ」

 突き刺した箇所から闇魔術の痛みと焼ける痛みをそれぞれ味合わせる。

「……ラアアア」

 グリッと筋肉で捕まれた感触に軽く眉を顰め。

 グリフォンが右足の爪を振り上げているのを横目にベルヴェールは火魔力を流しつつ力任せに一気に刀を引き抜く。

 

 そして豪腕の一撃を振り落ろされると同時に…… 

「夕ひぐらし」

 火属性、下段からの切り上げ豪腕の一撃を払い前に距離を取る。

「グルゥゥ」 

 刀身に僅かばかりグリフォンの血がこぼれ落ちるが蒸発する。

 

 ベルヴェールは感じ無いのだが、周囲は文字通り火の海と化しており。

 グリフォンの体力を蝕んで行く。

 ただ凶悪な嘴を突いてグサッと嘴がベルヴェールに突き刺さった様に思えたが……

 

日影の陽炎ヒカゲノカゲロウ!!」

 火、闇属性の複合……自分の近くに自分の幻を一体生みだし攻撃する。

 火属性の陽炎は幻を見せ、影属性の影狼は対象者の影の中から刃が出る。


 グリフォンの背中を突き横腹を上段から振り下ろす。


「グラアアアァァッ!」

 力を振り絞るかのように周囲一帯へと響き渡らせる雄叫びを上げながら、襲いかかってくる。

「グラァ!?」

 結界の炎の鞭が右の後ろ脚をまた続けざまに両翼も絡め取られ苦悶の声を上げる。

「グルゥッ……」


 ベルヴェールはすかさず黒刀により魔力を流し。 

火多流ホタル……幻弍ゲンジ

 火多流の武技。

 通常より多く火属性の魔力を込めた。

 光輝く二連撃だが闇魔術の幻痛ペインも有るので痛みは倍々。


 グリフォンに向かって影から光輝く刀身が伸び一回二回と突き刺し。

 ――貫ッ貫

 続けとばかりに斬撃を火多流ホタルで出した幻影、陽炎と共にベルヴェール自身も切り上げ切り捨てた。

 斬々……斬

 

「グララララァアウアァ」

 

 なんの感情か、恐らく様々な痛みの苦悶の声だろう……

 グリフォンの身体はもはや動けまいと絡まって。

 裂傷はポタッと肉を焼いてるにも関わらず。

 ボタボタと落ちて行くたび、ジュージューと蒸発している。


「グルッグルウ」


 グリフォンはまだ諦めて居らず。

 絡み着いた蒼炎の鞭を無理矢理引きちぎって行く。 


「グルルゥゥゥ」


 引き千切りながら僅かながらも動く片翼で風の矢を放つ。

 前進して行く鞭を無理矢理引き千切り、裂傷が明らかに酷いように見える。

 

 ベルヴェールは空中に飛躍し進路を変更して風の矢を回避する。

 グリフォンの胴体目掛けて直上から襲い掛かかる。

 その一撃はグリフォンの身体に命中する直前、まるで待っていたかのように口を開け自爆覚悟の超至近距離ファイアブレス放った。


「グルルゥゥゥ!! ブアーーアアァルゥ!!」


「っ!?」

 咄嗟な事で、地面に足がつき後方に跳躍して回避するのだが……

 (熱くない?) 

 そうベルヴェール自身の身体は自分の魔力の影響を受けないのだが他にも火炎の耐性能力もシャンゼリオンの世界で右に出る者は居ない。


 そんな事を考えると、自滅でファイアブレスの火に今も燃えているグリフォンが前脚で地面を叩き分かっていたと言わんばかりに……

 

「グルルゥグルッルゥゥ」

 

 五十近くはあろう土の槍が地面から突き刺すように生えるのを見て。

 再びベルヴェールは空中に逃げ回避する。

 だがグリフォンは再々待っていたと両翼を広げ雄叫びをする。

「グラアアァァアアア!!!!」

生えた土の槍がベルヴェールに向けて空に放たれる。


 ベルヴェールは半精霊の同化が更に進み。

 その炎は翼同様、身体を身を包み。

 下半身は炎に呑まれつつ、上半身は黒髪に紅い毛先をなびかせながら、ゆらりゆらりと……

 その姿は炎の化身が如くだった。

 

 ベルヴェールは黒刀を鞘に収めさらに魔力を否、圧縮した魔力を込める。

 透明な水晶の鞘の中から刀身が漆黒から紅に色を染め。

 圧縮した魔力を一気に放つ。


火多流ホタル……閉気ヘイケ

 火属性魔力を圧縮しての居合い。

 刀身は熱く紅くなり紅一閃。

 

 土の槍と火剣の一撃がぶつかり合う。

  

 轟


 土槍は勢いを殺しながらも向かって来る。

織刃オバ!!」

 熱くなった刀身は一振り二振りと周囲を巻き込みながら幻影は増えて行く。

 

大織刃オオオバ!!」

 幻影となった刀身達は魔力を流され実体となり土槍を岩を砕く様に叩き折って行く。

 ……

 ――砕!!――砕!!

 …… 

 「黒円クロマド!!」

 その斬撃は熱風を生みながら刀身は黒炎と紅炎が混ざりながら勢いを増し土槍は一瞬にして灰となる。

 ベルヴェールは閃光が如くグリフォンの目の前まで距離を詰め……

 「火明ヒメ

 刀身が一瞬にして発火し爆発する。

 

 ――轟ッ轟!!!!

「ッルル!!」

 グリフォンは目の前での爆発に目を奪われながらも咄嗟に右前脚を振り下ろし……躱され。

 嘴で突きの連撃を繰り出す。

 

 (ここだな)

 

  ベルヴェールは一瞬に隙を突き…… 

火鳥閃光カトリセンコウッ!!」

 高魔力を込めた剣技……絶剣(必中)の炎環結界。


 ――塵、塵々……散り空気も地も何も無い焦げた空間。

 グリフォンの沈黙? 戸惑い。 

「…………」


 ベルヴェールは続け様に魔術を放つ。

油瀬見アブラゼミ!! 駆けろ上げ葉鶏アゲハチョウ。揚げろ鬼揚羽キアゲハ!! 我、鬼人と成りて炎魔皇閭鬼エンマコオロギの供えし嘆きの一輪華ハーミットブレイク


 ――瞬と目に見えない閃光の連撃と一撃。

 

 最後にカチャンと刀を鞘に収める。

火多流ホタルゆれゆら流れし蒼炎川、色移し供えられた睡蓮花。王者流円オジャルマル伝焔デンボ月明ツキアカきは判子の地への朱里アカリかな」


 グリフォンの一撃は届く事なく。

 ベルヴェールを幾度となく襲った。

 だが、その嘴は宙を舞って……

 時超えし、攻撃の後撃にて。 

 ドンッと首が落ちるのだった。

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