5話

 屋敷の周囲には巨大な樹木が連なっている事から山か森だろう周囲の空気は冥界のダンジョンと繋がっている為。


暗く冷たく重い。


威圧感と言うより畏怖するような感覚で早朝の海辺に霧りがかったなんと形容したらいいか不気味で鳥肌が立ちっぱなしだ。


「まずは索敵だな……えっと魔力を足元から地中にかけて……と地脈を感じたら魔力をかけて流して行くと……」


 ゼロツーの知識、シャンゼリオンには存在しない広範囲の魔力感知、地脈に魔力を流す事により地面に接している存在、地形や建物、生き物の類を索敵出来る。


 近くほど鮮明に遠くになるほど効果は薄くなるが魔力量に比例する。



「恐らく元々あった場所は分かるんだが、途中というより一定の範囲から曖昧になるな……ゼロツーの言ってた冥界のダンジョンなんだろうけど、とりあえず引っかかったやつから片っ端試して行くか」


 屋敷の周囲を取り巻くように覆っている木や草といった植物は日本に居た時と似たような物もあった物だと思い見ていたのだがその思いはすぐ良い意味で裏切られる。


 それは見たことない異世界の植物が大半で初めて見るもの赤や黄色、青や七色まで異彩を放つ奇抜な物が目に入る。


 森の不気味な空気を感じながら、森の中を歩き始めるが道らしい道は無く見上げる程の大木が多数生えているのを見て考える。

 (いっそ空を飛んで移動してみるのも有りかもな……どうやって飛ぶのか試して見ないとだけど) 


「えっと……翼を消した要領で背中に魔力を……」


 ばさあああ!!!……シュルルル。

 魔力を込め背中から勢い良く、いく対もある黒翼が広がり黒炎と共に薔薇の形になって収縮して行く。


「グルルルルルルルゥ!」


「なっ!!!」

 

 すぐその場を離れ飛び立とうとした矢先のベルヴェールだったが、一足遅く声の聞こえた方向を凝視する。

 目の前や後ろ等の類ではなく……上……正確には空つまり魔力感知に引っかからず上空からやって来たそれは……その姿は鷲の翼と上半身、獅子の下半身を持つ怪物、体長は五、六mにもなりそうな程の大きさで天空の死神の異名を持つグリフォンが威嚇するよう唸り声を上げ足を振り上げていた。


「……っ!?」


 ベルヴェールはその一撃を横に跳んで回避し跳んだ先に生えていた木を蹴り、三角跳びの要領で攻撃を外した。グリフォンの胴体へと魔術を叩き付ける。

 

 

「……流石異世界って!かあっ!!火球!!!」


 グリフォンに向かって行く。

 火球は激しくグリフォン身体にぶつかりよろけながらも高度を下げ。


「グルルゥ」 

 

 ベルヴェールとの立ち位置が逆転しながらも両翼十メートルはあろう翼を広げ威嚇するかの如く前脚を蹴り上げ五十近くはあるだろう風の矢をベルヴェールに向け放つ。


「グルゥッ!!!!」

 

 ベルヴェールはこの戦いやこの場所の緊張感を感じつつも、どこかこのグリフォンが戦闘を楽しんでいる様に感じていた。

 それはベルヴェール自身も同じで亜空間倉庫から黒刀を取り出し真正面からグリフォンに向かって飛んで次々に魔術を放つ。

 

「戦火の口火」

 火球が一回り二回りとグリフォンを呑み込む程大きくなって行く…… 

紅鏡シャムシエル!!」

 その勢いで火球は弾け飛び…… 

「赫輝!!」「白い熱体夜アークロスナイト


 ――轟


 ……火花が散り爆発的に白い光に包まれ分裂した火球が風の矢と衝突し周囲の温度を上げていく。


「グルルルルルラゥ……」 

 

 散弾した火球と一瞬眩い火炎の光を浴びグリフォンは墜落して行く。


 ――轟っ!!!!


 墜落した衝撃と何より纏わりつく炎を消す為グリフォンは暴れ回る。


「グルルルルルルルァァァ!!」


 メキメキと音を立てて折れた木をチラリとグリフォンな膂力に苦笑を浮かべながらも黒刀を構え……


火精の障壁サラサラウンド」 


 暴れていたグリフォンの周りを炎の壁が囲い込む


「グルルゥッ」

 

 甘いと言わんばかりグリフォンは跳躍し翼を広げ何度もバタつかせ炎の壁の内側から竜巻を起こし炎を吸収し飛散させた。


「グラアアァァッッ!」


 煽る様に吠えグリフォン。

 

「……何?」


 思わず凝視し手が止ま……

 

「……ると思ったか!!」


 ベルヴェールはすかさず亜空間倉庫から双刃の槍に魔力を流し投擲する。


 轟

  


 グリフォンは後方へと跳躍して回避するが雷の衝撃波は空間を歪め小爆発わ起こす。


「グラアァッッ」

 

 グリフォンはバランスを崩しよろめき……その隙を突くかのように、槍から弓に変え火属性の矢を放つ。


 ……

 槍の投擲とは違い一本の矢は空間魔術により膨張し破裂し三百はゆうに超えるその火矢は炎の雨となって降り注ぐ。


「はあ!!!!」


 ――斬


「GYAAAAA!!……Oh」

 

 グリフォンを討伐したベルヴェールは焼け野原となったその場所を後にして何匹かのモンスターと戦い現在は地竜アースドラゴンと戦いその命も消えようとしていた。


煉獄の雄牛パガドリウムブル

 地竜アースドラゴンの四肢から始まり次々と闇の槍が突き刺さり身体を炎が包む。

 動かなくなった身体に纏わりつく様、炎が呑み込むその姿は雄牛になりドラゴンの鳴き声とは思えない牛の様な声が響くのだった。


「……Ooooh」


「天剣……火星」火属性と紐づけ刀身は瞬時に冷えその入り口は一瞬にして凍る。

 天上からの一撃。

 

 ――轟煉獄の雄牛パガドリウムブルが急激に冷え爆風を起こす。

「GYAAA!」

 ――斬、地竜アースドラゴンの首を一閃

「Oh……」

 ドサッと首が落ちる身体は流石ドラゴンと言うべきか四肢等の闇の槍以外目立った外傷はなく首が落ちた。

 切り口は凍り血も出てないない。


  

「収納」

 

 (ドラゴンの素材は無駄がないて言うし、あまり傷つけずに済んだな。) 

 

「それにしても……こいつは何なんだ」

 見つめる先は灰となった身体と黒い魔石らしき物が一つ。

 (地竜アースドラゴンから必死に逃げてる様だったが、ゼロツーとかアンジェリカに聞けばわかるか?

 なんか喋ってたし、一応持ってくか人と思って助けようとしたんだがな)

 ベルヴェールは戦争を経験している影響か融合の影響か人らしき者もが亡くなっても特に悲壮感無く魔物達と対峙していた。

 

「……なんか火魔術の武技て連撃ばかりだよな、夏の虫のやつとか一応固有魔術見たいなんだけど……欲張りすぎか??」


 欲張りすぎである。

 シャンゼリオンに置いて属性を身体や武技に乗せるまたは生み出す魔装が出来るのは今を考え二三人、片手で数える程だろう。


「ゼロツーの知識だと芸術??見たいな魔術使ってた見たいだけど俺も考えて見るか」


 物欲しげにあれもこれも、これは出来る出来ないと色々想像が捗り気づけば森を抜ける一歩手前まで足を進めていた。

 森を抜けると荒野になり冥界のダンジョンとの狭間が近いのか更に重苦しいプレッシャーを感じる。


「索敵してないけど見た所モンスターも見えないから、さっき考えた魔術でも試して見るか」

 


火の薔薇ファイアローズ」中位初期相当の魔術。

 二、三階建ての大きさの炎の薔薇が一輪咲き。

 ぽんっと気の抜けるような勢いで矢と言うよりか花粉と言った方がしっくりくる炎の矢が周囲にこれじゃないよと言わんばかり撒き散らす。


「うん、ダサい。アローとファイアローズを掛けたんだが……違うなこれも融合した影響だな」

 (ゼロツーみたいだし)


「あっそういえば、この黒刀、闇の最大魔術使えるんだよな??」


 ベルヴェールは黒刀に魔力をドクドクと自分の血が流れるようにまた黒刀も脈を打つようドク……ドクッと魔力を呑み込み喰らっていく。


「……」

 (まだ呑み込むのか、そろそろキツいんだが)

 

「だあ……はっ!? 駄目だ……」

 黒刀は意思が有るように喰らい続ける。

 あまりの失った魔力量に思わず片膝をつきながら行き場を失った魔力を纏め調整して行く。

 本来黒刀闇魔術に特化した魔力媒体の為、詠唱破棄や無詠唱で発動出来るのだが……現に今魔力暴走し自分を含め周囲を吹き飛ばしてしまう程の魔力が散乱している。

 

ベルヴェールはゆっくり確実に詠唱し、形にして行く。

 

『空数ある一つは青、小さく届く汝に年重なり、流れ二つに一つ、一つと二つ、激しく儚く理を外れ汝変わらずの者へ、届かぬ音は空数に響く気づく歩く、暗い道のり日々照らす月、握りしめた手、汝離すことなく、永遠に近い永遠の淵、無音の歌を抱擁し夢見夢喰いのまま望まぬ目覚め夢見心地の汝と共に』


夢喰いし日々小さき少年少女の音楽祭ディア・ラル・ラリ・ドゥ・パル・トゥ・ハーメルン

 

 闇属性、推定十五階梯の神呪、ベルヴェールの魔力に合わせた固有魔術だがベルヴェール自身闇属性では無いため黒刀が無いと使えず尋常ではない膨大な魔力を消費し行使する。

 地表と上空に展開した魔術陣から均衡を崩す天変地異を起こす。

 空も地も青色の空間に覆われガラスの中に居る様に感じるが次第に空間はヒビ割れ狭間から宇宙が見え星が覗き引力に引っ張られ空に近い物は上へ地面に近い物は下へ吸込まれる。

 運が良いものはそのまま宇宙に放り出されるが狭間に引っかかった者は狭間と間に切られ吸収されてく、運悪く引っかかった場合、空間に詰まり次々と対象が重なり圧死、林檎の様に潰される。

 その音は豪風とは形容し難く場所や位置、状況によって異なり、笛の音やラッパの音、ドンと太鼓のような物等、様々な風と肉の音達が響き渡る。

 その範囲は数キロに渡り魔術終了時、青色の空間だったそこは木々や山は無く海も地も割れ血の雨が降り血の海になり臓物の山となって赤く染まる。

 

「Gyaaaaaar」「ショオーッ!!」

 竜種や大型の類のモンスターか空間に気づき警戒の雄叫びか狭間に呑み込まれた刹那かベルヴェールは魔術を限界まで使い横になって状況を見ていた。

――踏々、踏々!!踏々!!

 ドドドッと異変に気づいた動物や魔物達が右に左に縦横無尽に走りながら躓いた者も踏まれ、のたうち回りながらも様々な生き物が必死に死に物狂いで逃げていく。 

『GYOGYO』「みーみっ!!」「きゅううううん」

「Pyeeッ!Pyee!」『ガガウガウワウ』

 

「ォウオェェエーー……」

 魔力が無くなり心身が擦り切れていた為かあまりの悲惨な光景に耐性のあるベルヴェールも思わず吐く。

 (この世の終わりだ。前世では散々、火の雨や戦地に行って戦って戦って戦い抜いて生き死を分けながら生き抜けていたんだがな)

 あまりの気怠さに立つことも口を動かす事も出来ず吐いたまま倒れ込む様に横たわる。

 (これを見るとこの力があれば前世でも……ちっやるせないな、今更考えた所でだ)

 

 今こうして居られるのは幸いな事に魔術を数十キロは先に魔術を発動した事だろう、こうして安全と言うべきかベルヴェールは種族が天使族になった為、五感を含め人外の鋭さなのだが……

 (森が騒がしいな異変に気づき始めたか、原因であるこっちに魔物が出ないのを祈りたいが最悪……)

 ベルヴェールは徐ろに亜空間倉庫の腕輪から『子猫の転移魔法陣』を出す。

 (話しが出来るて言ってたが、今は無理だな)

 ベルヴェールは子猫の転移魔法陣に魔力を流す水色の紙がパチッと火がつきチリチリと燃えて行く。

 (あれ? ゼロツー?)子猫の転移魔法陣に魔力を流すも、紙が燃えるだけで何も聞こえない。

「……い、聞……える、か?」やっとの思いで声を発する。


 声に反応したのか、魔力が殆ど無くなってなけなしの魔力となったベルヴェールに呼応したのか地面に背を着いてる周りに蒼白い光に包まれる。

 

 恐らく魔法陣か何かだろう。

 (何となくだが、この感覚は転移だろうな)

 

 ベルヴェールは察するが少し違う。

 初めに精神世界からシャンゼリオンに転生した際も光に包まれ現世に呼び出されたが、それはアンジェリカが行った事であってゼロツーでは無い。

 まだ出会ったばかりのゼロツーは馬鹿の様に感じるがベルヴェールよりも異質な存在なのは間違いない。

 何より、死を司る神であり異世界で冥王をし、前世は本人曰く地球に住む日本人だった。

 他にも幾度と異世界を渡り歩いて、気に入らない世界があったら消す等、常人には理解し難く現在発動中の魔術も普通の訳がなかった。


 突き刺す様に地面から光が差し込み魔法陣から蒼白い手がベルヴェールの手を握る。

「っ!?」

 その繋いだ手は光によって一緒に魔法陣へ吸い込まれると、さらぁーと砂浜の砂の様に散る。

「な!? 腕が」

 片手が消えたベルヴェールだが不思議と痛くは無く手も身体と繋がって居る感覚がある。

 その後、次々と無数の手によってベルヴェールの身体は小分けしながら魔法陣の先へ運ばれて行く。

――塵――塵――塵――塵

 ベルヴェールは身体が徐々に無くなって行くのを不安に感じながらも、自分が魔術を行使した先を見つめていた。

 

青色の空間はヒビ割れた宇宙の漆黒と重なり薄暗く徐々に空間が閉じ周りの景色と同化する一つ違うのは、そこに草木を含め生き物の息をするような者の気配は全く無く文字通り全滅と言った所だろう。

 森からも怯えと恐怖、戸惑いといった感情が伝わり、ベルヴェールの周囲は魔物や生き物達は近づこうとしない。


 次々とベルヴェールの身体は無数の手によって分解されては運ばれてを繰り返して行く。

 ――塵、塵

 いよいよ最後と顔の左半分、首を残しベルヴェールはその景色を焼き付ける。

 

 塵。

 

 最後にベルヴェールが見たのは赤い雨が降り。

 ……

 山か? 波の様な形容出来ない。

 ……赤黒く蠢きながらも、青色の空が赤く暗く落ちて行く。


 それはシャンゼリオンで彼が、初めて見る夕陽のようで同時にベルヴェールの左眼も転移陣に吸い込まれ瞼を閉じ魔法陣の先へ落ちて行くのだった。

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