第3話 神様になった人


〜〜 そして現在 〜〜



「ええと、まずはお友達からということで、いかがでしょうか……?」


 突然の求婚に困り果てた私は、まずは彼とお友達になるところから始めようと思いました。

 だって彼のこと、何も知らないんですもの。


 神になった彼は、アルミティという名前を授かりました。

 アルミティは毎日毎日、私に愛の言葉をささやきに来ます。


「ああ、俺だけの女神。なんて美しいんだ」

「愛している、アステリア」

「君以外に望むものはもう何もない」


 そんな言葉をかけられるたび、私の心臓はうるさく高鳴り、顔は真っ赤に染まるのです。


 彼はあまりにも私のところにいる時間が長いので、神としてのお仕事は大丈夫なのかと心配しました。しかし彼はどの神よりも有能のようで、すぐにその日の仕事を終わらせてしまうようでした。


 そりゃそうです。私が六回も能力を授けたのですから。


 他の神々もアルミティの存在には驚いていました。人間が神になるなど、そうそう無いことですから。

 しかし、彼はひとを引き付ける魅力を持っていたので、他の神々ともすぐに打ち解けたようでした。


 ある日、神の友達から、彼は有能で人柄も良いし、そんなに愛されているなら試しに付き合ってみてはどうかと言われました。


 いきなりお付き合いすることは、色恋と無縁だった私にとって、とてもハードルが高いことでした。しかし、確かにお話してみないことにはお友達にもなれないので、お仕事がない時間はなるべく彼と一緒に過ごしてみることにしました。


 そして、少しずつ彼のことがわかってきたのです。


「俺は、君の側にいるために神になった」


 彼は、自分の今までの人生について教えてくれました。

 最初に会った時に私に一目惚れをし、私に求婚するために全ての人生で善行をし、不運な死を遂げ、神になったのだと。


「そんなことのために、六度も非業の死を遂げたのですか……?」


 自分のせいで彼に六度も辛い思いをさせてしまったことを知り、私は心を痛めました。

 人間にとって、それは途方もない時間と苦労を伴うことだったでしょう。そして、神になるなんて偉業を成し遂げるには、並外れた努力と強い精神力が必要だったことでしょう。


 一体どんな覚悟を持って、彼は生きてきたのでしょうか。


 私が物憂げな表情を浮かべていると、彼は真剣な顔でこう言うのです。


「俺にとっては、そんなことのためではない。一度目の人生で絶望した俺にとって、アステリアはまさに女神のような存在だった。俺の心を救ってくれたのは、君だけだったんだ」


 そんな大層なことを、私はできていたのでしょうか。

 でも、知らず知らずのうちに誰かの心を救えていたというのは、神としてとても喜ばしいことでした。


 そして、七度の人生を経てもなお私のことを愛してくれている彼の一途さを知りました。

 すぐにこのひとの気持ちに答えられないことが、何よりも申し訳なく思いました。


「少しずつでいい。俺のことを知っていってくれれば。そして願わくば――」


 彼はそこで言葉を止め、私の手の甲に口づけを落としました。

 そんなことをされたことのない私は、それはもう顔が真っ赤になっていたことでしょう。


「俺のことを、好きになってもらえると嬉しい」


 彼はとても熱い眼差しを私に向けて、そんな甘い言葉を口にするのです。


「そのためなら、俺はなんだってしよう。七度の人生を君に捧げ、神になったように」


 彼の熱を帯びた瞳に射られた私は、心臓がうるさくて、顔が熱くて、思わず手で頬を覆いました。

 そんな私を見て、彼は愛おしそうに笑うのです。


「愛している。アステリア」



 ――どうやら、この方の溺愛から逃れることは難しいようです。


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異世界転生させる側の神ですけれど、欲しい能力はございますか? 雨野 雫 @shizuku_ameno

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