後半 秘密の関係
「ていうか、絶対に内緒ですよ?他の人には」
「も、もちろん。頑張る雅乃のキャリアを潰すわけには行かないから」
「じゃあ、なんでそんなアワアワしてるんです?」
「それは……」
「?????」
「胸の揉み方とか、わかんないし……」
自分で言っていて、カーッと顔が沸騰するのを感じた。
「それは………まだ修一君に下心があるからだと思いますが……」
「いや、ないよ!本当に。ただ、慣れないから……」
「まぁ、それもそうですね。そういうところも、修一君です」
雅乃は優しくニコッと笑った。
「ついてきてください。その悩みを解消して差し上げましょう」
「え、うん」
本でもなにか読ませられるのだろうか。
こうして俺は通学路をずれて、雅乃についていった。
◇
「って、雅乃の部屋!?」
「はい。今日からもう始めちゃいましょう」
「だから、その心の準備が!?」
「早かれ遅かれ、いつかは揉むんですから!今日からやっちゃいましょう!」
到着点は懐かしの部屋だった。
昔とは印象がガラッと変わって、今はシンプルさが目立つインテリアだった。
頑張れば男の部屋にも見えなくは……ない?くらいの感覚。
だが、そんな中でも一つ目を張るものがあった。
「な、なんですか……?そんなに見つめて」
「あ、ああごめん」
「下着とかありましたか!?」
「いやないよ!」
モデルルームのように整頓されているので、そんなものは一切目につかなかった。
「この衣装……ちゃんと雅乃もアイドルなんだなって」
「そうですよ……まだ売れないどころか、収益ゼロの趣味レベルですけどね」
「いつかは見たいな、ステージ」
「ダメです。修一君に初めてアイドルの私を見せるのは……武道館なんですから」
「だから頑なに見せてくれないのか……」
「そうですよー。アイドルの片鱗も見せてません」
だからこそ、この衣装に吸い寄せられてしまった。
纏ってる雰囲気に、魅了されてしまったのだ。
「どうして、こんなに頑張るの?」
「それは……内緒ですよ。種が明かされたトリックは面白くないでしょう?」
「でも凄さは変わらない」
「うまいですね………」
うーんと頭を悩ませて、雅乃は言う。
「じゃあ、ヒント言いますね」
「うん」
「覚えてますか?昔、私がアイドルになりたいって言ったら、無邪気な顔で絶対になれるって言ってくれたんです」
「うーん。言ったかな」
「言いましたよ。それで決心しました。絶対にアイドルになって、武道館に行くって」
脳内にアクセスして、その記憶を探る。
いつの話だったかな……………
あ、あの時か!
『私、アイドル!になりたい!それでね、修一のお嫁さん』
『すげー!鹿乃ちゃんなら絶対なれるよ!』
『だって雅乃だもん!』
『でもね……』
あの雅乃の純粋な目は今でも強く印象に残っている。
あれ、でもあのあと俺は、なんて言ったのだろうか……
続きがあったような…………
「これで終わりです!ささ」
パン、と手を鳴らされ、意識を雅乃に戻す。
そこには、何かに飢えている獣がいた。
紅潮した頬に、餌を求める犬を思わせる吐息、チラリと見える白い歯は、まさに狼。
その全てが雅乃だった。
「始めましょうか?」
俺は一体どうなってしまうのだうか。
◇ ◇ ◇
「そ、そうです……そのまま、優しく……」
「こ、これでいいの……?」
「はい……優しくですよ?」
ベットに腰掛けるようにして床に座り、雅乃が俺にもたれかかっている。
そんな雅乃を後ろから包み込むようにして、育乳マッサージを行っている最中だ。
もちろん、俺が初めてというのもあって服の上からやってみることになった。
ゆっくりと、そこにある膨らみを揉み上げる。
「…………んっ」
暖かな吐息が、手の甲へと触れてくすぐったい。
「上手い、ですよ……そのまま続けて……ください?」
「わ、わかったよ……」
言われた通り、何度も何度も繰り返す。
円を描くように、下から上に、下から上に……
「はぅ……!あっ、んん!」
柔らかな感触が手の中で反芻するたびに、雅乃はモゾモゾと揺れ動く。
「もう、我慢できません……!あ、あぅっ……!」
その余裕のない嬌声は、今まで聞いたことのない声だった。
健気にアイドルとして頑張っている子が、胸を揉まれて悶絶している。
その事実は童貞男子高校生にとってはあまりにも刺激が強すぎた。
「ちょくせつ……直接揉んでください」
「え!?でもそんなの……」
「いいですから!そっちの方が……」
俺の手を持って無理やり服の中へと放り投げる。
下着の中にあるものを、同じようにマッサージする。
「あっ、あん!や、っ……んん!」
服の上からでは全く違う感触がそこにはあった。
「やっぱり、気持ちいいです!」
マシュマロのような、伸縮性のある柔らかな感触。
そこにアクセントのように存在するのは、ツンと上向いた何かだった。
マッサージの方法上、手の中でその物体が擦れる。
「にゃっ、んんっ!そこ、もっと擦って……!」
「え、でもこれって……」
「いいから早く擦ってください!」
言われた通りに胸から手を離して、指でそれを爪弾いてみる。
「なにそれ、やっば……!んっ……」
先ほどとは大きく変わって、体が反応している。
「やっば……なんかきそうです……」
「どうすればいいの……?」
一瞬手を止めてしまう。
「続けろ!続けて……ください……!お”っ」
雅乃は腰を必死に突き出して、何かに擦り付けるかのように上下に動かしていた。
「きます、やばいです……!何か……くる、くるくる……!イク、イッっく……!」
瞬間、何かが弾けたように痙攣した。
「あ、やっばっ……これ、きもっちい……」
「だ、大丈夫……?」
魂が抜けたように、雅乃はそこにへたり込んだ。
「だ、大丈夫です……これ、女性ホルモン……やばいです」
「それは、いいこと?」
「はい。すっごくいいことです……」
「よかった」
「これからも、よろしくお願いしますね?修一君?」
「うん……」
こうして俺たちの育乳マッサージは本格的に進んで行った。
◇
「じゃあこーゆー感じで写真、お願いしますね」
雅乃の言われた通りに写真を撮る。
SNSにアップするためだ。
雅乃の目標は、SNSフォロワーを増やすことが目的であって、育乳マッサージは手段であることを忘れてはならない。
画面の中の雅乃に指示を飛ばす。
「もっと力抜いた方が雅乃らしいよ」
「んーこう、ですか?」
「お、いいじゃん!」
シャッターボタンを連打して、その時を保存する。
「うん!すっごくいいと思う!」
「見せてくださーい!」
「これなんだけど」
画面を雅乃に向けて見せると、ふんふんと頷くようにして前屈みになる。
すると、今日の胸元が緩いために、白の刺繍が隙間からのぞいた。
「うわっ」
「??どうしましたか…………あ」
俺の視線で気がついたのか、胸元の隙間をさっと埋めた。
「ごめ、違くて……」
「いいんですよ。私と修一君の仲ですから……」
俺の手を取った雅乃は、胸の方へと手を寄せた。
「じゃあ今日も、よろしくお願いしますね?」
◇
2回目の育乳マッサージは、滞りなく行われた。
それからというもの、どんどんマッサージは過激になっていった。
◇
今日のテーマは仲良しデート。
なので、それにちなんだボーリングに来ていた。
ちなみに、雅乃の服装は、おへそが見えるくらいの短い丈のシャツに、太ももが大きく見える短パン。
周りの視線も、少し感じる。
「そういう格好……結構見られないの?」
「見られますけど……それがアイドルですから。SNSでもこういった体のラインを出している服はウケがいいですし……」
「確かに、そうだね……」
どくんと、嫌な感覚が心臓に突き刺さった。
× × ×
「っしゃー!俺の勝ち!」
がっしゃんと大きな音をあげると、画面にはストライク!のでっかい文字。
「あー……負けてしまいましたね……」
観念したように頷くと、短丈シャツの両裾を持ち上げた。
「じゃあ、お仕置きのマッサージですね……?」
◇
「っっっ……!ちょっと!激しすぎますっ……ん!」
「バレるよ……?」
「っ!ずるいですっ……!」
お会計を済ませる前に、人気のない廊下に連れ込み、マッサージする。
こうして、人の目を盗んで行為に至ることが、俺たちの日常となっていた。
◇
「うわっ!見てください!この数字、すっごいです!」
「いち、じゅう、ひゃく……せん!?」
授業終わり確認すると桁違いの数値がそこにあった。
「しかも、応援コメントやいいねも沢山ですね……」
「本当だ……あ、ほら、ライブに行きたいって声も多い……」
「間違ってなかったんですね……」
アカウントに寄せられている声の大半が賞賛ばかりだった。
「次のライブ、絶対に失敗はできません……!」
雅乃には頑張ってほしい。
その一方で、どこか置いていかれるのを感じた。
◇
「見てください!5千人です!」
どうやらライブは大成功だったようで、破竹の勢いで知名度は増していった。
切り抜き動画がバズったらしく、一度勢いに乗ると止まることなく成長していった。
「これはもっとSNSも頑張らなくてはいけません!協力してくれますか?」
「………………」
「修一君?」
「あ、ああ!もちろんさ。雅乃がアイドルになる為だったら、どんなことでもするよ」
また何か、間違ったような気がした。
◇
「その格好は流石に……」
「夏ですから!白ビキニが定番でウケがいいんです!」
雅乃の感性は、正しいように思える。
ただ、ずっと見てきた女の子が世間に知れ渡ってしまう。
その感覚がどうしても慣れなかった。
いつものように、シャッターを押す。
光の当たり方に、レンズの設定。
雅乃を上手く写真に収める技術は、大幅に向上していた。
画面の中の雅乃は、誰がどう見ても羨むほどの美少女で、きっと他の男に胸を揉ませていることなど誰も思いもしない程に清純だった。
次々とポーズを変える雅乃に置いてかれないように、さまざまな角度、タイミングでシャッターを切る。
狙ったポーズ、作った笑顔、計算された衣装。
一体いつからこんな業務的になってしまったのだうか。
問うても答えが出ることはなかった。
◇
「これが大バズりってやつですか!?」
白ビキニが完全に決め手だった。
「今後はこう言った方向性で行くのが良さそうですね……」
「それってどういう?」
「うーん……男性ウケ?が良さそうな感じですかね」
「そんなものしなくても、もう十分に人気者だって!いつも通りのオフショット狙おう?」
「でも!早く人気になりたいんです!」
その目は、必死だった。
「みんな私にパフォーマンスを求めてない!」
「そんなこと……」
「キャラクターなんですよ!それが一番で、全てなんです!」
「でも、でも……」
そんなことない!
そんなわけがない!
そう言いたかった。
君の笑顔は最高で、どこの誰にだって負けやしないって。
でも言えなかった。
俺はただ手伝ってるにすぎない。
何者でもない俺が、雅乃の人生を賭けた挑戦に踏み入る覚悟はなかった。
「時間は有限なんです!若いうちにしかできないことなんですから……」
この日の会話は、俺の沈黙で幕を閉じた。
◇
スクール水着、丈が短いセーラー服、ポリス、チャイナ服……
男受けだけを狙った選択は思い通り伸び、今では1万人まで届きそうな勢いだった。
それに加えて育乳マッサージの効果か。
コメントでも、胸に対する反応も大きかった。
『あれ、大きくなった?』
『胸の成長も一緒見守るコンテンツ』
賛美の声が上がっていた。
◇
今日は図書室での撮影だ。
もちろん許可はすでにとってある。
今回は図書館という真面目なイメージへのアクセントとして、派手さを取り入れた挑戦となる。
着崩した制服に、膝上20cmスカート。
本を読む気がない清楚系ギャルが図書館であなたと出会ったら?がコンセプトである。
「さて、今日も撮影しましょうか」
そう言って、ブレザーを脱ぐと、何か違和感があった。
「……え?」
「あっもう気が付きましたか……?」
間違いだと思った。
今まではちゃんと着ているから、露出が多くてもまだ安全だったのだ。
でも、今回だけは違った。
閑静な空間で、バレないように俺だけに耳打ちする。
「今日は下着、着てないですよ?」
「冗談は……」
「これが証拠でーす?」
もう一段ボタンを開けると、明らかな谷間がそこにあった。
信じられなかった。
あの、雅乃がここまで大胆になってしまうなんて。
誰が見ているかもわからない、クラスメイトがいるかもしれないこの空間。
今雅乃が騒動を起こしたら、炎上だってついてくるだろう。
そのリスクを背負ってまで、性に正直になることに驚きが隠せなかった。
「なんで何も言わないんですか?わざわざ揉まれにきてるんですよ?」
「撮影は?」
「しますよ。もちろん……気持ちよくなった後に、ですけど」
ドクンと、心臓が跳ねる。
股間に血液が集まる。
幼馴染、協力者、どんな関係でも、性欲で結びつけてしまえば同じものになってしまうことに今気がついた。
◇
「あんっ、さきのほう……もっとください……!」
空き教室で壁にもたれかかって、マッサージをする。
この膨らみの、弱いところを俺は知り尽くしている。
「ひぅっ……お”っ、お”お”っ………!」
弱点を責めすぎると、清楚のかけらもなくなって、欲望のままに腰を振ることも知っている。
そこに足を持ってってやると、雅乃は嬉しそうな声を漏らす。
「しゅういち……しゅういちぃ……!」
犬のように短く息を漏らして、必死に股を俺の膝に擦り付ける。
秘部から漏れ出した樹液が、俺の膝へと塗り手繰られる。
それはまるでマーキングのようだった。
「これ、あげたらもっとバズるよ?」
「だ、ダメ……こりぇは、二人だけのぉ……ひみつだからぁ……!」
「それってただ雅乃が気持ちいだけじゃない?」
「ちがいましゅ……!
グッと足を動かすと、噴火の如く体が跳ねる。
「お”」
「清楚なのに、その声はダメじゃない?」
「だってぇ……気持ちいいかぁ……あ”んっ!」
欲望のまま快楽を貪る様はまるで獣だ。
底なしの性欲に脳みそを預け、体を動かす。
そこには清楚のかけらもなかった。
「ほら、早くしないと人来ちゃうよ?」
「は、はい……!急ぎましゅ……」
急げと催促するように、先っぽに力を込めると、おもちゃのようにガクガクと暴れだした。
「やっべ……イッ………………グっッ」
快楽の喜びを、痙攣で表現してるかのように思えた。
それくらいに気持ちの良さそうだった。
「ほら、撮影行かなきゃでしょ?」
「………はぃ」
人形のように、ぐったりとしている雅乃の手を引いて、即刻撮影の準備をさせる。
下着は持ってきていたようなので、しっかりとつけさせた。
◇
雅乃の部屋で、この前の投稿の反響を見ることが一種の恒例行事になっていた。
その日の朝に投稿して、放課後に確認する。
お互いが役割を分担しているからこそ、褒められると嬉しいのだ。
いつも通り、雅乃がログインしてプロフィールへ映る。
「ん?ダイレクトメッセージ?ですか?」
「誰から?」
「んーっと……え!?大手事務所からです!」
信じられないというように、メッセージを開いてみる。
「アイドルデビューですか!?」
「いや、待って……」
興奮で落ち着きがない雅乃とは反対に俺は冷静だった。
心臓が刻む鼓動は深く、背中はヒヤヒヤとしていた。
「ここ見てよ」
「……グラビアアイドル…………」
どうやら最近の路線が、事務所の方に目が止まったみたいだ。
「グラビアの方ですか……」
「雅乃は、どうしたいの……?」
喉につっかかる重い何かを無理やり吐き出した。
今もざわざわと、雅乃の答えを想像して、心中穏やかではなかった。
「やりたいです……グラビアでも、チャンスですから」
「やりたいことからずれていっても?」
「今は違ってもいつかは夢に収束することを願っていますから」
「そっか……」
彼女に迷いはなかった。
そこにあったのは、絶対に成功してやるという強い意気込みだけだった。
この覚悟は本物だろう。
「修一君は……どう思いですか?」
ぎくりと心臓が跳ねた。
答えは、ずっと前から決まっている。
雅乃が他の男の前で、知らない男に肌を晒すこと自体、嫌に決まっている。
ましてや、グラビアアイドルなんて、水着でなんぼの世界だろう。
でも、このまっすぐな彼女を見てしまったら……
「賛成。雅乃なら絶対にものにできるよ。応援してる」
「手伝っては……くれないのですか?」
「俺よりも、プロの力を借りれるんだぞ?必要ないだろ。だから、いちファンとして、見守ってるよ」
お手早に荷物をまとめて、俺は雅乃の部屋を出た。
あぁ、かっこわりぃ。
自分の独占欲だけで、心から頑張れといってやれない醜さに嫌気がさしてくる。
でも、涙は我慢できたから。
それだけは良かったと思う。
今日で、俺だけの雅乃は最後だ。
明日からは、紛れもないみんなのグラビアアイドル、三ツ石雅乃だ。
◇ ◇ ◇
「あああああああああああああ!」
悔しかった。
何が?
プロになったことを祝えない自分が?
一人スター街道を駆け上がる幼馴染が?
全部違う!
大好きな人が、みんなのものになることが、俺は嫌なんだ!
雅乃のためだとやってきたことが、今俺の首を絞めている。
「そんなのって、ないだろぉ……!」
悔しい、悔しい、悔しい……!
運命が、憎らしくてたまらない。
嗚咽混じりの吐息は、いつしか涙と一緒に体外に放出さる。
「ここって……」
気がつくと昔、雅乃と一緒に遊んでいた公園にいた。
悔しさのあまり周りが見えていなかったらしい。
そう言えばここだったっけ……
昔、彼女が今の道を選んだのは。
『私、アイドルになりたい!それでね、修一のお嫁さん』
『すげー!雅乃ちゃんなら絶対なれるよ!』
『だって雅乃だもん!』
『でもね……』
「修一君!」
きっと走ってきたのだろう。
膝に手をつき、呼吸を整えている。
「何か気に触ることを言ってしまいましたか?」
上目遣いの困り眉が、問いかけた。
「ううん。雅乃はなにも悪くないよ」
「でも、こんなに苦しそうで……」
心配そうな顔で俺を撫でた。
「きっと、嫌なんだろうな……雅乃が他の男に汚い目で見られるのが怖い……外見のキャラクターだけで雅乃を理解されたくない」
まだ少し、心配だった。
この言葉が雅乃の足枷になってしまったら。
そんな疑念が頭をよぎる。
だってこれは全部独占欲だ。
付き合ってるわけでもないのに、みっともなく俺の欲を叫ぶ。
「ずっと、見てきたから!雅乃の努力も、可愛いところも、淫らなところも、真面目なところも……だから、だから……!」
でも、これを言ったら……
きっと優しい雅乃は悩んでしまう。
だが、そんな俺を見透かすように、雅乃は言った。
「いいですよ。思ってること、しっかりと口にしてください」
その顔は優しかった。
一緒に背負ってあげると、諭されてるような気がした。
「雅乃に触れるのは俺だけがいいっ!君を見るのも、見られるのも……全部俺だけがいい!」
言ってしまった。
クソカッコ悪くて、クソ重い、最悪の言葉を。
なんて女々しくて、傲慢なのだろうか。
高校生にもなって、こんな幼稚なこと言っているのが恥ずかしくて仕方がない。
「……幼馴染がこんなに重いなんて知りもしませんでした」
「………………」
「だって、いっつも文句も言わずに手伝ってくれましたから。どんな大変なことでも、いいよって言って頑張ってくれてましたから。そんな修一君には、とやかくいう権利、あると思います」
「でも、雅乃の人生に口出しするわけには……」
「ていっ!」
「いた!?」
急に軽くどつかれた。
俺何か変なこと言った?と雅乃を見ると、ふんすと鼻を鳴らして、人差し指をビシッと突きつけた。
「いいですか?一回しか言いませんよ?」
「え……うん」
俺が返事すると、満足したように笑って背を向けた。
「私がこんなに頑張れる理由……アイドルになった理由……それはね」
くるっと振り向いて、雅乃は続けた。
「修一君が好きだからなんだ」
「え?」
「君の為なら私は、武道館にだって立つし、おっぱいだって大きくする。ちょっと恥ずかしいけど……グラビアアイドルだってできんるんだよ?」
「好きって……そんなの……」
「だって、修一君は私の人生を変えたんです!」
「俺が……?」
「覚えてるかな?ずっと昔のこと……アイドルをやりたいって言った私を、肯定してくれたから」
……もちろん覚えてる。
あの時の雅乃の輝きはきっとどんなアイドルにだって負けやしなかった。
「無責任に背中押してくれた人だよ?あの時の修一君にどれだけ力を貰ったことか……」
雅乃はそっと胸を撫でる。
宝物に触れるみたいだった。
「ねぇ見て、修一君!」
無邪気にベンチの上に登り、フンと胸をそり返す。
その光景は、ずうっと昔に見たまんまだった。
「私、アイドルになりたい!それでね、修一のお嫁さん」
それは、いつしかの再現だった。
確か、あの時俺が言った言葉は……
「すげー!雅乃ちゃんなら絶対なれるよ!」
馬鹿みたいに。
現実も何もわからずに、心に思ったことを叫んでいたような気がする。
今でも雅乃ならなれるって心の底から思ってる。
ったく。バカすぎるぜ。
大好きな幼馴染に、告白どころかプロポーズされてるというのに、アイドルの衝撃が強すぎて、見逃しているなんて。
「だって雅乃だもん!」
その言葉、待ってました!とでも言わんばかりのドヤ顔で言い放った。
可愛いのも、ちょっとうざいのも、かっこいいのも、昔のままだった。
でも、胸の強調具合は変わったように思える。
育乳の成果か。
はたまた、彼女の成長の証なのか。
きっと両方だ。
「でもね……」
記憶のままに、言葉を刻む。
「あれ……?」
それなのに、この続きはできてこなかった。
あの時、俺は何て言ったんだ……?
どれだけ先を見通しても、見えるのは暗闇だ。
出口の見えないトンネルみたいだった。
困り果てて、雅乃を見る。
ベンチの上で、佇む彼女。
少しの風が吹き、天の川のように髪が柔らかくなびいた。
それを優しく抑えながら、恥ずかしそうにてへへと笑った。
「あ…………」
何万回も見てきたその笑顔を見た瞬間、出口が見えた。
逆再生のように、ずっと決まっていたように。
思い出した言葉は、ずっと簡単に出てきた。
「雅乃ちゃんなら、アイドルじゃなくてもお嫁さんがいい」
なんだ、ちゃんと見逃してなかったじゃないか。
「……そうです……修一君はそう言ってました……」
「どうして忘れてたんだろう……」
「きっと本当にそう思ってたからじゃないですか?」
「…………かもしれない」
自分のバカさに恥ずかしくなって、雅乃から目を逸らした。
すると、ベンチから降りた雅乃が俺の手を握る。
「一生のお願い……使ってもいいですか?」
「……いいよ。使っても」
ふへっと嬉しそうに息をするのが聞こえる。
握った手をそっと離して、俺の頬へと添えた。
「私を、修一君だけのアイドルにしてください」
夢を見るように薄く目を瞑り、唇を俺の方へと突き出す。
それが何を意味しているのか、バカな俺でも理解できた。
一回顔を近づけてみるが、届きそうになかったので、間合いを詰める。
ふわりと、鼻腔をくすぐるのは花のフローラルな匂い。
薄い唇はハリがあって艶やかで。
指輪の側面のように、美しかった。
目の前にある迫力にためらってしまうが、負けじと徐々に詰めて……
そしてついに、唇を重ねた。
◇ ◇ ◇
「どーでしたか?アイドルの口付けは?」
上目遣いで、前髪をいじりりながら聞いてくる。
俺は、どんなもんだったかと一瞬思考を巡らせては、すぐに答えを口にした。
「幸せの味がした」
俺の答えに、雅乃は花が咲いたような笑みを返す。
「私もです」
そんなアイドルを俺は、人生をかけて推していく。
終わり。
清楚系アイドルがド淫乱であることは俺しか知らない。 ニッコニコ @Yumewokanaeru
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