第八話 オンライン対戦ゲームで慣れないキャラを使うのは辞めておけ。

 前回から一週間後。 

 予定通り魔王とリーダーの対戦が実現した。


 舞台は東京メチャハイテクニナッタドーム。

 ウン十万の観客に囲まれながら魔王とリーダーは相対していた。


「まずはこの勝負、よくぞ怖気付かずに受けたと褒めてやろう」


 微笑みながら魔王が告げる。


「それと諸事情あって今回は三人称視点で地の文を書いているが、まあ許せ」

「なんかメタいことを言っている気もするが、気にしないであげるヨ」


 リーダーは悪趣味な成金コスで戦場に立っている。


「勝負に余計な私情は持ち込まない主義でな」

「奇遇だな、俺もだ」


 フッと笑いながら魔王が返す。


「ぶっちゃけユナイトの新シーズンで、マスター帯に上がったというのにエキスパート帯の試合にばかりブチ込まれて、連敗しレートを溶かしまくりながら三時までランクマに潜ってたから、気がついたら深夜三時にこの小説を書き始めているので、もうめっちゃ腹が立っているが、この怒りは貴様にぶつけるには八つ当たりが過ぎるというものだろう?」


「いや、何クソどうでも良いこと長文語ってるんですかアニキ」


 席に座って観戦していたのぞみんが呆れた顔で呟く。


「それとアニキが負け続けていたのは仲間のせいじゃありません。無料配布で貰ったストライクを使いたいばかりに、練習もせずランクマで中央を陣取ってるせいでアニキのレートは一向に1200以下なんです」


「ともかく、戦うとなれば勝ちは譲らないヨ」


 臨戦体制に入るリーダー。


「見せてあげるよ、ボクちんだけの魔術の形を」

「ほう、魔戦術を使えるのか?」

 

 基礎の魔術を習得した後、使い手のレベルがある一定を越えれば独自の魔術を作り出すことができる。


「魔術戦術、訳して魔戦術。BLE◯CHで言うところの始解、HUNTER◯HUNTERで言うところの念能力の発に該当する概念だな」

「わかり易い説明ありがとう」


 そう言ってリーダーが笑うと、二人の周囲を黒い霧が覆う。


「何が起こってるの?」

 

 のぞみんたち観客側からはしばらくの間、二人の対戦状況が確認できない状況にあった。


 ややあって、黒い霧が晴れると……


「そんな……」


 のぞみんの目には予想外の光景が映っていた。


「はぁ……はぁ……」


 息を上げながら、全身から血を垂れ流す魔王の姿。


「なんだ、もうギブかネ?」


 余裕そうな表情で勝ち誇るリーダー。


「まだまだ楽しませてもらうヨ!」


 リーダーの容赦ない攻撃が魔王を襲う。

 それを避けれず全身に攻撃を浴びる魔王。


「そんな……アニキが、あんな一方的に……」


 いてもたってもいられず、思わず立ち上がって声を荒げるのぞみん。


「頑張れぇぇぇ! アニキィィィ!」

「なるほど、向こう側からの声は届くのか」

 

 しかし本物の魔王はピンピンした状態で一歩たりとも動いていなかった。


「外の連中に幻覚を見せるのが貴様の能力か?」

「全国に配信されたり、霧の外側に投影されているのは事前に作った偽の映像だヨ」

「道理で霧から貴様の魔力を感じないはずだ」


 全ては目眩しの手品であることを魔王は目論んでいた。


「狙いは外から内側を知覚できないこの状況か?」

「その通りだ」


 突然、リーダー以外の声で返答があり身構える魔王。


「我らは暗殺専門の配信者集団」

「貴様を葬るために、そこの男に雇われた」

「これからここで行われる一切の出来事を、我々以外が知る術はない」

「結果はあの映像が示す通り、貴様の確実な『死』だけだ」


 黒いコートに身を包んだ4人の男が、霧の中から姿を現す。


「我々の名は『深淵の配信者』」

「5対1だ、悪く思うなよ?」

「最も、死人に口無しという言葉は知っているよな?」

「クックック……」


 異様な雰囲気の4人組に対しても、余裕を崩さず魔王は笑って見せた。


「面白い……何か企んでいるだろうとは思っていたが、こんなに堂々としたイカサマは他にないぞ?」

「これがもしバレればボクちんの配信者生命も終わっちゃうけどネ。まあ、それを今までこうやって何度も解決してきたんだ。大した問題じゃないヨ」

「良いだろう、少し遊んでやる」


 改めて、魔王VS深淵の配信者たちのラストバトルの幕が開いた。

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