第16話 意地
「出会いは突然に」というがまさにその通りだ。
日が僅かに沈みかけてた時、なんの前触れもなく目の前に矢が迫ってきた。
スキルのジェットて緊急離脱する。
止まっている状態からのジェットの急発進は、ジェットをマスターした俺でもきつい。
急激Gが襲い体が軋むようだが、矢が羽から生えるよりかはよっぽどいい。
避ける事を想定していたのか、続けざまに矢が向かってくるが、体勢を整えて矢から逃げる。
矢がくるとわかっていれば、ライバルのカモメさんに鍛えられた俺だ。
名実ともに音速の貴公子になった俺にはもう、矢は通用しない。
矢をよけながら、矢が放たれた方に向かう。
見つけた、見間違えるわけがない。
待っていたぞ夢にまで見た、恋い焦がれていた黄金の髪の女騎士。
女騎士と髪の色と同じ、金色の弓を引いている。
三本の矢は加速して俺に向かってくるが、空中戦を鍛えた俺には当たらない。
そして今度はこちらの番だ。
ファンネルを発動。
握っていた8個の羽を放つ。
従来の動きでは考えられない軌道で、風を切りながら刃をくくりつけた羽が女騎士を襲う。
あらかじめ聞いていたのか、女騎士は冷静に顔色一つ変えずに羽を盾で防ぎ、一つ一つ剣で羽を叩き落とす。
今まで幾人もの冒険者を相手にしていたが、レベルが違う。
ここまで通用しないのは想定していなかった。
簡単に羽が落とされていく。
クソ、あれを一つ作るのに俺がどれだけ苦労したかわかっているのか。
抜けた羽を選定し、丁寧に管理し、人間が落とした刃物やとがった物を小さくする為に砕き、そして羽にその刃物をくちばしでくくりつける。
それを無情にも一つ一つ叩き落とされていくのを確認しながら、距離を取る。
とうとう羽が全て落とされてしまった。
やはり並の戦士とは、ひと味もふた味も違う。
仕切りなおしすべきか、上空へ逃げよう。
そう思った時に上空に向かうと見えない壁にぶつかった。
壁はよくみると薄く青みがかった半透明な色だ。
「結界よ」
凜とした女性の声が上空の俺にも届いた。
いつの間に結界を張ったんだ。
そんな所作はみえていなかった。
違う。
俺と戦うと決めていた時から、結界を張っていたのだな。
くそ、俺が準備していたように、この女騎士も準備していたのか。
この結界はどうやって張ったんだ。
魔法かアイテムか、何度か突撃してみたが弾性があって破れそうで破れない。
解除するのは難しそうだ。
女騎士は剣をしまい、再度黄金の弓を構えている。
この結界内で鬼ごっこでもしようという事か、結界はざっと半径300mぐらいか。
わかったよ、決して俺を逃がさないという事だな。
そこまでラブコールされたら、こっちも腹をくくってやるよ。
女騎士は俺に向かって矢を放つが、それをなんとか避ける。
俺も逃げるばかりで反撃したいが、ファンネルがなくなった今、くちばしで攻撃するぐらいしかないが、中々あの女騎士に近づこう、という勇気が湧いてこない。
頼みの毒糞攻撃も在庫がなくなってしまい、次の生産予定は今の所未定だ。
俺が出来る事は、時より小石や小枝を拾って、ジェットのスキルを使って嫌がらせをするぐらいだ。
攻撃手段はないが、まだ諦めていない。
女騎士も矢を放つペースがゆっくりになっている。
おそらく残りの本数が、少なくなってきたんだろ。
弓が完全に無くなったら、諦めて帰るかもしれない。
今の所無傷だし、少しだけ生きる希望が見えてきた。
ただこちらは、一度でも矢が当たったら即アウトだ。
矢が当たったら仮に死ななくても、機動力が落ちた所を即詰められるだろう。
しばらく逃げ回っていたが、何故か女騎士が攻撃してこない。
女騎士の所に向かうと、女騎士は適当な枝に俺の抜けた羽を使って矢を作っていやがる。
慣れた手つきでさっと矢を作っている。
くそ器用だな。
俺がゴブリン時代に作った矢とは比べ物にならない。
あの女騎士は俺の引き分け狙いも許さないみたいだな。
わかったよ、こちらも覚悟を決めて攻めるしかない。
矢を作っている所を邪魔するように突撃する。
ちゃんと俺にかまってくれ。
女騎士に音速のスピードで突撃し、女騎士の手の甲に僅かだが傷をつける。
俺の特攻攻撃に、一瞬女騎士も驚いた表情をしたが、その後冷静に盾と剣を取り出す。
おちょくるように女騎士の周りを飛び回る。
時より毒を口から生成して、攻撃するがそれも盾で簡単に防がれる。
緊張感のある攻防が続くと、女騎士が何かのぬかるみにでもはまったのか、僅かに重心がずれる。
その隙を突くために特攻するが、女騎士と目があった。
その目に焦りはなく、冷徹な目だった。
やばい罠だ。
慌ててジェットで緊急回避をするが遅く、女騎士の的確な剣捌きによって、逃げよとする俺に剣先が襲ってきた。
鋭い痛み、熱さを感じた。
激しく地面にたたきつけられた。
やばい逃げなくては。
痛みと混乱の中、羽ばたこうとするがうまく空へ舞い上がれず、地面に再びたたきつけられる。
それもそのはずだ、俺の自慢の羽が遠くに転がっている。
片方の羽が丸ごと切り落とされた。
「ここまでね」
絶体絶命の状況にもかかわらず、相変わらず女騎士はいい声だなと思った自分に面白く思えた。
まだだ、俺はな諦めの悪い男なんだよ。
俺は女騎士の近くにある、自慢の片腕にある全ての羽をジェットのスキルを利用して女騎士に強襲させる。
ゆうに100は超えている羽が一斉に動き出す。
ここまでの数をいっぺんに操るのは初めてで、頭の血管が切れそうだが、どうせうまくいかなかったら血管の心配をする所ではない。
女騎士に青い羽が群がる。
なんの小細工もしていないただの羽だが、ある程度硬度がある。
あれだけの羽の攻撃を食らえば無傷なわけがない。
「やったか」
女騎士が青い羽根で覆われたが、一瞬で赤く燃える。
どうやら立ててはいけない、フラグを立ってしまったようだ。
女騎士が燃えた羽の灰を手で払いのけながら、悠々と出てくる。
「ふぅー、驚いたぞ、魔法をストックしていなかったら危なかった」
てめぇ結界だけじゃなく、魔法も使えるのか、しかもストックってなんだよ。
魔法を在庫として持っていて詠唱しなくていいのかよ。
ちくしょう、どんだけ有能なんだよ。
こちとら毒糞すら在庫をきらしているのに、そちらは炎の魔法のストックとかずるすぎる。
何だったらできないんだよ、この完璧騎士め。
女騎士が改めてトドメを刺そうと剣を振り上げる。
「ん?」
剣を振りかざす直前に女騎士が首元を片手で押さえた。
女騎士は首元に刺さった小さな羽を抜き取る。
油断したな、完璧騎士。
ファンネルも、片腕を失った一撃も、全てはこの一瞬の為にだ。
その小さな小さな羽には、毒マスターの俺が何種類もの毒をつけ込んだ特殊な羽だ。
一個しか作る事ができなかったので、絶対に外せないこのタイミングを狙っていた。
片腕を失って飛べなくなったが、完璧騎士お前も道連れだ。
女騎士は手のひらにある羽を数秒見つめると、何事もなかったのように羽を捨て、剣を自分に向かって振り落とす。
え、嘘でしょ。
超強力な毒だよ、あの羽一枚で鯨だって殺せる自信があるのに。
そう思った時には暗転していしまい、いつもの列に並んでいた。
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