第13話 音速の貴公子?

 あれ?

 新たに生まれたはずだが、相変わらの暗闇のままだ。

 

 転生エラーでも生じたのかな?

 体を動かそうとしたが、拘束されているようで思うように動かない。

 

 狭い部屋に閉じ込められているようだ。

 唯一動かせる頭を動かすと、壁にぶつかった。

 

 壁が僅かに割れた音がした。

 思っていた以上に壁が薄いみたいだ。

 

 もう一度叩くと、さらに壁が割れて僅かに光が入ってきた。

 それから何度も、頭がおかしくなった人みたいに壁に頭を叩きつけて。

 

 完全に壁が割れ、まばゆい光が入ってきた。

 入ってきた光に目が慣れていないが、何かが俺を覗き込んでいるのがわかった。

 必死に目のピントを合わせていると、超大型の鳥型のモンスターが俺を間近で見つめている。

 

 食べられると思い、思わず叫び声を上げてしまった。

 

 俺の絶叫に、鳥型のモンスターは不思議そうに頭を傾げている。

 ああ、そうだ今回はジェットスワローになる事にしたのを忘れていた。

 

 という事はこの鳥型のモンスターが、親のジェットスワローか。

 スワローというだけあってツバメに似ているが、羽が青く、尻尾が長い。

 音速の貴公子と呼ばれるよな気品を感じる。

 逆に人間に狩られないか心配だ。

 

 周りに三匹の雛達、俺の兄弟がいる。

 皆毛が生えておらず、親達と比べて不細工だな。

 まぁ俺も一緒か。

 

 とりあえず、この邪魔な殻を全部砕こう。


 ジェットスワーロとして生まれて一週間程たった。

 あっという間に毛が生え、親と同じ形に近づいたのには驚いた。

 この辺は普通の鳥より早いのかもしれない。

 

 この親のジェットスワローは、今までの毒親だったゴブリン達に比べて、愛情深く子供達に接している。

 一生懸命餌をとってきて、外敵がこないようにどちらかの親が必ず巣の近くで待機している。

 

 ただ問題があった。

 成長すると雛といってもそれなりに大きくなる。

 生まれた当初は大きな巣だと思っていたが、段々手狭になってきた。

 

 兄弟達は皆一カ所にギュギュウに固まっているが、俺の周りに隙間が空いている。

 密集しなくて快適とい言えば快適だが、なんか嫌われるような事をした覚えはない。

 試しに兄弟の方へ寄ってみると、三匹纏まって移動してスペースを維持するようになる。

 

 そして親も他の兄弟には皆直接口に餌を渡しているが、俺だけ餌を近くに放って口で直接渡さない。

 俺だけ餌が少ないという事はないが、明らかに嫌われている。

 何か嫌われるような事をした覚えはない。

 おそらく原因はステータス画面にある。


『レベル1 種族 ジェットスワロー HP11 MP20

 力7 素早さ12 体力10 魔力20 器用さ9 運3

 スキル 毒   マスター  世界中にある毒を自由に使いこなす

     ジェット     急加速する事ができる

 称号  同族殺し      同族を殺戮し続けた者に与えられる称号

 ポイント 0』

 ステータスはレベル1にも関わらず、ゴブリンやスライムと比べてかなり高い。

 

 流石上位種といった所か。

 運がずば抜けて低いのだけが気になるが、あまり運の高さの差がわからないから別にいいかな。

 

 恐らく名前の由来になっている、スキルジェットを手に入れた。

このジェットを使いこなし、音速の貴公子と呼ばれるのももうまもなくだ。

 

 それは予定通りで、今後楽しみにしている。

 ただ問題はゴブリン時代に手に入れた称号の同族殺しだ。

 

 これも俺の相棒、毒のスキルと同じく引き継いでしまうようだ。

 これによって家族達に恐れられているのだろう。

 弱ったな、一応餌とかは貰えるようになったけど、明らかにハブられているんだよな。

 

 なんか兄弟三匹は空飛ぶレクチャーっぽいものを受けているけど、俺だけないんだよね。

 俺も盗み聞きしながら、見よう見まねでやってみる。


 そしてあっという間に成長し、親と同じぐらいの大きさになった。

 俺達は明らかに巣に入りきらなくなった。

 ギュウギュウでいるのが嫌なのか、それとも俺と物理的に接触するのが我慢出来なくなったのか、一匹の兄弟鳥が羽ばたいて出て巣から出て行った。

 

 そしてそれに続いて他の二匹も、羽ばたいて巣から出た。

 戻ってくる気配はないので、もう巣立ちの時期らしい。

 二匹の両親が少し離れた場所から、じっと俺を見詰める。

 

 早く出て行けとプレッシャーが伝わる。

 どうやらニート生活は許されないようだ。

 飛べるのか?

 

 不安がよぎる。

 羽ばたき方はなんとなくわかる。

 これで飛べるのだろうか?

 

 あれ。

 今、やばい事に気づいてしまった。

 

 今種族を変えたのでポイントは0だ。

 もしこれ飛べなかったから一生ポイント確保出来ず、このループを繰り返すかもしれない。

 やはりブラックスライムになっとけば良かったか。

 色々な不安の考えを消す為にも、思いきって飛ぶ。

 

 兄弟達をまねて、少し羽ばたきながら巣から飛び出す。

 羽を広げると、ぐっと風を掴み浮力が生じ体が持ち上がった。

 

 おお、すごい飛んでるぞ。

 まじか、飛んでるぞ。

 

 風をうまく掴み、少しずつ高度を上げてみる。

 上空から森を眺めるが、一面に森、そして奧に人が住んでいる街まで見えた。

 やばい楽しい、思い切って鳥になってみて良かった。

 

 一生人でいるうちは、永遠に味わう事ができないよなこれ。

 そして予想以上に気持ちいいが、想像の何倍も疲れる。


 まじでみんな涼しい顔して空飛んでいるように見えるけど、あれみんな気張った顔だったんだな。


 数分しか空を飛んでいないのに、もう腹がすいてきた。

 アメ車ばりに燃費が悪いみたいだ。

 さっそくガソリンをいれなくては、墜落してまう。


 そこにちょうどよく、近くを飛んでいるカモメっぽい集団をみつけた。


 よし今日はあのカモメさんをご飯にしよう。

 羽をすぼめて体重を乗せて急加速し、ターゲットに突っ込む。


 相手が進んでいる方向を頭に入れなかったので、距離感がずれてしまった。

 カモメさんが自分に気づき、一斉にバラバラに逃げる。


 逃がすまいとすぐに追いつくが、空中で旋回され簡単に逃げられる。

 スペックでは勝っているが、空を飛ぶ技術は圧倒的に向こうの方が上で中々捕まらない。


 この鬼ごっこで、さらに腹が減って頭が回らなくなってきた。

 何か一気に加速できないものはないのか?


 そうだ、まだ一度も使っていないスキルのジェットがあるじゃん。

 ターゲットの真後ろにつき、スキルジェットを使用する。


 羽の後ろから風の魔力が放出され、一気にターゲットに近づく。

 体中に強烈なGを感じ、予定上に急加速できたが、一切のコントロールがきかない。


 そして無事ターゲットを捕まえる事はできたというより、体当たりという形になりターゲットとぶつかり、そして共に地面に落とされ暗転してしまった。


 そしていつもの列に並ぶ、どうやら自由に空を飛ぶというのも簡単ではないようだ。

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