第9話 ドブラックな生活

 再びゴブリンとして生を受けたが、ゴブリンの生活は想像以上に過酷だった。

 どれくらい過酷かというと一度死んでから、短期間の間に三回転生したが、三回ともこの洞窟を出ることなく死んでしまった。

 

 二度目のゴブリンになった時は初めて歩いた時に、久々の二足歩行で調子に乗ってしまい歩き回っていたら、運悪く機嫌の悪い親が近くを通って蹴られて壁にぶつかり死んでしまった。

 

 三度目は今までの二回死んだ経験を元に、親に目をつけられないように慎重に行こう、命を大事に作戦をたてていたて、なるべく目立たないように、モブキャラになろうとひっそり生きていた。

 ただこの超弱肉強食の世界では、ひっそり生きるのは許されないらしい。

 飯の順番に並んでいる時に、後ろから兄弟に首を絞められて死んでしまった。

 俺を殺した兄弟も兄弟だけれど、それを見ても微動だにしない、親もどうかと思う。

 

 四度目のゴブリンに生まれ変わり、いままで三度の死因が全て家族による殺害だったので、もうこいつらを身内と思うまいと考え、殺される前に全員殺す事にした。


 力はなかったが、幸いにも俺は毒マスターだ。

 残念ながらゴブリンの体と毒のスキルの相性はあまりよくなく、ポイズンスライムの時のように自由自在に出すことはできず、手のひらからじわっと出る程度しか出ない。

 しかもちゃんと扱わないと毒状態になってしまい、危うく死にかけそうになった。

 それでも寝ている時に口元に毒を数滴たらし、親や兄弟等の俺の敵になりうる者は全て排除する事ができた。

 

 久々に周りに敵がいない、おびえなくていいという快適な生活をしていた。

 今まで当たり前だと思っていたが、枕を高くして寝られる、治安がいいというのは最高の生活環境なのだなと改めて思った。

 まじで毒のスキルさんありがとう、これがなかったらまじでつんでいた。

 

 もうあれだな毒のスキルさんは俺の命の恩人で相棒だ。

 ただその悠々とした時間を過ごせるのは短かった。

 

 犬型のモンスターが洞窟に入ってきた。 

 突如現れた犬には手のひらからちょこっと出る毒のスキルでは対抗できず、なすすべ無く殺されてしまった。


 そんなわけで洞窟とこの白い空間の短い時間で何度も行き来をしている。


「質問があるけどいいか?」

 前回、前々回は邪神に対して時間がすぎるまで不満をぶつけてしまったが、今回は冷静に列に並んだ時にしっかり質問を考えていた。


「なんだ、答えられる物は限られるぞ」

 この邪神は親切に教えてくれる事はないが、質問する事ができる。


「なんで俺は何度もモンスターに転生しているんですか。

 ヒューマンには転生できないんですか」

 ゴブリンとなって苦しんでいるが、そもそも何故モンスターに転生しているのだ。


「それは残念ながらお前の魂が邪神である俺に捕まったからさ、ヒューマンに転生はできないよ」


「どうやったら、解放されるんですか?」


「さぁね、俺を満足させられたら解放されるかもね」

 はぐらかされてしまったが、答えられない質問なのかもしれない。


「残り15秒」


「ポイントってどうやったら増えますか、この前ゴブリンを殺しましたがポイントは増えなかったですけど」

 前世で数匹ゴブリンを殺したが、ポイントは一向に増えなかった。


「人間が困る事をする事によってポイントが増えるからね、同族を殺しても経験値は得られてもポイントは増えない。

 ウサギ達を殺してポイントを得たのも、人間の食料を奪ったという事だ」

  成る程うまくいかないものだ、最悪同族を殺しまくってポイントを貯めようとしたが、そういうわけにはいかないようだ。

 考え事をしていると、いつの間にか時間が過ぎ去り再び意識がなくなる。

 


 ゴブリンとして再び生をうけ、見慣れた天井、何とも思わなくなった鼻の曲がる匂い、最悪な教育環境が俺を出迎えてくれた。

 

 よしとりあえず目標を定めよう。

 最終目標1000ポイントを貯めて、ゴブリンから卒業するのを目標にしよう。

 

 その為にはまず大人になるまで生き残らなくてはいけない。

 第一目標、洞窟を出ていざ青空の下へだな。

 そこで第一の強敵である親には物理的に近づかない事にした。

 前回は早い段階で親を殺してしまい、自分を守る者がなくなり縄張り争いに負けてしまった。

 あれは最低な屑で超毒親だけれど、俺の事を守る防波堤でもある。

 認めたくないが必要悪という奴だ。


 第二の強敵は兄弟達だ。

 ゴブリンの食事は基本的に親の食い残しだ。

 少ない資源を奪い合う為、序列が下だと思われると問答無用で食料を奪うだけでなく、集団でボコされて殺されてしまう。

 そこで俺に刃向かいそうな兄弟は容赦なく殺し、俺が序列の一番上である事をわからせた。


  

 何度も兄弟、親に殺され白い空間に放り出させられてはゴブリンに転生した。

 目標を決めてから五回転生し、ついに成人し、洞窟から出る事ができた。

『レベル6 種族 ゴブリン HP28 MP13

 力11 素早さ4 体力11 魔力4 器用さ9 運11

 スキル 子だくさん   同時に子供をたくさん産める事がある

     毒 マスター  ありとあらゆる毒を自由に使いこなす

 称号  同族殺し    同族を殺戮し続けた者に与えられる称号

 ポイント 0』

 まだポイントは0のままだが、第一目標達成にちょっとした達成感と感動がある。

 飯を食べて成長する事できレベルが上がり、わずかにだがステータスも上がっている。

 

 そして何度も兄弟達を殺しているとスキルとは別に称号を得た。

 同族殺しという不名誉な称だ。

 称号を取得した直後から、親や兄弟達に恐れられるようになり、たまにはむかってくる兄弟達へ毒攻撃が効きやすくなった気がする。

 恐らく、同族に対してバフが効いているのだろう。

 

 不名誉な称号を得てから無駄な争いが減り、安全に飯を食べられるようになって外に出る事ができた。

 成人したので、独り立ちをしないといけない。

 

 早速洞窟を抜けて、適当にウサギ等の小動物を狩りながら良い寝床を探す。

 小さな穴蔵を見つけてそこで寝泊まりをしている。

 この一週間で得た成果がウサギを3匹、リス1匹で10ポイントしか稼げていない。

 

 一日外で獲物を探しても何も見つからない事もある。

 ゴブリン卒業までまで残り990ポイント。

 

 目標が果てしなく遠く感じた。

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