第3話 三度目の正直 

 また何もない白い空間で、光の球達と一緒に並んでいる。

 

 死んでしまったが、生きていた時間が極端に短いせいで、後悔も未練もこれっぽっちも湧いてこない。

 

 それにしてもスライムの生活はハードだな。

 攻撃力、防御力、移動力全部が低い。

 

 普通こういう転生物の場合、他はダメでも何か一点は秀でている物ではないのか。

 なんとかスライム以外に転生できないものかな。

 

 せめて手足が欲しいと思うのは、贅沢なのか。


「死んでしまうとは情けない、次の生を選びなさい」


 しわだらけのスーツを着た邪神のおっさんが、面倒くさそうにタブレットを渡してきた。


『レベル1 種族 スライム HP2 MP1

 力1 素早さ0 体力1 魔力2 器用さ1 運50

 スキル 溶解 体から出た酸が相手を溶かす

 ポイント 0

 本文より下記転生先を選んでください。

 転生先 スライム 0』

 

 相変わらずポイントは0でスライムとしか書かれていなかったが、今回はステータス画面の表示がある。

 前世でステータス画面を開いたからか?


「あの、何があったんですか」


 前々世同様、結局何が原因で死んだのかがわからない。

 よく分からないうちに死んでしまった。


「巣穴に戻ってきたウサギにやられたみたいだな」


 面倒くさそうに邪神のおっさんが、古くさいパソコンらしき物で調べなから説明してくれた。


「ウサギ型のモンスターですか?」


「違う、ただの野ウサギだな」


 まじか、人間やモンスターとか馬車ならまだしも、野ウサギに殺されてしまったというショックが拭えない。


 スライムはモンスターだけでなく、生物界の最底辺にいるのだと思った。

 早くスライムを卒業しないと、普通に生きるのも難しそうだ。


「どうやったらスライム以外になれるんですか」


「ポイントを貯めな、ああもう時間だな」

 

 覇気の無い邪神の言うとおり、再び意識がなくなり暗闇に落ちた。

 そして青空と地面が見える。


 地面にへばりつく感触にも慣れてきた三度目のスライム生活が始まる。

 とりあえず、安全そうな場所に移動しよう。

 辺りを見渡し、誰もいない事を確認しステータス画面を確認する。


『レベル1 種族スライム HP2 MP1

 力1 素早さ0 体力1 魔力2 器用さ1 運50

 スキル 溶解 体から出た酸が相手を溶かす

 ポイント 0』

 

 前世で見た数値と変わらない。

 ただ、この粘液性のある体の動かし方のコツをつかめて、少しだけ移動が早くなってきた。

 

 そう言えばまだ試していないものがある。


 スキルの溶解だ。


 このスキルを使いこなす事が出来ていれば、ウサギを撃退して死ぬ事もなかったかもしれない。


「スキル、溶解」

 とりあえずスキルを使ってみる。


 この体なの足元と言っていいのかわからないが、地面と触れている面から何か出たような気がする。

 少しだけ移動して、地面を覗くと少しだけ地面の色が変わっている。


 小さく白い煙が出ている。

 体を近づけてみるが匂いはしない、というかスライムに鼻がないの嗅覚がない事に今気づいた。


 ふと某有名漫画の鼻のない、主人公の相棒を思い出した。

 あの鼻がないと、試合中に気づく展開を予想していた読者はいなかっただろうな。

 というか、あのキャラその後もずっと活躍したけれど、ずっと鼻ないままだったのか。

 願いを叶えてくれる龍に、鼻をつけて貰えば良かったのに。

 

「よし、少しわかってきたぞ」

 何回かスキルの溶解を試すと仕組みがわかってきた。

 *地面と触れている所からでる。

 *揮発性が高く体から離れると効果が薄くなる。

 *連続で出し続ける事もできる。

 *いっぱい出すとMPは減らないが疲れて、動くのがだるくなる。

 試行錯誤したおかげ溶解を理解できたが、使い過ぎたせいかお腹がすいてきた気がする。


 何か食べないといけないな。

 どうするか、その辺に食べても安全そうな果物でもあればいいのだけれど。

 辺りを見渡していると、遠くで巣穴から出ていくウサギを見かけた。


 なんかアドレナリンがでてきた気がする。

 おそらく同じウサギではないが、リベンジをさせて貰おう。


 しかしどうする?

 この体はモンスター界だけでなく、生物界指折りの最弱のスライムだ。

 野ウサギ相手とは言え正々堂々戦うのも、奇襲するのも不可能だ。


 試しにウサギがいなくなった巣穴に一度入ってみたが、地面と触れている部分から溶解液が出るので、穴に隠れて溶解で奇襲するのは難しそうだな。

 溶解のスキルは超至近距離のゼロ距離攻撃だ、体力1で極薄紙装甲の体との相性が悪い。


 どうしようか、とりあえずいつ戻ってくるかわからないので、見晴らしが良さそうな近くに木があるのでその上で待ってみるか。

 登れるかなと思ったが、スライムの粘液性のある体を木に張り付け、地面を這うのと同じ感覚で登る事ができた。


 初めてスライムの体の特性を生かせて気がする。

 枝をたどって、巣の真上まで移動できた。

 後はウサギが来るまで、ひたすら待つ。


 ぼけっと待っていると野ウサギが戻ってきた。

 俺が一度巣穴に入ったのがわかったのか、警戒して中々穴に戻らない。


 辺りをうがっているが、真上にいる俺には気づいていなさそうだ。

 よし、やるなら今だ。


「とぉうー」

 気合いを入れて枝から体を離し、ウサギを包み込み溶解のスキルを発動する。


 野ウサギが暴れ回ろうとしたが、ネバネバした体ががっちり体を固定し逃がさない。

 そして溶解のスキルで体を溶かし、あっという間に仕留めた。

 スライムになり、三度目にして初めてご飯を食べる事ができた。

 

 残念ながら味覚はないみたいだが、食べたという満足感があった。

 しかも肉だけでなく内臓、皮、骨余す事なく全て食べる事ができた。

 

 相手は野ウサギだが、何となくミッションを達成した満足感を得る事ができたと喜んでいたが、なんか溶けきれなかったウサギの小骨が体の中で引っかかっている。


 勝利の余韻に浸る事ができず、小骨を取ろうと暫くの間、悪戦苦闘した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る