第2章「エリート崩れの叫び」早坂杏理3
「まあさん、杏理のお店だけ行ってずるーい。マユリに会いに来てくれたっていいじゃん!」
マユリは、
「えっ、俺、『
“ma couleur《マ クールール》”というのは、マユリが働いているショップの名前だ。お洒落なルームウェアと雑貨を豊富に取り揃えているお店で、アウトレット内で1、2位を争う売上と店舗面積を持つショップだ。
「マジで? いつ来てくれたのぉ? マユリ、まあさんに会えなかったじゃんっ!」
杏理と喋る時より1オクターブくらいマユリの声が、杏理の耳に障った。
「先週の火曜日ですよ。お昼ちょっと過ぎくらいに行ったら、三条さん店頭に見当たらなくって。丁度近くに居た背の高い女性のスタッフさんに尋ねたら、三条さんお昼休憩に出たばかりだって言われました。その方、なんか、モデルさんみたいな方でしたよ。顔立ちも……ハーフかクウォーターなのかなって感じで……」
マユリのぶりっ子フェイスが一瞬凍てつくのが、薄暗い店内にあってもはっきりと分かった。まあさんも気付いたらしく「しまった!」という表情をしているのを見て、杏理は思わず、可愛いと思ってしまった。
「ああ、その人、“クリステル”ですよ」
杏理は、マユリの心情を理解した上で、わざと彼女が触れられたくない話題に触れた。
「クリステル?」
まあさんは、不思議そうに訊き返し、マユリはセッターメンソールに火を点ける。
「滝川クリステルだよ」
「アナウンサーの?」
「そう、そう。けっこう似てるでしょ? 彼女、
「ああ、そうみたいね。早く本社でもどこへでも帰ればいいのに……あっ! ちょっと私電話かけなきゃだから、ごめん……席外すね」
マユリは、不機嫌を隠すことなく席を立った。可愛くてモテる女は我が儘で在るべきというのが、彼女のセオリーらしい。
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