第16話

目をそらしているアリスに不安をあおられていた、ちょうどその時。


学内全体のスピーカーから嫌にテンションの高い声が響き始める。


『ピンポンパンポーン、学内に今いる生徒のみんなー、お待たせ!みんな大好き謎野光ちゃんが今月も降臨だよ!』


そんな声に全員が目元を手で覆い天を仰ぎ始める。


「マジか…、そういやもうそんな時期だったか」


レオが大きくため息を吐く。


そんな彼らの様子に何もわからない俺はついていけない。


この放送に何か問題があるのだろうか。


「初めて聞く放送だけど、何かあるのか?」


「あー、まあ聞いてればたぶん説明がある」


そう答えるノエルがうんざりしたような顔をしていることにろくでもないことだと予想がついてしまった。


また、厄介ごとが始まりそうだ。


そんな俺の考えをよそに、テンションの高い女の話は続く。


『みんな新学期が始まって何かと入用だよね!特に今季からこの世界に来た新人たちはほしいものが多いはず!ということで、今回のイベントは「学科別協力型ボス討伐戦」。各学科ごとに割り振られたボスの討伐を行って報酬をゲットしちゃおう!ボスのレベルは学科に所属する生徒の平均レベルから割り振ってあるよ!今回ももちろん失敗したらペナルティがあるからみんな頑張ってね!さあさあ、それじゃ討伐開始までのカウント~、10、9…』


女の言葉とともに足元に怪しげな魔方陣が現れる。


聞いてても何となくしかわからなかったがどうやらすぐに戦闘になるらしい。


いや、あの女何者だよ!


このカウント終わったら、本当にボス討伐とやらが始めるのか?


そんな不安を抱え、何が起こるのか聞こうとレオ達のほうへと視線を移す。


視界に映ったレオ達は先ほどの態度はなかったかのように冷静だった。


あれっ、意外とみんな冷静?


そんなみんなの態度に困惑している俺のほうを見ながらノエルがすべてを悟ったような笑顔を向ける。


「アレックス、今更焦っても何もできん」


ちがう、こいつら冷静なんじゃない!


あきらめてやがる!


「ねえ、この後どうなんの!?」


「大丈夫、イベント会場に飛ばされるだけだ。動かずじっとしてろ。」


足元の魔法陣が女のカウントともにどんどんと光を増していく。


これ、大丈夫なのか!?


どんどんと強くなる光に不安になってくる。


『…3、2、1…いってらっしゃーい!』


女の言葉とともに魔法陣が周りが見えなくなるほどの光を放つ。


「おい、これ本当に大丈夫なんだろうなあ!?」


俺のそんな叫びもむなしく、わけのわからないまま別の空間へと飛ばされた。



◇◇◇



あたりの光が収まったのを感じ目を開けると、そこは大きな扉があるだけの他には何もない部屋だった。


部屋の中を見渡すと見覚えのある顔が並んでいる。


どうやら学科協力型とは名前の通り同じ学科で協力して討伐を行うようだ。


…、この学科で?


とてつもない不安を感じる。


こいつらで大丈夫なんだろうか?


協力とかできるのか?


「あー、やっぱこれかよ…」


部屋を見てすぐにノエルがうなだれる。


どうやらこのイベントを知っているらしい。


「ノエル、結局このイベントはどういったものなんだ?」


「普通の討伐系ではあるんだが、このイベントボス全員の平均レベルプラス10ぐらいの推奨レベルになるんだよな…。ふつうの学科だとそれでも何とかなるんだけど、この学科は特殊だからな」


考えたくねーとノエルが頭を抱える。


平均レベルプラス10…、それってどれくらいなんだろう。


「なあ、アリス。この学科の平均レベルって幾つくらいなんだ?」


「たぶん今ここにいる学校内にいたメンバーだけだったら65ぐらいじゃないかな…、レベル低い子たちは借金の返済のためにまだお金稼ぎに出てるし」


聞かれたアリスは少し考えるようなそぶりをしてからそう答えた。


なるほど、ここにいるメンバー…。


改めて部屋を見渡す。


シン、リン、スミス、カグヤ、トロイア、三忌避…。


…ろくなやつがいない。


というか、トロイアはまた何をやったんだ。


三忌避達に足蹴にされているトロイアを見てあきれる。


こんなやつらでクリアできるのか?


「てか、平均レベル65!?こんなやつらが!?」


俺はその事実に納得できず叫び声をあげる。


こんなあほなやつらがそんなにレベル高いなんて絶対に嘘だろ。


「こんなやつらとは失礼だな、俺たちだって常日頃から真面目に依頼を受けてんだぞ」


俺の叫び声にトロイアが抗議の声を上げる。


そんなトロイアの声に全員が、


「「「「「「お前のせいで借金ができるからだろうが!」」」」」」


と綺麗な突っ込みを入れた。


本当にこんなんで大丈夫なんだろうか。









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