第14話

昨日はあの後、もう遅い時間だからと神父さんが教会に止めてくれた。


初めて会った神父さんはこの世界では珍しくまともな優しい人だった。


そんな神父さんにお礼を言って、俺は再び冒険者ギルドを訪れていた。


結局目的の金稼ぎができていないからだ。


「アレックスー、こっちこっち」


ギルドに入ると、俺に気づいたアリスが酒場のテーブルから手を振っているのが目に入った。


同じテーブルにはすでにレオ達が座っている。


どうやら俺が一番最後だったらしい。


「よし、全員そろったことだし今日受ける依頼を決めるぞ」


そういいながらレオが何枚かの紙を机の上に広げる。


そういやこの世界の依頼ってどんなのがあるんだ?


そう思ってレオの広げた依頼書を覗き込む。


『土石竜の討伐―推奨レベル50』


『三刀竜の討伐―推奨レベル50』


『常勝鬼竜の討伐―推奨レベル60』



依頼書を見て吹き出しそうになるのを何とか耐える。


「おい、ちょっと待て」


「なんだよ」


「おかしいだろ、俺まだレベル1だって知ってるよな!?」


レオの肩をつかんで揺さぶりながら抗議する。


「推奨レベル全部50以上じゃねえか!?勝てるわけねえだろこんなもん!」


「そうはいってもよー、これくらいの難易度のやつクリアしていかねえと1億なんて返せねえぞ」


めんどくさそうな顔をしたノエルが飲み終わったコップのふちをガジガジと噛みながらそう言う。


ノエルの隣に座るレーナが行儀が悪いとノエルからコップを奪い取った。


「アレックス、お前はスライムやゴブリンの討伐なんかを想像していたのかもしれないが、あんなのは一回につき1000円入ればいい方だ。一億返すと考えると途方もなく時間がかかるぞ」


レーナの言うことに何も言い返すことができない。


確かに簡単な依頼はそれ相応の報酬しか出ないだろう。


初日から莫大な罰金を食らった俺には雀の涙ほどの価値もない。


「お金だけじゃなくてレベルアップっていう点でも効率がいいと思うよ。難しい依頼のほうがレベルが上がりやすいし。レベルが上がれば難しい依頼も達成しやすくなるしね」


アリスが納得のいっていない俺に説明してくれる。


なるほど、確かにメリットが多いように感じる。


「でも勝てなかったら意味なくねえか?」


「この三つなら俺らだけでも勝ったことがあるから大丈夫だ。正直大分おいしい話だと思うぞ、レベル1で金も経験値もこんなに稼げることはないからな」


話を聞いている限りとてもおいしい話なのは分かる。


だがこれは話が良すぎやしないだろうか。


「なんか話がうますぎないか?」


「俺らも来たばっかのお前を巻き込んで悪かったとは思ってるんだぜ。だからせめて金稼ぎやレベル上げは手伝ってやろうと思ってだな。」


本当だろうか?


昨日は随分と楽しそうにしていたが。


昨日の数々の出来事があったせいかなかなかこいつらの言うことが信用できない。


「ここでずっと話してても仕方ないんだしさ、とりあえずどれか行ってみようよ。それで無理そうだったら私がもっと簡単な依頼手伝うから」


いぶかしい視線を向けている俺をまあまあとアリスがなだめてくる。


疑わしい一方で、アリスの言うことも確かだ。


ここでずっと話し合いをしていても時間が過ぎていくばかり。


それならばとりあえず行ってみるべきだろうか、せっかくアリスももし無理ならば簡単な依頼を手伝ってくれると言っていることだし。


「わかったよ、とりあえずどれか受けてみよう」


そういうと、レオがそう来ないとなと一つの依頼書を手に取った。


「それじゃあ、アレックスでも戦える可能性のある三刀竜の討伐に行くのでいいか」


全員が頷く。


「私が申請しておこう」


レーナがデバイスを取り出す。


操作すること数秒。


ほら貝のような音がしたかと思うと、受付の横にあった扉が開いた。


「ほらアレックス行くよ」


みんなが立ち上がり扉の方へと歩いていく。


俺もアリスに手を引かれ座っていた椅子から立ち上がった。


どうやら今ので以来の受付が完了し、あの扉から出発することになるらしい。


「あの扉の先ってギルド内じゃないのか?」


「行けばわかるよ!さあアレックス、この世界での初めての冒険だよ!楽しんでいこう!」


テンションの低い俺を気遣ってか、アリスが少しテンション高めに俺の手を引っ張る。


そんなアリスの様子に引っ張られ少しだけ気分が上がってくるのを感じた。


いろいろと気になることは多いが、アリスの言う通りこの世界にきて初めての冒険だ。


せっかくならまだ見たことのない様々なものを楽しんでいこう。


そう思いながら先の見えない扉の中をくぐっていった。




◇◇◇




「おいどこが俺でも戦える可能性のある依頼だぁぁぁぁぁぁぁ!?」


全力疾走しながら叫ぶ。


そんな俺の背後からは三本の剣のような尻尾を振り回しながら追いかけてくる竜の姿があった。


「アレックスーー、そのまま罠の張ったところまで誘い出せー」


高台の上からノエルの叫び声が聞こえる。


誘い出せって言われてももう追いつかれそうなんだが!?


背後から風を切る音が聞こえ、反射的に頭を下げる。


直前まで頭のあったところに剣が通過し、よけ損ねた髪が数ミリ宙へ舞った。


うぉぉぉ、無理無理無理絶対死ぬって!


「アレックス、私の速度アップの魔法でぎりぎり追いつかれないはずだから頑張って!」


アリスの声が頭上から響く。


空を見上げると、背中から二枚の羽根を生やしたアリスが俺と並行して飛んでいる。


「もう無理だって!?アリスが抱えて飛べないのか!?」


「今は昼間だから無理!あと少しだから自力で走って!」


「ちくしょーーーー」


アリスの無慈悲な宣言に絶望しながら走り続ける。


何度もしにそうになりながらなんとか剣戟を躱していると目的地が見えてきた。


「何とか間に合えぇぇぇぇ!!!」


罠を張った場所を飛び越える。


その直後。


地面が大きく崩落し、三刀竜の下半身が穴へと落ちる。


間一髪、剣が届く瞬間に三刀竜が落とし穴に落ち、剣が足の下を通過した。


あぶねえええええええ。


無理に飛んだため態勢を崩しそのまま床へと転がる。


床に転がる俺を食おうと三刀竜が首を伸ばしているが、穴に落ちた状態では届かないようで安心した。


ほっと一息つく。


「休憩してる暇はねえぞ、ほらおまえの分だ」


座り込んでいる俺にレオが何かを放り投げた。


「わっ…とっと、何だこれ?」


手につかんだそれは鉄のボールのようなものだった。


なんだこれ。


訳が分からず困惑していると、唐突にボールから細い虫のような手足が生えた。


「うわっ、気持ち悪っ」


思わずその場に放り投げてしまう。


床に落ちた虫は慌てたように逃げ出した。


「何やってんだ、お前は…。ほらもう一個やるから今度は逃がすなよ」


ノエルが仕方ない奴だといった様子で、同じ虫を渡してくる。


「いや、なにこれ!?」


「ん?あー説明してなかったな。これは自爆虫っていう虫で、こんな風に頭を押し込んだ後に一定時間が経つと…」


ノエルが虫の頭を押し込み、三刀竜のほうへ放り投げる。


床に落ちた次の瞬間。


自爆中と呼ばれた虫が大爆発を起こした。


その威力はかなりのもので、三刀竜のうろこの一部が吹き飛んでいる。


「こんな風に爆発する」


「説明してから渡せよ!?危うく俺が吹き飛ぶところだったじゃねえか!」


自分が不用意に頭を押さなかったことに安堵する。


本当にこいつらから渡されるものは気を付けよう。


「この虫はここら辺に結構湧いてるから適当に拾ってきてあいつに向かって投げろ。トラップに引っかかってはいるが時間が経てば出てくるから急げよ」


ノエルはそういうと嬉々として虫を拾いに行った。


ノエル達の話だとモンスターにダメージを与えないと倒しても経験値が入らないそうなので、俺も急いで虫を捕まえに行く。


なんか思ってた冒険と違う。


少し微妙な気持ちになりながら虫を拾っては投げるを繰り返す。


あれ、これ少し楽しいかもしれない。


結構簡単にダメージが入っていくので爽快感があった。


しばらく投げていると三刀竜が動かなくなってきた。


「大分ダメージがはいったな、そろそろ倒れるぞ。せっかくの初討伐記念だ。アレックスがとどめを刺すか?」


「いいのか?」


「まあ、誰が最後の攻撃をしようと経験値は変わらないからな。」


それじゃあ遠慮なく、と自爆虫を構える。


俺はこの時ボロボロになった山刀竜を見て、もう反撃はないだろうと油断していた。


だからだろう、あまりの爆発に上半身と下半身がちぎれかけていた山刀竜が自身の体をちぎってまで反撃してくるとは思わなかった。


投げようとした瞬間に三刀竜の大きな口が目の前に迫っていた。


「へっ?」


パクっと山刀竜の口が俺に覆いかぶさる。


「「「「あ、まずい」」」」


もうすでに虫の首は押してしまったため、爆発は止まらない。


「うそだろーーーーーーー」


そんな叫びもむなしく俺は竜の口の中で爆散した。



◇◇◇



「おお、勇者死んでしまうとは情けない。…こんな頻繁に教会に来られるとは、今回の勇者様は随分と信心深いのですね」


「うるせぇ、ちくしょー!」













  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る