第13話
訓練場というよりかはどちらかというとコロシアムに似ている。
俺が訓練場について初めに思ったのはそんなことだった。
訓練場は円形で、周りには観客席のように段々になった座席が並んでいる。
ちょうど利用者たちは皆訓練を終えたばかりだったのか、ちらほらと座席で休憩をしているものがいるくらいだった。
「それじゃあ、審判は俺が努めよう、互いに文句はないか」
レオが二人の間に立ち審判を名乗り出る。
俺の知り合いが審判をすることに何かしら文句が出ないかと思ったが、意外にも彼は文句を言わなかった。
それどころか先ほどからこちらを見て、何が面白いのかずっとにやにやしている。
随分と余裕そうだな。
「なあお前、今日この世界に来たんだろ?じゃあ、お前はまだレベル1なわけだ」
「そうだけど?」
「聞いて驚け、俺のレベルは10。レベル1じゃあ絶対に勝てない。勝負する前から勝敗は決まってんだよ」
ユウトがこちらを心底バカにしたような様子でそう言った。
ああ、なるほど。
やはりユウトは俺よりレベルが高いらしい。
レオの説明ではレベルが高いものに勝つことは難しいと言っていたが、それがユウトの自信満々な態度の理由なのだろう。
しかし、アリスは俺なら余裕で勝てると言っていたが本当に勝てるんだろうか?
レベル1とレベル10じゃ結構差があると思うんだが。
「面白い試合期待してるぞー」
「すぐに終わんなよー」
観客席に座った冒険者たちが酒を片手にヤジを飛ばしてくる。
あいつら、酒の席の余興代わりにしてやがるな、クソが。
彼らの酒をうまそうに飲む様子を見て、酒を飲むことができないことへの怒りがまた沸々と湧き上がってくる。
あー、なんで俺こんなことしてるんだっけ。
ただでさえ酒飲めないことを知ってイライラしてたのに、変な奴に絡まれて妙な因縁付けられるわ決闘までさせられるわ、冷静に考えたらこいつマジでむかつくな。
そう考えると先ほどまでやる気がほとほと起きなかったが、こいつをぶちのめそうと思うぐらいにはやる気がわいてくる。
「なぜかやる気を出しているところ悪いけど、お前じゃ絶対に俺には勝てないよ」
ユウトがそういいながら腰の剣を抜く。
「この剣はあらゆるものを切断する魔剣グラム。この剣がある限り俺が負けることはない。」
彼の言葉に続いて彼の握った剣がぼんやりとした光を放つ。
「「「あれが…、伝説の魔剣…」」」
ごくりと誰かのつばを飲み込む音が聞こえる。
まるで本当に驚いたかのように冷や汗をかいている冒険者までいた。
これは、どっちだ?
演技なのか、本気なのか。
こいつらの反応からじゃわからん。
でも、確かにあの剣からは何かまがまがしいオーラを感じる。
あらゆるものを切断する剣…、様々な世界から人が来るこの世界ではそういったものもあるのだろうか。
それってこの世界に来た時点でかなり差がないか?
俺の勇者の剣、ただ固いだけなんだが?
というかそもそもとして聞きたいことがある。
「審判」
「なんだ?」
「決闘って木剣じゃないのか?」
「あ?死んでも死なねえんだから木剣なんて使うわけねえだろ?」
そうだったちくしょう。
この世界死なないんだった。
「おい、さすがに装備に差がありすぎるだろ!?」
「はぁ…、大丈夫だからとりあえず戦ってみろ」
レオがめんどくさそうに手をひらひらと振る。
そんなレオの様子に、知り合いの審判にも見捨てられたなとユウトがさらに機嫌をよくしていた。
「それじゃあ、両者とも距離を取って…準備はいいか」
互いにレオをはさんで十歩分ほどの距離に立ち構える。
納得いかないがやるしかなさそうだ。
「はじめ!」
レオが手を振り下ろすのと同時にユウトが駆け出す。
「死ねぇぇぇぇぇぇ!!!」
おおよそ勇者の言っていい言葉とは思えない言葉を発しながらユウトがこちらに突撃してくる。
まずい出遅れた!?
……。
………おっそ。
今まで運動をほとんどしてこなかった一般人が大体これくらいの速度じゃないだろうか、と思うぐらいには遅かった。
あまりの遅さにふざけているのではないかと疑ってしまう。
しかし、彼の表情の真剣さがこれはおふざけなどではなく、本気なんだということを悟らせた。
こいつどうやって元の世界で戦ってたんだ?
予想外すぎる始まりにあっけに取られ、そんなことが頭をよぎったせいで一撃目を思わず剣で受けてしまう。
しまったと思ったのもつかの間、自身の剣が切れる気配が全くなく普通に受けれてしまった。
そのまま剣をはじき飛ばし、ユウトの腹に剣の腹をたたきこむ。
その一撃であっけないほど簡単にユウトは泡を吹いて気絶した。
「いや、全然切れてねえじゃねえか!?なんだよ魔剣グラムって!?」
何一つ理解できずに混乱する。
こいつの持ってた剣ってなんでも切れる魔剣じゃなかったのかよ。
てかレベル10なのに遅すぎないか?
「こいつほんとにレベル10なのか?」
「だから言っただろうが大丈夫だって」
レオがやれやれと首を振る。
「いや、それにしても弱すぎるだろう!?一撃だぞ!?耐久力が低いにもほどがあるだろ。」
さっき言っていたレベルの概念は何だったんだろうか。
レベル差があれば勝つのは難しいのでは?
「あー、やっぱ瞬殺かよー…あいつの決闘じゃ賭けになんねえな」
「おい、アレックスー。詰まんねえぞー」
ぶーぶーと観客たちからブーイングの雨が降り注ぐ。
こいつらマジで一回ぶん殴りてぇ。
「アレックス、やっぱり言った通り余裕だったでしょ?」
おおよそ勇者らしからぬ思考に侵されていると、アリスが観客席から降りてくる。
「確かにアリスの言うとおりになったけど、なんで勝てると思ったんだ?あいつが弱いの知ってたのか?」
俺の疑問にアリスは首を振る。
「戦ってるのを見たことはなったから具体的な強さまでは知らなかったよ。知ってたのはレベルだけ。」
「?じゃあなんでわかったんだ、レベルだけ見たら俺に勝ち目なんてないだろ?」
俺は首をかしげる。
レベルしか知らなかったなら、俺が勝てると判断できる要因なんてないと思うんだが。
「それはね、アレックスにはまだ話してなかったこの世界のレベルに関することがあるからだよ」
アリスが腰に手を当て、ふふんと得意げな表情をする。
「まず一つはレベルが上がるときのステータスの成長は一律じゃないってこと。」
「一律じゃない?」
「そう、この世界ではレベルが上がれば上がるほど上げにくくなる分、一レベルごとのステータスの伸びが大きくなっていくの。最初の10レベルくらいは頑張れば数日で上げられるから、ステータス的にはほぼ差が出ないんだよ。」
ちょっとわかりにくいシステムだよねーとアリスは苦笑する。
なるほど?
「でもそれだと、ステータス的にほとんど差がないとわかるだけで勝てるという確信にはならないんじゃないか?」
アリスの話だとステータス的に若干負けてる分不利だと思うんだが。
「実はレベルにはもう一つ重要なことがあるの。それはね、あまりに強すぎる能力を持っている人はレベルによってその能力を制限されるの。」
「…!?あいつの剣か!?」
「そういうこと、あの魔剣実際は本当になんでも切れる剣だったんだと思う。でも彼のレベルが低いから能力に制限がかかってて、普通の剣より少し切れる剣程度になってるんじゃないかな。アレックスも何かしらの制限はあると思うよ。」
これは後でできることとできないことを確認しとくべきだな。
「でも、やっぱり確信はできなくないか?それでも武器の性能に差がないってだけだろ?」
「あーそれはね、しつこく私に言い寄ってきてた時に彼が私に自慢してたからだね。自分はなんでも切れる魔剣と超強い剣術のスキルを持ってるって。その二つ頼りの戦いしてきて、訓練とかしたことないんだろうなってのがまるわかりだったし」
それにね、とアリスの手がこちらに伸び、俺の両手を握る。
「最初にデバイスを渡したときに見たアレックスの手が、しっかりと努力してきた人の手だったからかな」
そういってアリスはにっこりと笑う。
アリスの輝くような笑顔に俺は顔を赤くする。
それが少し恥ずかしくもあったが、それ以上に自分の努力に気づき認められたことがうれしかった。
今までの冒険が自分の中にしっかりと生きているのだとそういってもらえた気がしたのだ。
少し照れ臭くなっていると、背後から強烈な悪寒を感じる。
これは殺気っ!?
「アリス」
「ん?なに?」
「そろそろ手を放してくれないか」
「あ、ごめんごめん」
えへへと少し照れ笑いを浮かべながらアリスが手を離す。
そんな様子がとてもかわいらしかった。
だからだろうか。
背後の殺気がさらに膨れ上がったのは。
まずい、すぐにこの場を離れなければ。
そう思って駆け出そうとした瞬間、背後から方に腕を回される。
「おいおいどこに行こうっていうんだ色男。みんなのアイドルアリスちゃんといい雰囲気だったじゃねえか。」
「そうだぜ勇者君、せっかくだから俺らとも遊んで行けよ。大丈夫すぐに終わるさ、目覚めたときは教会のベッドの上だけどなぁっ」
それ、死んでるじゃねえか!
「おい誰か助け…」
「よし、決闘も終わったし撤収するぞー」
レオ達が俺を見捨てて訓練場から出ていく。
「おい、当初の目的はーーーー?」
その言葉を最後に俺は意識を失った。
◇◇◇
「おお、勇者死んでしまうとは情けない。…私この仕事始めてから長いですけど、この世界にきて初日に二回も死ぬ人初めて見ましたよ。馬鹿なんですか?」
「納得いかねえよ!?」
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