第11話
大勢の前で恥をかく結果となったが、逆にそれが良かったのか冒険者たちからは今回の勇者はノリがよさそうだと高評価をいただいた。
全然うれしくない。
酒場のテーブルに顎をつきふてくされていると、先ほどから姿の見えていなかったアリスが目の前にひょっこりと顔を出した。
「アレックス…、大丈夫?」
「アリスー…どこ行ってんだよー…、あらかじめ教えといてくれよ勇者なんて職業がないってこと…」
俺のふてくされた様子にアリスは困ったように頬を掻く。
「あはは、ごめんねちょっと厄介なのにつかまってて。あー…やっぱりノエル達は教えなかったかー…」
全くひどい奴らだ、と俺は頬を膨らませながら抗議する。
「でも、ノエル達なりのやさしさだと思うよ。勇者はこの世界だと悪いイメージも多いからね。早くなじめるようにしてあげようとしたんじゃないかな」
そうなのだろうか。
アリスの言うことを疑いながらもノエル達のほうへ視線を向ける。
ノエルとレオがまだ腹を抱えながら笑っていた。
絶対あいつらそんなこと考えてないだろ。
そんな俺たちの様子を見ながらレーナはあきれ、アリスは困ったように笑っている。
「そういえば厄介なやつに捕まってたって言ってたけどそれはもういいのか?」
「あー…、それね。まあよくはないんだけど…」
なんだかずいぶんと歯切れが悪いな。
また厄介ごとだろうか?
「ちょっとアレックスには言いづらいなあ…」
俺には言いづらい?
どういうことだろう?
「なんで俺だと…」
言いづらいんだと言おうとしたその時。
「アリス!そいつがお前が指導係になったって男か!」
随分とお怒りのご様子の男が俺のいたテーブルをたたきながら割り込んでくる。
あー、もう俺にもわかるわ。
これがアリスの言っていた厄介なやつか。
「あー、どちらさん?」
もう厄介ごとに巻き込まれたことが分かった俺はとても面倒くさそう尋ねる。
どうせこの後の展開なんてろくなもんじゃないんだろう。
「貴様!なんだその態度は!バカにしているのか!」
そんな俺の態度が気に障ったのか、アリスの知り合いらしき男はさらに目を吊り上げている。
「ふん、まあいい。この世界に来たばかりなら俺のことを知らないのも無理はない。俺はユウト、勇者にしてそこにいるアリスの恋人だ!」
「「「ええええ、なんだって!」」」
俺とレオ、ノエルがそろって驚いた声を上げる。
アリス、お前恋人がいたのか。
ってかお前らも知らなかったのかよ。
そんな風に俺たちが驚いているとまたもや周囲がざわざわとし始めた。
「そんな…、あのアリスちゃんに恋人がいたなんて…」
「嘘だろアリスちゃん…」
「交際したのか…俺以外のやつと…」
ふざけているのか本気なのかよくわからない様子で周囲の冒険者も驚いている。
アリスって結構人気があるみたいだな。
そんなみんなの様子を見てアリスが顔を真っ赤にして肩を震わしている。
恥ずかしかったのだろうか。
それに対して自称勇者君はふふんと誇らしげにしている。
「付き合ってなんかないよ!っていうか皆知ってるでしょ私が迷惑がってるの!」
どうやら怒っていたらしい。
しかも結構本気で怒ってそうだ。
「「「いや、知ってるけども」」」
全員が声をそろえて当たり前だろ、といった様子で答える。
マジかこいつら。
全員そろいもそろって悪びれた様子がねえ。
そんな冒険者たちの様子にアリスはこぶしを握ってわなわなと震え始めた。
そんなアリスの肩にユウトが手を置く。
「アリス、どうしてそんな嘘をつくんだい。もしかして照れているのかい?」
どう考えても見当はずれのことを言い出したユウトに、その場の全員がドン引きしたような表情を見せている。
カウンターのほうを見ると先ほど受付をしてくれた受付嬢や、酒場の店員が塩をまき始めている。
こいつ嫌われすぎだろ。
俺が周りの様子に驚愕していると、アリスが肩に乗っていた手を払いのけて満面の笑みを浮かべた。
それはもうとっても素敵な笑顔だった。
だというのに周りの冒険者や、レオ達はアリスの笑顔を見た瞬間顔を真っ青にして黙り始める。
ん?どういう状況だ?
俺一人だけ状況についていけず周りの様子に驚きながらあたりをきょろきょろしていると、笑顔で黙っていたアリスが口を開く。
「私、アレックスと付き合うことにしたんだ。私の大好きなダーリンなの。」
まるで本当に恋する乙女のように、頬を上気させながらそう言った。
「は?」
俺は理解できずに開いた口がふさがらなかった。
この時周りにいたやつらは全員こう思っていたらしい。
アリス、面倒ごと全部新人に押し付けやがった、と。
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