第10話

「まあ、何はともあれ解決したんならさっさと登録に行くぞ」


ノエルが露骨にめんどくさそうにしている。


こっちとしては超重大なことだったんだけどなあ。


ノエルはあまり酒好きではないのか、なぜ俺がここまで騒いでいるのか理解できていないようだった。


ここでこれ以上騒いでも仕方がない。


ノエルに言われたように受付の列へと並ぶ。


それにしても見たことのない装備の人も多いな。


もちろん剣や槍といった元の世界でもよく目にしたような装備を身に着けている冒険者も多いが、見ただけでは何に使うのかよくわからないようなものを装備しているものも多い。


いろいろな世界の人がいると戦い方も様々なんだろうか。


「本日はどのようなご要件でしょうか?」


受付嬢に声をかけられる。


物珍しい光景に目を奪われている間に俺の番になっていたようだ。


受付嬢に冒険者の登録をしたい旨を伝え、軽く冒険者の説明を受ける。


受付嬢の話によるとこの世界ではランクはAなどではなく、自身のレベルがそのまま冒険者のランクとなるらしい。


なので、俺はランク1からのスタートとなる。


しかし、ランクによって特に受けられるクエストに制限があるわけではなく、どのクエストも受けることはできるそうだ。


まあ、死ぬことのない世界なのだから、死ぬリスクを減らすための制限はないのだろう。


また、この世界の冒険者は討伐系の依頼しかなく、主に素材の収集を目的としているため失敗しても特に被害があるわけではないというのも、制限のない理由だろう。


しかし、それだと討伐系以外の仕事はどうなっているのかと思ったが、それはそれで別のギルドがあり、それぞれが対応しているそうだ。


また機会があればそちらにも行ってみよう。


「職業の欄はどうなさいますか?」


受付嬢に職業を聞かれるが、職業というのは今までのものでいいのだろうか。


「勇者で」


そう答えると周りで騒いでいた声が急に静まり、あたりが静寂に包まれる。


何かおかしなことを言ったのだろうか。


「おい、今の聞いたか」


「ああ、勇者だってよ」


「まじか、あの伝説の…俺初めて見た」


一瞬の静寂を破り一部の冒険者がひそひそと話をはじめ、その他の冒険者は静かにこちらを見ている。


ああ、元の世界にいたときも何度かこんな反応されたな。


たいていお前みたいなやつが勇者なわけあるかって絡まれることが多かったけど、今回は大丈夫だろうか。


一応戦闘に備えておくべきかな。


そんなことを考えながら視線を受付に戻すと、担当してくれていた受付嬢が苦しそうに笑いをこらえている。


しかし、耐えきれなったのか少し笑いが漏れた。


「ぷっ、ゆ…勇者ですか…」


「あの…、何がそんなにおかしいんですか?」


その様子に若干いらっとしながらその原因を尋ねる。


何かおかしなことを言っただろうか。


笑いをこらえて苦しそうにしている受付嬢に代わって横からノエルが答えた


「まず、この世界では定期的に自分は勇者だというやつが現れる。」


「…?うん?」


確かにいくつもの世界から人が来るのなら、様々な世界の勇者が来ててもおかしくないのか?


「はい、当ギルドでも今月だけでそちらのアレックス様を含め10名の方が勇者を名乗っております。」


「は?」


勇者多くないか?


「まあ、物語としては勇者なんて定番中の定番だからな。その分この世界に来る勇者ってのも多くなる。」


「なるほど?」


でも、それでなんで笑われることになるんだ?


「それでだ、何が問題なのかというとだな、勇者にはやばい奴が多いってことだ。」


「いや、勇者だろ、なんで…」


「まあ、いろんな世界があるからってのと昨今のはやりってのもあるが、この世界に来る勇者ってのは大体二つに分かれる。今までの世界のことにとらわれずにこの世界で周りに合わせて生きているやつ。こっちはうまくやれてるから問題ない。だが、問題なのはもう片方だ。」


「もう片方…?」


「今まで勇者様としてちやほやされてて、それがなくなったのが認められない奴らだ。一回異世界転生してチート能力もらって勇者無双とかしてたタイプはその中でも一番立ち悪いな、一切話を聞かん。」


「ちーと…?いせかい…?」


何のことだ?


「努力せずに大きな力を得たやつらはたいていどこかしら問題があるんだが、まあ、とにかくだ。勇者は半々くらいの確率でやばい奴が来るから、ここにいる大部分は黙って静観してたってわけだ。」


「でも、それじゃあ受付嬢が笑ってる理由にはならないと思うんだが」


ノエルの言っていることは周りの冒険者が黙った理由としてはわかったが、受付嬢の笑っている理由がわからない。


疑問に思っていると、ノエルの隣にいたレーナがその疑問に答えてくれた。


「さっきわざと聞こえるくらいの大きさで、あれが伝説のとか言ってたやつらがいただろう?あいつらいつも勇者が来るとあれをやってるんだ。いかにも伝説の勇者を目にしたモブ冒険者みたいなのをな。ばかな勇者だとそれを聞いて気分よさげになる。毎回そうやって勇者をからかってるわけ。それを知っていたから、その受付嬢は笑ってたんだよ」


「はあ!?あれってからかわれてたのかよ」


「いや、まぁからかいもするだろ。だってこの世界の冒険者の職業に勇者なんてないんだぜ?はたから見たら、存在しない職業を堂々と言った馬鹿だぞお前。ある意味では勇者だな。」


・・・え?


「それを先に言えよ!!」


俺の叫びとともにギルド中から笑い声が上がった。




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