第8話

すぐに手続きにいこう。


そう決めて、みんなが罰金に騒いでいるうちに気づかれないようにその場を離れる。


「おい、アレックスどこに行く。」


…つもりだったが太い毛むくじゃらの手に阻まれた。


「ははっ、離してくれよレオ」


「いや、お前金稼ぐ方法とか、色々まだ知らないだろ。教えてやるからちょっと待ってろよ。」


レオが話している間にもなんとか離れようとするが肩にかかった手の力が強く全く離れる気配がない。


いや、ほんとに強いな!?


まったく動かないんだが!?


「おい、離せよ!こんなところ入ってたまるか!今すぐやめてやる!」


「まあまあ、待て待て。確かにこんなの聞いたらやめたいと思うのもわかる。だが、そもそもやめるのはほぼ不可能だぞ。」


「はぁ?だって、アリスが登録するときに所属は簡単に変えられるって…」


「条件さえ満たせばとか言われなかったか?」


「それは…」


ここで、アリスが登録するときに行っていた言葉を思い出してみる。


『所属自体はそこまで重要なものでもないし、所属は条件さえ満たせば簡単に変えられるから、最初は気軽に登録するといいよ。』


おやぁ?


確かに言ってるな…。


まさかとアリスのほうを見てみると、話を聞いていたのか露骨に目をそらして合わせようとしない。


…こいつ、はめやがった!


「じゃあ、その条件ってのは何なんだよ」


「この学科だったら学科長との決闘での勝利だな」


「学科長?」


「学科長ってのはこの学科のまとめ役だ。今は用事で別の町に行っていていないがな。まあ、学科長がいないから今回みたいなことが起こったわけだが…」


レオがやれやれと首を振る。


学科長とやらがいればトロイア達を止められたということだろうか。


「その学科長に勝てばいいのか?どれくらい強いんだ?」


「うーん…。アリス、アレックスにこの世界のレベルシステムについては説明したのか?」


先ほどから気まずそうに視線をさまよわせているアリスにレオが尋ねる。


「…まだ教えてないよ。」


アリスの返答はいたずらがばれた子供のように歯切れの悪いものだった。


この様子は意図的に教えてなかったな。


信用できると思っていたアリスの裏切りにショックを受ける。


「じゃあ、この世界のレベルシステムから説明するか。」


レオが教室にあったホワイトボードに文字を書き始める。


「まず初めにこの世界にはレベルという概念が存在する。レベルというのは、まあ簡単に言うと強さの指標みたいなもんだ。レベルが高いほど今世界の住民は強くなっていく。このレベルを上げるためには経験値が必要だが、これを稼ぐ方法はさまざまだ。モンスターを倒しても得られるし、訓練でもたまる、何なら日常生活を送っているだけでもためることができる。まあ、それぞれ得られる経験値に差はあるがな。そしてその経験値が一定数たまるとレベルが上がるという仕組みだ。」


つまり、強くなりたければレベルを上げればいいということだろうか。


数値として強さや強くなるまでに必要なものが分かるのは元の世界よりわかりやすくていいな。


「ただし、この条件だけで強くなれるのはレベル50までだ。」


レオが今まで書いていた文字の下に線を引き、横に50と書く。


「レベル50に到達すると10レベルごとにレベル上限を上げる条件ってのが追加される。この条件は人によって異なるが、どれも達成が困難なものになってる。」


レオが線の上に一般人と書き込む。


「だから、ほとんどのやつは高い奴でもこのレベル50でストップする。まあ、レベル50にするのでもかなりの経験値がいるがな。だから、レベル上限を超えているやつは少ないし、超えていない奴では絶対に勝てん。」


ホワイトボードに超えられない壁と書き込まれる。


「じゃあ、その学科長ってのはレベルいくつなんだ?」


「この街で唯一のレベル100だぞ」


「ふざけてんのか!?勝てるわけねえだろ!」


どう頑張ってもやめれねえじゃねえか。


俺は恨みのこもった目をアリスへと向ける。


アリスはあれー?ととぼけた様子を見せていた。


くそ、はめられた。


「まあ、そういうことだな。ほら、分かったならさっさと金稼ぎに行くぞ」


魔法学科をやめることは不可能なことが分かったので、しぶしぶレオについていくことにする。


とりあえず、何をするにもこの世界で生きていくためには金、そして力がいるだろう。


今回だまされたことはあったばかりの人が、信用できそうに見えても簡単に信じてはいけないといういい教訓になったと思おう。


はあ、とため息をついているとアリスが心配そうにこちらを覗き込んでくる。


「ごめんね、アレックス。最近問題起こす子が多くてさー、もう少し人数増やしたかったんだよね。先に学科のこと詳しく話すと絶対に入ってくれないと思ったから。でも、面白いっていうのは本当だよ。絶対に退屈だけはしないから。」


アリスの申し訳なさそうな表情に毒気が抜かれる。


「もういいよ、ここでどれだけ言っても変わらないしな。」


「あはは、ほんとごめん」


ここでいつまでも気にしていても仕方ないので、罰金のほうについて考える。


レオは金を稼ぐ方法を教えると言っていたが一億も稼ぐ方法があるのだろうか?


あるのならそれはそれでやばい仕事の気がするのだが。











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