第4話

土煙の中から一人の男が走ってくる。


すさまじく必死の形相である。


その男に続いて三人の女の子が土煙を突っ切って出てくる。


その女の子たちの表情は怒りに染まっていた。


話の流れ的に前を走っている男がトロイアで、後ろの三人が三忌避なのだろう。


進行方向は幸いこちらとはそれているので、巻き込まれる心配はなさそうだ。


「あれがトロイアと三忌避だな。あいつらの距離を見るにそろそろトロイアが捕まって殺されるな。馬鹿だなぁ」


ノエルは自身は関係ないからと、とても楽しそうに笑っている。


「いや、殺されるって大問題だろ!?」


「どうせこの世界じゃ何回死んでも、すぐ近くの蘇生ポイントで生き返るから大丈夫だぞ」


ノエルが当たり前のように言う。


またもや驚愕の事実である。


この世界ではどうやら死ぬことはないらしい。


自分が知らないだけで、この世界にはまだまだ信じられないようなことがたくさんあるのだろうか。


「それにこの世界じゃ死ぬことなんて日常茶飯事だから早めに慣れとくほうがいいぞ」


「いや、死ぬことが日常茶飯事ってどんな世界だよ!不安になるわ!大丈夫な点を教えてほしいんだけど!?」


とりあえず、死なないということが分かったのはいい。


だが目下一番の問題がある。


あのトロイアという男、ノエルのほうを見たと思ったら急に満面の笑みを浮かべてこっちに方向変えたんですけど!?


「おーい、ノエルー助けてくれー」


「おい!マジでふざけんなよトロイアァァ!こっちくんなぁぁぁ!」


ノエルが超焦っている。


あれ?これちょっとやばいんじゃない?


トロイアの後ろで三忌避の一人が魔法を構えているのが見える。


いや、あの女俺ら巻き込んで打つ気満々じゃん!?


「アレックス、はしれぇぇぇぇ!!!」


ノエルが走るのに追従して走り始める。


背後で魔法が着弾する爆発音と衝撃を感じる。


いや、こぇぇぇ。


頭おかしいだろあの女。


ふつう打つか、関係ない人がいるのに。


「おい、トロイア!何でこんなことになってやがる!説明しろ」


ノエルが走りながら、隣を走るトロイアに怒鳴る。


「いやー、それがさぁ、昨日の夜最終回を迎えたアニメで主人公が幼馴染ヒロインと先輩ヒロインのどちらを選ぶかで学科のやつらと今日の昼飯かけてたんだけど、見事に俺の推してた先輩ヒロインが選ばれてかけに勝ったんだよ。で、あいつらの悔しがる顔が気持ちよくてつい思わず『やはり幼馴染は負けヒロイィィィィン』って叫んだ」


「百パーセントお前だけが悪いじゃねえか!マジで俺ら巻き込むなよ!しかも俺まだそのアニメ最終回見てないんだけど!?殺すぞマジで!」


「あ、そうなの?いやーめんごめんご、で、こいつだれ?」


全く悪く思っていなさそうな態度で口だけの謝罪なのがまるわかりである。


「普通にスルーすんのやめろや!はぁ、後でどうせ何人かに殺されるだろうからもういいや、こいつはアレックス、アリスが担当になった新しく魔法学科に来た奴だ。で、アレックスこいつがトロイア、ばかだ。」


ノエルがあきらめたような表情で紹介する。


そんな様子のノエルには申し訳ないが、知り合いになりたくないから紹介していらない。


「俺の説明ひどくね!?よろしくなアレックス」


そんな俺の様子に、トロイアは一切気づいていないのかフランクに話しかけてくる。


「よろしく…」


紹介されてしまった手前仕方がないが、できるだけかかわらないようにしよう。


というか、もうすでに魔法学科に入ったことを後悔しそうだ。


「というか、なんで三忌避はそんなことで怒ったんだ。別に三忌避が煽られた相手というわけじゃないんだろ?話の流れ的に」


「この世界にはいろんな物語から来た奴がいることは話したよな?」


「ああ」


「ということはだ、恋愛系の物語の世界から来た奴ってのももちろんいるわけで、あいつらは恋愛系の中でも幼馴染ポジ、しかも負けヒロインだった奴らだ。アレックス、この世界で生きていくことになったのだから覚えておくといい、この世界は何が地雷ワードになってもおかしくないんだ」


「じゃあ、三忌避の地雷ワードは幼馴染と負けヒロインってことか?」


「そうだ」


ええ……、それマジで俺ら関係ないじゃん。てかもう、それまじで存在が地雷じゃん…。


「でも、幼馴染との恋愛かぁ、俺も故郷に同じ年くらいの子がいればなぁ。いいな、ちょっとあこがれるよな」


「あ、ばか、お前そんなこと言ったら…」


ノエルが焦って止めようとしてくる。


「「「いいなですって…」」」


背後から恨みのこもった声が聞こえてくる。どうやら、すぐ後ろまで追いついてきていたらしい。


「あー、終わった、完全に巻き込まれたわ」


ノエルが天を仰ぐ。


「「「殺す!」」」

 

「なぜ!?」


「いや、お前も話聞いとけよ、幼馴染は地雷ワードだって言ったじゃーん」


いや、ここまで敏感と思わないだろ!?


後ろから感じる殺気が俺に集中し始めてるぅぅ。


やばいやばいやばい…


「全然よくないわよ!あいつが好きだって昔言ったから、子供っぽくてもずっとこの髪型だったのに…」


「幼馴染ヒロインの特徴その1、ツインテール」


「ちょっと素直になれなかっただけなのに…あんなの照れ隠しじゃない!」


「幼馴染ヒロインの特徴その2、ツンデレ」


「お前のことは恋愛対象として見れないってなによ!」


「幼馴染ヒロインの特徴その3、基本的に負けヒロインである!」


「トロイアァァァァァ!頼むから火に油注ぐような茶々をいちいち入れるなあぁ!


いや、まじで変な茶々入れるのやめろよ!


お前がなんか言うたびに俺に向けられる殺気の量が膨れ上がってるんですけど?


てか、さっきからそれ俺関係ないじゃん。


「俺関係ないよねぇ!?」


「うるさい、いいからだまって一回殺されろ!」


「いや、まあ冷静に考えてこいつらが選ばれなかったところってこういうところだよな、こいつらきついし怖いし、そんな奴選ばんだろ。」


「「もう、マジで黙ってろよお前!?」」







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終末からの再戦世界 如月 梓 @Azusa00

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