第十六話 ターゲットは目の前

「よしエレード、次から2人を観察するぞ!」

「そうだな!あわよくばどんな感じなのか聞こう!」

エレードは拳を空に向かって上がるポーズをしようとしたが、怪我のせいで痛がっている。

「痛ぇー!」

「あんまはしゃぐな。大きな声になっちゃっただろ。バレてないか?」

「まあ、大丈夫!」


ー・ー・ー


次の日の昼は基本的に4人でいるから特にあったわけではなかった。


まあ、問題は夜の見張りだ。

今回はエレードと一緒に2人のことを見守る。方法は、まず、テントに覗き穴をつくる。そしてテントに【身幻:ディスガイズ】でいつものテントの外見を装わせる。

これで、俺らは見ることができるが、ザキ達からはいつも通りのテントになる。

ちなみに幻影は外側からしか見えないから内側からは何もないように見えるぞ!


とまあ、これで見守ることは出来る。

本当は盗み聞きもしてみたいが、初日から大胆に動くことは出来ない。

 え?盗み聞きできないほど離れてるわけねぇだろって?それが離れてるんだな。共同のテントから焚き火を挟んでザキ達がいる。そして焚き火の火が移らないようにテントは離している。

だから、焚き火の音や自然の音も相まって意外と聞き取れないのだ。

それにもしかしたら、万が一、ザキが好きでなかったとしたら普通に迷惑だ。仮にの場合だけどな。うん。


 旅なのにテントなんて持ってきてるのおかしくね?と思ったそこのあなた。俺やリーリンが【想造:クリエイト】で作っているだけだから安心してください。他のものもほとんどがそうです。本当に便利すぎる魔法だ。


ー・ー・ー


次の日は、ザキさんが昨日言った通り一日中ここで休憩した。

そして夜になって見張りをする。


エレードさんの話になる。

今日は、エレードさんの傷は順調に治ってきているけど、一日で完璧に治るわけもなくずっと安静にしていた。


あのエレードさんが静かにするほどの痛みって何なんだ?

回復魔法で傷を塞いでいたとしても痛みは伴う。というかまだ脳が傷を負ってるって錯覚してるから痛みを感じる。……いやまあ、仮の体なだけだから体は治ってはないか。

えと、人は普通、死んでいたかもしれないほどの重傷を負えば気を失う。

けど今のエレードさんは覚醒しているから傷の痛みを正面から受けることになって、石像のように動かなくなったのか。まさに生き地獄。かわいそうに。


いやでも回復魔法で回復してるんだから出血などでは死なないし、動いても問題ないはず。

逆にここから死ぬとしたら安心しきって脳死するか、普通に、また大きな傷を負ったり大きな病にかかったりするかかな?


そんな他愛もない話をしている間にも、やっぱりあのことが頭にチラつく。

宗教戦争のこと、どうにかしないと。

でも、昨日「これはまた後で話そう。」と言われてからはいつも通りの時間が過ぎていった。本当に何事もなかったようにザキさんは過ごしていた。


私はあのことを人に打ち明けてちょっとソワソワしてたのに。いや、ちょっとじゃなくてだいぶだったかもしれないけど。

…だって、あんな世界の核心に触れているかもしれない出来事が身近にあったって事だよ?そんなことを知ってしまったら恐ろしくて疑心暗鬼になってもおかしくないよ!


私は意を決して話出す。

「あの、ザキさん、昨日の宗教戦争の話覚えてます?」


ー・ー・ー


「あの、ザキさん、昨日の宗教戦争の話覚えてます?」

リーリンがそう言ってくる。


覚えてます?なんて失礼だな。あれから一日中考えてたのに。

あんな出来事があって、僕らの推測が正しいのならたとえ魔王を倒したとしても世界は平和にならない。だからそれを解決しに行きたいはそうだけど、それをハイドとエレードが賛成してくれるかはわからない。


ハイドとは僕の依頼で魔王を倒す旅に来てもらっている。別に世界平和のためじゃない。

エレードは出発前に家族と話し合ったみたいで、どういう感じ了承を得たのかわからない以上、着いてきてくれるとは限らない。


それに、あの問題を解決するなら命懸けだろう。それもこの旅以上かもしれない。それに加え、あんなことを無闇に広げようとしたらどうなるかわからない。僕達が解決しようとしたのがきっかけに、ますます状況が悪くなるかもしれない。

それでも協力を仰ぐならそれは、迷惑とも言える。そう言われれば言い返せないだろう。


「もちろん、覚えてるよ。それで考えたんだけど、僕は昨日言った通りそれを解決しに行きたい。だからハイド達にもこの話をしよう。今すぐ返事をしてもらえないかもしれないけどやっぱり話さないことには始まらないと思うんだ。迷惑だと言われれば仕方ないからとりあえずは諦めよう。」

リーリンも同じことを考えていたのか、すぐに首を縦に振る。


「あと、話すときなんだけど、リーリンが話してほしい。あのお母さんの話もリーリンが一番わかってるだろうから。僕も補足できたらするけど、リーリンが話してくれた方がきっと想いが伝わるよ。」

「その通りだと私も思います。ハイドさんは兎和団のことを知っていますしエレードさんは、、わからないですけど、みんなが行くなら着いてきてくれると思います。だからきっとみなさん着いてきてくれるとは思いますが、……でも私達があのことに関わっていいのでしょうか。もしかしたらそれを皮切りに人類は滅亡するかもしれません。もう私達が勝手に調査できる範囲ではないんじゃ、と思って。」

リーリンは、私から提案したのにすみません、と申し訳なさそうにしている。


うん、それは僕も思った。だけど、

「まだハイド達が賛成してくれるかを聞いていないからまずは話そう。それから賛成してくれたら一緒に考えよう。」

「そうですね。………」

リーリンは落ち着かない様子だ。

「落ちついて、大丈夫だよ。僕も説得するから。」

「ありがとうございます。頑張ります。」

「うん。明日の昼にそれを話そう。」


向こうからハイド達がやってくる。そろそろ交代の時間らしい。

「リーリン達、変わるぞ。」

「ありがとうございます。」

僕達はテントに戻ってそのまま就寝した。


ー・ー・ー


ザキ達と交代して見張りをする。

「今夜は進展なしだったな。」

「そうだね。でも結構話してたよね。やっぱりなんか盛り上がるようなことあったのかな?」

たしかにほとんどが会話だった。

「それにしては、最後の方は顔が真面目だったけど。もしかしたら何かあったのか?」

「う〜ん、たまたまそう見えただけかもよ?それに2人で話してることだから突っ込のもどうなんだろ?」

「いや、盗み見してる時点で結構突っ込んでるけどな。」

「あ、そっか〜。」


ー・ー・ー


次の日の昼。

昨日はエレードと一緒にザキ達を見てたから、見張りの時はほとんど寝ていたけど運良く明日を迎えられた。あぶねえあぶねえ。


「あの、みなさん聞いて欲しいことがあります。」

リーリンが珍しくみんなの注意を引く。

どうしたんだ?やっぱり昨日なんかあったのか?

「どうしたの?」

「えっと、少し長い話になるんですけど良いですか?」

俺達はそれに同意して続きを聞く。

すると、まずリーリンのお母さんの話がされ、次に宗教戦争の話がでてきた。


「……ここまでがザキさんと考えた推測です。推測が正しければ私達が頑張って魔王を倒せたとしても世界が平和にならないと思います。」

みんな静かにリーリンの話を聞き入っていた。

「あの、だからみなさんにお願いなんですけど、一緒に解決しに行きませんか?」

……なるほど。たしかにその推測はあたっているだろうな。

「僕は先にリーリンの話を聞いてて、もう一緒に行くって決めてはいるよ。でもパーティみんなで行かないと危ないからハイドとエレードに意見を聞きたいんだ。」

ザキが賛成するのは想像通りだな。

「でも相当危険だろ。前に会った兎和団のヤツ覚えてるか?アイツがいるんだぞ?」

俺はあえて厳しいことを言う。

「わかってます。。。」

リーリンは少し黙り込む。

「でも、野放しには出来ない問題です。その問題に気づいた私達がやらなきゃ解決できる人はいないんじゃないでしょうか。」


「…なるほどな。」

リーリンの言葉を聞いて今、わかった気がする。

なぜザキのじいさんが、俺を名指しで指名したのか。なぜリーリンを指名したのか。

きっとあのじいさんは、俺が兎和団のアイツと関係があることを知ったんだろうな。そしてリーリンが宗教戦争に魔物が関与していることを知っているということもどこかで調べたのだろう。

敵は魔王だけじゃないことを知って、俺達にそれを伝えようとしたのだな。もうそうとしか思えない。

俺もそろそろアイツとの問題を解決しなければならないのかもな。

「わかったよ。俺は賛成する。エレードは?」


ー・ー・ー


「わかったよ。俺は賛成する。エレードは?」

ハイドから話を振られる。

リーリンがあんな重要なことを知っていたことに驚いたけど、たしかに勇者エレンの話でおかしいところはあった。もしかしたらそれについて調べれば俺の呪いも解けるかもしれない。

ハイドが言った通り、あのヤベェヤツがいるのは確かだ。

だけど喉から手が出るほど欲しかった解呪方法が見つかるかもしれないのだ。行き詰まっていたところから進展するのなら行くしかない。

その上リーリンの頼み事を聞けば、俺の頼み事も聞いてくれるかもしれない。


「俺も行くよ。なんだかヤバそうだし。俺らで世界を救えばいいんだろ?」


ー・ー・ー


「俺も行くよ。なんだかヤバそうだし。俺らで世界を救えばいいんだろ?」

その言葉を聞いて私はとりあえず安心した。

「みなさん、ありがとうございます。」

「まあまあ、俺らパーティだしな。」

とハイドさんが言う。

あぁ、たしかに私達はパーティか。

「それじゃあ、みんなで行くってことでいいね?」

みんながそれに同意する。

するとハイドさんが話し出す。

「オッケー。それですぐこんなことを言うのもなんだけど僕らが勝手に調べても大丈夫なのかな?」

「どういうことだザキ。」

「もしかしたら僕らが関与したせいで魔物達が暴れてもっと悪化するかもしれないんだよ。」

私達が不安に思っていた要素だ。


するとそれなら、とハイドさんが発言する。

「多分大丈夫だそ。いや、俺らは大丈夫ではなくなるかもしれないけど暴れて人類を滅ぼすことは多分しないぞ。」

「え、なんでですか?」

「前に兎和団のアイツがボスだって言っただろ?俺ソイツと会ったことあるからわかるけど、多分表には出たがらないと思うし、別に人類を殺そうと思えばもう殺してるだろ。だからそこまで気にする必要はないかな。」

「たしかに言われてみればそうですね。ですが万が一の場合もありますし何か対策があったほうがいいかもしれません。」

みんなで考え込む。


「あ、多分いけるかも?」

とザキさんが言う。

「お、どうするんだ?」

「えっと、王様にそれを話すんだよ。僕が前に勇者試験に合格したときに、いつでも頼ってくれていいからなって言ってたから。」

いや、それはお世辞…じゃなくってアレ、なんだっけ。えっと社交辞令か。

「それ、ほんとに王様に話聞いてもらえます?」

「いや、だから南の魔人を倒そう。そしたら聞いてもらえるかもしれない。」

「あ、確かにそれなら話だけでも聞いてもらえるかもしれません。」

ハイドさんとエレードさんも納得している。

「よし、じゃあとりあえずは南の魔人を倒しに行こう!」

私達は南の魔人を倒す前提で話を進めた。その甘い考えが後々私達に牙を向くことになる。

……なんてね。

きっと大丈夫。


ー・ー・ー


「…あぁほんとに…あの問題に向き合うことになるんですね。こんなに大事になるとは思ってもいませんでした。しかも私達次第で運命が変わるかもしれないなんて、、」

リーリンは右腕のバングルに左手を添えている。

なんとかハイド達にも賛成してもらえて行くことが決まったその日の夜だった。

リーリンが提案したとはいえ、心のうちでは相当不安に思っているのだろう。


僕は、大丈夫だよ、と言ってリーリンの両手を僕の両手で握る。

「魔王を倒す旅だって、僕達の頑張りによって人類の運命が変わるんだ。結局は変わらないよ。僕達が頑張るしかないんだ。それをわかった上でリーリンは魔王を倒すために、世界を平和にするために着いてきたんだろう?」

リーリンが小さく首を縦に振る。

「なら大丈夫。その覚悟を持てたリーリンならもう一回覚悟を持つのなんて容易いことじゃないか?」

リーリンはハッとするように少し目を開いた。そして少しだけ下を向いて笑う。


「そうですね。…まったくのその通りです。頑張りますよ。」

リーリンは自分に言い聞かせるように話す。

「うん、一緒に頑張ろう!」

リーリンが小さく頷く。


「……えっと、あの頑張るので手を離してください。」

あ、ついギュッと握ってしまった。

「あ、ごめんごめん。」

「……すぐ触ろうとしないでください。」

「スミマセン。」

これは悪かったな。


ー・ー・ー


今日の昼は衝撃的なことをリーリンの口から告げられた。

まったく、そんなことならもっとはやく言ってくれてもよかったのに。


「あんなことを今日言ってきたってことは昨日はザキとその話をしてたのかな?」

エレードがそう話す。

「たぶんそうだろうな。」

今はザキとリーリンが見張りの時間だけど、俺らも起きて盗み見している。

「もっと早く言ってくれてもよかったのに。」

「まあまあ、兎和団のことがあったからこそヤバイと思ったんだろうな。」

そんなことを小声で話していると、ザキがリーリンの手を握った。


「おい、エレード見たか?」

「見てるぞ!」


『え、やっぱザキ、リーリンのこと好きじゃん。』


ー・ー・ー


昨日は衝撃的なことが2回起こった。これは、ぐっすり寝れるわけないな。

「なんでお二人とも寝不足なんですか。」

「いや、いつもこんな感じだよ。な、エレード。」

「うん、そうだよ。」

「そうですか……。」

めちゃくちゃ疑われてはいる。


「リーリン、エレードの怪我の具合は?」

「大丈夫そうですね。二日しか休んでいませんが七割ほど治っています。また進み出しても問題ないですが、どうしますか?」

ザキが考え込む。

「じゃあ、また進み出そう。それでサンダードラゴンのことなんだけど、」

そんなやつそういや居たな。

「僕達が勝てるかどうか微妙なんだよね。だけどここ数日僕たちのことを追ってきてはいないし、あまり好戦的な感じでもない気がするから、倒しに行かないでそのまま南下するよ。エレードの怪我もあるから休憩を多くしつつゆっくり行こう。」

「うん、それがいい。エレード気をつけろよ?」

「エレードさん、いつもより慎重にしてくださいよ?」

「そんなに言われなくたってわかってるよ。」

あぁ、また旅が動き出すんだな。


ー・ー・ー


あれから数日が経った。

この数日間は村を三つ通ってきたので、次は南の魔人がいる都市が見えるはず。


エレードの傷は次第に治って、今では元気に暴れ回っている。

あんなに深い傷があったというのに元に戻るんだな。



翌日。

ついに、南の都市ポーキュパインタウンが遠目に見えた。

俺らが求めて約一か月。

ターゲットは目の前にある。

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