第十七話 視察
その翌日。
ついに、南の都市ポーキュパインタウンが遠目に見えた。
俺らが求めて約一ヶ月。
ターゲットは目の前にある。
「あれがポーキュパインタウン。南の魔人がいる都市だ。」
ザキが目を輝かせて言う。
「人間のどの街よりも栄えてますね。」
「まあ、街じゃなくて都市って言うぐらいだからな。」
都市は遠目で見ただけでも人間の街より何倍も広いことがわかる。
シルエットは全体的に高く、魔法で浮いているものも多い。
まだ完全に見えているわけではないが、幻想的な雰囲気が伝わってくる。
「あんなに大きな都市を攻略するんですね。厳しい戦いになりそうです。」
「そうだね、都市自体にも魔法みたいなものが使われているみたいだからより強そうに感じる。」
「あ、これが勇者エレンの話にあった、魔法と科学が融合した都市か!」
とエレードがはしゃぐ。
そういえばそんな話もあったな。
「でも今の人間の街には魔法が使われている場所が極端に少ないよね。科学分野は資源がいるから仕方ないにしても、魔法なら使っていても良さそうなのに。」
ザキがそう話す。
「たしかにそうですが、ザキさんのように魔法を使えない人がいるからあまり使われてないんじゃないですか?」
「なるほど、魔物なら全員魔法が使えるし、使えなくても新たに覚えることができる賢い奴が多いしな。」
じゃあ、とエレードが質問してくる。
「なんであのお話には、魔法と科学が融合した都市が造られてたって書いてあるの?昔だって魔法を使えない人がたくさんいたはずなのに、どいうことだ?」
俺は一瞬頭がバグった気がしたが、エレードが言いたいことはわかった。
今の街に魔法が使われていることが少ない理由は、魔法が使えない人がいるから。
だがしかし、昔も魔法が使えない人はいたはず。
なのに魔法が都市に使われていたのはおかしいということか。
じゃあ何かしらの理由があるのだろう。
今のところはわからないな。
「まあ、多分何かしらの理由があったんじゃないか?」
「そっか〜。でも、考えるとあの話っておかしいところがたくさんあるね。」
みんながそれに頷く。
「というかこんなことを話してる場合じゃないよ。都市の観察をしよう。そしてまた作戦立てて準備が出来次第乗り込もう。」
その言葉通りに都市に向けて歩く。
もう少し近づいて、といってもまだまだ遠いがそこで探知をしてみる。
あたりは川が流れ、木々が生い茂っているが、都市の周りだけは森が伐採されていて安易には近づけないということがわかった。
都市の周りは身長の三倍くらいの高さの城壁がある。
だが、高いとはいえ飛行魔法だったり、単純に壁を登ったりすれば問題なく乗り越えられる。
……いや、城壁から上は薄く結界がある。
だからそこから入ればおそらく警報が鳴るだろう。
もしくは別のところに転移させられて殺される。
そうならないようにするためには、遠くに見える門から入るしかないだろうがそこには門番がいる。
なるほどな。
あえて無意味そうな城壁を作り街に入る手段を制限させることによって、相手に一工夫させる。
そして、相手をその一工夫でクリア出来たと油断させることが出来る。
相手の心理をよく考えている。
その上この都市に住んでいる魔人は門から入れるが、部外者は正式な手順を踏まなければ入れないため普段の生活には困らなさそうだ。
この探知結果をザキ達に伝える。
「私はそこまで精密に見れなかったです。…結界を使っている身ではあるんですけどね。」
リーリンは悔しそうだ。
まあ、でもリーリンはどっちかというと探知よりも解析に優れている感じがする。
「そうなのか。事前に知れてよかったよ。
僕はあの門番の魔人を遠目に見てたけど、地上なら僕でも簡単に倒せる程度かな。だからそんなに強くはないかも。…まあ、魔法がどれくらい使えるかはわからないけどね。エレードは?」
「俺は魔人達にバレそうだったから探知は出来なかったな。それになんかあの都市全体からこっち側にめっちゃ探知されてる気がする。」
ザキがみんなの探知結果を聞いて考える。
「なるほど、結果をまとめると奇襲はキツそうだね。探知されているみたいならとりあえずもう少し下がろう。」
都市を背にして歩き出す。
ん?
なんとなく後ろを向く。
「【攻撃:キャウレスライツ】」
都市の方から一本の光が、、
「リーリン後ろ!」
「ッ【結界:マジックウォール】」
攻撃が結界とぶつかり、その衝撃で木々が倒れ砂埃が舞う。
結界と攻撃が相殺された。
ここにいる魔人の魔法って全部こんなんなのか?
だとしたらリーリン頼みだし、なんならリーリンも防ぎきれないんじゃ、
「下がるぞ!」
ザキの指示が出る。
「追撃は今のところないです。」
続いてリーリンの報告が入る。
「【呪い:パラシディック】」
近くにいたリーリンとエレードに触れてその呪いをかけておき、位置がわかるようにしておく。
「俺がザキ連れて転移するからリーリンはエレードで!どこでもいいからとりあえず逃げろ。後から俺達が迎えに行く。」
「わかりました。エレードさんは都市の探知をお願いします。」
「ザキ行くぞ。」
俺はザキに触れて【呪い:パラシディック】をかけた後に、【転移:イメージテレポート】を数回使って下がった。
リーリン達も位置的に逃げれているみたいだ。
俺達の左前にいるが、そこまで離れてはいない。
「ザキ大丈夫か?」
「大丈夫。それより合流しよう。」
「おっけー、そんなに遠くないから歩いてこう。」
ー・ー・ー
「お〜い!リーリン〜、エレード〜!」
ザキさん達が森の中をかき分けて歩いてくる。
合流は出来た。
「とりあえずもうちょっと場所移動しよう。」
場所を移動した後にザキさんが質問する。
「怪我はない?」
「俺達は大丈夫だぞ!ザキ達は?」
私が答えたかったのに…
「僕達も大丈夫。リーリンの結界が間に合ったお陰だね。あとハイドの探知も。」
「ありがとうございます。でもハイドさんが言ってくれたからですよ。」
「いや、俺でもあの魔法は探知魔法じゃ気づけない。」
「あ、だから俺がわかんなかったのか。」
と、エレードが呟く。
「私も気づけなかったです。」
あの2人が気づかないとは珍しい。
エレードさんがどうしてわかったのかと聞く。
すると、
「ん?ただの勘。」
とのこと。
「は?」「え?」「あぁ、、」
「ほんとですか?実は探知できたとかじゃないんですか?」
もしかしたらまた隠し事をしてるかもしれない。
ほんとに謎だからな、この人は。
「いや、ほんとほんと。なんとなく後ろ向いたら攻撃来てたってだけだわ。」
「そうですか。」
まあ、気づけるとしたらそんな感じか。
「でもどうして俺らは探知できなかったの?俺らがいつも使っている【探知:ディテクティブズアイ】じゃ発動始めしか、魔素を含まないものを感知できない。
だから、ナイフなどそういうものが投げられたのだとしたら気づかなかったことも納得出来る。
でも攻撃はいつも使ってる基本魔法だったよ?魔素が含まれているものなら【探知】の発動始め以外でも、発動中ならわかるはず。」
珍しくエレードさんが真面目に考察している。
ただ、ほんとにエレードさんの言う通りで私達が魔法を撃たれて気づかないわけがない。
ましてや、都市が見えてきてより警戒していたはずなのに。
……いや、あの瞬間だけは少し気を抜いていたかもしれない。。
「探知出来ないように、攻撃に認識妨害する魔法かなんかをかけたのかもしれないな。」
ハイドさんはそう言う。
「ですが、それなら探知結果にわずかな歪みが生じます。それを見れば分かるはずです。もちろん難しいことではありますが私達が出来ないわけじゃないです。」
みんな考え込み、あたりが静かになる。
「……いや、あの場面じゃ探知が難しかったんじゃない?僕が言うのも何だけど、あの瞬間はみんな気が抜けて警戒を怠っていたと思うんだけど。」
魔法が使えないザキさんならではの視点だ。
でも、図星だ。
他の方達もそうみたい。
「だけどそれだけであんなド派手で大きな魔力を持った魔法に、俺達全員が気づかないわけないだろ!」
エレードさんは、ああやって強く言うくらい魔法に自信があるみたい。
それもそうだ。
どれほど腐ったって、あのカイン一族が創った人間界一の魔法学校の優秀な魔法使いなんだよ。
私なんかより、魔法を使う人としての才能が違う。
「…考えられる可能性は三つある。」
悩んだ末にハイドさんが話し出す。
「一つ目は、さっき言った通り攻撃に探知を妨害する魔法がかけられていて、その上俺らが油断していたから。でも普通ならそれでも気づけるため、相手の妨害魔法が俺らの探知を上回ったと見ていいだろう。そうなると相手は相当のやり手だ。」
そっか、私達が魔法の技術で負けることだって、当たり前だけどあり得るか。
というか、これから先はずっとそんな感じで不利な状況が続くんだろうな。
「二つ目は、その攻撃に魔素を含んでいないから。」
エレードさんと私の間で衝撃が走る。
「え?そんな魔法があるのか?たしかにそれなら探知できないけど、、」
黙ってハイドさんが喋り出すのを待つ。
「“ない”とは言い切れない。あと、そもそもその攻撃は、【攻撃:キャウレスライツ】ではないから、ていうのが三つ目だ。この二つはほぼ一緒ではあるけど微妙に違う。」
そしてハイドさんが説明してくれる。
内容をまとめると、二つ目ついては【攻撃:キャウレスライツ】の魔力だけを発射したもので、【攻撃:キャウレスライツ】であることには変わりないということだ。
そんなことができるのかは知らないみたいだけど、あの魔法が基本魔法であり最強の攻撃魔法と言われているのだから、そこから応用してくる奴くらいはいるだろうとのこと。
三つ目については、【攻撃:キャウレスライツ】を応用して別の魔法を作り出したということ。
そして探知に引っかからない魔素を利用していたからわからなかったということみたい。
でもこの可能性は極小数で、最悪のケースらしい。
それはそうか。
そんな新たな魔素を見つけ出すことができているのなら、人間とは比較にならないほどの強さだ。
そんなことが起きているのなら私達は勝てない。
私達以前に、人類は魔物に勝てない。
「一つ目が一番現実的で可能性が高いけど、別の可能性もある。まあなんにしろ俺達は魔人より魔法の技術面で負けているってことだな。」
私もそう思う。
というか、そうであってほしい。
ハイドさんが言った以外の可能性も含めるとなおさらだ。
ー・ー・ー
「なんにしろ俺達は魔人より魔法の技術面で負けているってことだな。」
俺はそう言い終えた。
「その通りですね。」
‼︎
一瞬、リーリンが喋ったと思ったが明らかに声が違う。
リーリンよりもっと低い声で、余裕のある話し方。
一斉に声がした方向へ向く。
すると、そこには人影があった。
黒いローブを着てフードを被っている。
髪型は女性でいうショート、男性でいう長髪で、白色だが白髪ではないようだ。
顔には、黒を基調とした白色の模様が入った仮面がつけられていてわからない。
しかし、夜に目を光らせている野生動物のように見られているのが伝わってきた。
左耳にはウサギのイヤリングが揺れている。
ソイツは微笑んで言葉を続ける。
「ハイドさんが話した通りですよ。現段階で、あなた達は魔法の技術面で魔人達に負けています。不意打ちに気づけなかったのもそのせいでしょう。」
圧倒的な自信と余裕を持ったソイツを前に誰も喋らない。
「そこでハイドさんは、三つの可能性を提示しました。」
…聞いてたならさっさと答えを教えてくれればいいのに。
「ハイドさんは、二つ目と三つ目の可能性はどのくらいだと考えているのですか?」
「……二つ目は10%くらいだ。三つ目もあり得ない話ではない。」
なんてったって今目の前にいる奴が、どちらも使ってきたことがあるのだから。
「…可能性が少しでもあるのなら選択肢としては提示しておく。当然だ。」
俺がそこまで言うと、ソイツは目を少し細めて「おかしいですね」と語る。
「私はそこら中にいる魔物とは違うと前に伝えたはずです。あなた達もそのことは理解しているはずでしょう?」
「なら一つ目で間違いないんだな?」
俺が食い気味にそう言うと、ソイツは微笑む。
「その通りです。」
俺の目的は聞けた。
だからもうその場に居なくていい。
「じゃあ、さっさと消えな。」
「いえ、私が教えてあげましたのでこちらの質問にも答えていただきます。」
「お前が勝手に教えただけだろ。」
ソイツは困り笑顔を少しだけ浮かべた。
「まあまあ、そんなことを言わずに。そんなに難しいことではないので大丈夫ですよ?ザキさん。」
そう言い、ソイツは俺の隣を見る。
俺じゃないのか。
「わかった。答えられるものなら答えよう。」
ソイツは「では。。」と言って質問をする。
「あなた達はこのまま魔王を倒しに行くのですか?」
?
何当たり前のことを言ってるんだ?
魔王に告げ口でもするのか?
いやでも魔王もそのことは把握しているはずじゃ?
「そうだよ。それがどうした。」
ザキは自信を持ってそう話す。
「私と敵対することになっても、ですか?」
こちらも余裕に満ちている。
普通なら迷うだろう。
こんな化け物みたいな奴と関わりたくないに決まってるからだ。
だけど、俺らは違った。
「もちろんだ。君が敵になろうと僕達は変わらず魔王を倒しに行く。それだけだ。」
今度も自信満々に言う。
他の人は何も話さないで、ただ見守っている。
アイツはそう言われるとわかっていたのか、平然としている。
「そうですか。答えていただきありがとうございます。それでは用事も済んだことですし、私は帰りますね。」
すぐに帰るみたいだ。
ならついでに言っておこう。
「俺もちゃんと魔王を倒しに行くからな。」
「…そうですか。楽しみにしていますね。」
アイツが少し笑ったから意味は通じただろう。
「じゃあ、帰れ。」
「…そう言われなくても帰りますよ。」
その次の瞬間にはその姿は無かった。
「なんだったんだ、アイツ?」
エレードの間抜けな声が響く。
「さあ、、?わかんないですね。」
ザキは何か考え事をしている?
…たぶん俺とアイツについてだろう。
まあ、ザキ視点に立てば気持ちはわかるけど、説明めんどいな。
「…まあ、僕もよくわからなかったけど、とりあえず一つ目だってことがわかっただけいいじゃないか。」
無理に首を突っ込まなかったか。
俺としては楽だから良いけど。
「そうだけど、俺らは魔人達に負けてるってこともわかったぞ。どうするんだ?」
「じゃあ、今日はこのあたりでキャンプして作戦を立てよう。くれぐれも警戒は怠らないように。」
ザキが釘を刺す。
それはほんとにそうだな。
前みたいにザキ達を盗み見、いや見守りね?
を、してる場合ではなさそうだ。
「そして、作戦が立てれたら遂に南の魔人に挑みに行くんですね?」
リーリンが期待をしながらザキに問う。
「そうだよ。やっと南の魔人と対面することになる。もう少しだから、気合い入れて頑張ろう!」
「おー!!」
と、エレードの元気な声が響き渡る。
「本当に元気ですね。」
「だな。」
それから何日かは、遠目から観察しつつ作戦を少しずつ立てていった。
細心の注意を払いながら準備を着々と進めていく。
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