第十五話 疑惑
ー・ー・ー
エレードさんがこちらに飛んで戻ってくる。
その途中、
サンダードラゴンの爪が、エレードさんの左の横腹から右肩まで引き裂いた。
「エレードさん!」
エレードさんはよろめいて落下していく。
「【電雷:ブリスターリン】」
再び電気を溜め出す。
お腹に棘が刺さってるのに⁉︎
助けないといけないのは分かってるけど、私も結界のために魔力を溜めないと。
「【転移:イメージテレポート】」
ハイドさんが空中にテレポートする。
そして落下中のエレードさんを抱える。
そのとき、溜めてた電気が発射されハイドさん達に追撃する。
「【結界マジックウォール】」
「【転移:イメージテレポート】」
黄色く光り輝く電気魔法が結界にぶつかり、電気魔法が打ち勝ってハイドさんたちの身に迫る。
しかし、攻撃が結界にぶつかった時間があったおかげで、テレポートできたみたいだ。
あと一歩何かが遅れれば直撃していた。
「みんな、撤退だ!」
ザキさんが大きな声をあげて指示を出す。
「そのままエレードさんを任せますね。」
「了解。」
私は飛行魔法でザキさんのもとまで降りて、【転移】で作戦会議をしたキャンプ地まで戻った。
「【回復:セルアクティベーション】」
思ったより深い傷だな。
一応治りはするけど、何日かは動けないかもしれない。
「……痛、…。」
エレードさんが痛そうにする。
「今治してますから大丈夫ですよ。」
「リーリン、エレードは大丈夫そうか?」
周囲の警戒をしていたハイドさんが声をかける。
いつも、いじりたおているのにこういう時はちゃんと心配してくれるみたい。
私が思っているよりちゃんとしている人なのかな?
今でも正直警戒している。
だって、人殺しだよ?信頼する方がおかしいまである。
ただ、今回はハイドさんが回収してくれてなかったらエレードさんは死んでいたかもしれない。
だから戦いにおいては信頼できそう。
「怪我は治ります。ですが、短期間に同じところに傷ができるのはよろしくないかと思います。」
「たしかに、そうだな。エレード注意しろよ。」
「……んー、、」
今にも消えてしまいそうな声で返事が返ってくる。
「なんでよくないの?」
相変わらずのザキさんだな。
「回復魔法は、魔力で仮の肉体をつくるんです。そのあとは自然回復で元の自分の体に戻るのを待てばいいんですけど、短時間に同じところに傷を負うと自然回復がリセットされちゃうんですよ。それに加えて、同じ箇所に何回も傷を負っていけば体が脆くなります。」
「え、じゃあエレード大丈夫なのか?」
「大丈夫ですよ。何日か休めば回復します。それに、普段あんなにはしゃいでいるエレードさんが元気にならないわけがないですよ。」
一瞬考えたザキさんだったが、納得したみたいだ。
「…それもそうだね。それじゃあ、しばらくはここで過ごすか。」
「わかりました。ところでハイドさん、サンダードラゴンはどうなったんですか?」
気になっていたことだ。
「う〜ん、それが………さっきエレードが倒したと思ったんだけど、まだチリになってないんだよ。単純にまだ粘ってるだけかと思ったけど、まだ倒せてないと思う。」
その言葉を聞いて衝撃を受けた。
お腹に突き刺さっているのは見たのに。
「ど、どいういこと?」
「お腹に確かに刺さってるんだけど、それが内臓にはうまいこと刺さってなくてただ穴が空いた状態なんだよ。その上さっき暴れて土をぐちゃぐちゃにしたから、もうお腹に刺さってないんだ。だから、あんだけデカくなったサンダードラゴンならいずれ回復するだろうな。」
「そ、そんなことあります?」
本当にあり得るのかな。
非現実的すぎる。
あの大きなお腹には、大きな臓器がある。
それも何個もだ。
それなのに何にも当たらないことがあるっていうこと⁉︎
「う〜ん、でも生きてるからな〜。倒せてないとみるのが普通だろうな。」
ハイドさんも半信半疑みたいだ。
「うん、悔しいけどきっとそうだろうね。」
と、ザキさんは多少は疑っているだろうけど、ハイドさんの意見と同じ考えみたいだ。
「というよりかは、今生きて帰れたことを喜ぶべきじゃないかな。だっていつ死ぬかもわからないようなところで、ドラゴンとも戦って生きてるんだよ?」
まあたしかにそれはそうだと私も思う。
……けど、サンダードラゴンが倒せてないというのには納得できない。
悔しいだけかもしれないけど。
ザキさんの意見に続くハイドさん。
「そうだな、お前ら結構おかしいんだぞ?
普通、エレードみたいにたくさんの種類の魔法を覚えてるやついないし、リーリンみたいに戦況を広く見て一瞬で結界を張れないし、ザキみたいに剣術が強くて地上戦無双したり、何しろ魔王を倒しに行こうなんて言ったりするやついないだろ。」
「もっと言ってくれても良いんだよ?」
自慢げな顔をしてそう言うザキさん。
「いや、何調子乗ってるんですかザキさん。それほどでもないですよ。それに、ハイドさんがいなければ私死んでましたし。」
ザキさんは少ししょんぼりとしたが、すぐに元通りになる。
「それで言うと僕も死んでたな。」
「そうなんですか?じゃあ、今回エレードさんも助けられてますから、ハイドさんはみんなの命の恩人なんですね。」
私がそう言うと、ハイドさんは鼻で笑う。
ちょっとひどい。
「そんなんいちいち数えてたら、旅が終わる頃にはとんでもない数になってるだろうな。」
私が笑い、ザキが首を縦に振る。
「まあ、そうならないように気をつけたいですね。」
「そうだね。でもどんなときでも助け合えるのがパーティなんだから、遠慮する必要もないかもね。」
たしかにそうだ。
困った時はお互い様。
またハイドさんが困ったときにでも助けてあげよう。
そこで、場違いな発言が出る。
「じゃあ、遠慮せずどんどん頼っていいってことだな、ハイド!」
「…エレード、お前いつか死ぬな。」
「んな訳ないよ。学校一の魔法使いなんだぞ!」
怪我した状態で言われてもねぇ。
「エレードさん、いきなりそんな大きな声で喋ったら咳き込みますよ?」
「大丈夫!何しろこのエレード様だぞ?心配などケホッ、ケホッ」
この後も結構つらそうに咳をする。
「言われたそばから咳してるね。」
「すぐに咳出るの芸術点高いな。」
ハイドさんの、そのツッコミが出るセンスがすごいな。
「ケホッ、ケホッ、別に俺芸術家じゃケホッ、ないし。」
「全く、無理しないでくださいね。」
少し声が小さいものの、いつものエレードさんが戻りつつある。
その夜、みんなでキャンプをした。
と言っても1人だけ、全然動いてなかったけどね。
そして今はザキさんと私が見張りをする番。
しばらく話をした後、ザキさんが何かを思い出したようだった。
「あ、聞いておきたいことがあったんだった。エレードの傷は具体的には、あとどれくらいで回復するの?」
「えっと〜、あと二日間まるまる休めば動いてもいいくらいになります。」
それを聞いてザキさんは考え込む。
「じゃあ、あと二日はここで休もう。たまには1日中休む日があった方がみんなの体力的にもいいだろうし。」
「そうですね。久しぶりにゆっくり出来そうです。」
髪を右腕でかき上げる。
するとザキさんは、ん?と小さく首を傾げる。
「リーリンって右腕にそれつけてたっけ?」
一瞬なんのことかわからなかった。
けど、それっていうのは、きっとバングルのことだろう。
「つけてましたよ?旅に出る時にお母さんから貰ったんです。」
「そうなんだ、いいね、可愛い。」
「ありがとうございます。」
そんなことを言われてちょっとドキッとした。
いや、バングルを褒めてくれただけだよ!
「何の柄なの?それは。」
「あ、えっと、ペンタスという花だそうです。花言葉は、博愛とか平和とかってお母さんが言っていました。」
余計なこと考えていたから、ちょっと反応が遅れてしまった。
「へ〜、いい言葉だね。」
「はい、私も気に入ってます。」
ザキさんが微笑み、私も微笑む。
「お母さんは優しい方なのだね。」
「まあ、そうですね。お母さんは私よりも良い僧侶でしたから、いろんな方々に愛されていますよ?」
何故か、ザキさんは首を傾げた。
「ん、なんでいい僧侶“だった”って過去形なの?」
あ、思わず口が滑ってしまった。
というかそういうのってあんまり人に聞かないもんだと思うんだけど。
いつも通りノンデリだな。
でもそのノンデリが逆に私を助けてくれたのかもしれない。
きっとこのチャンスを逃せば話し出せないだろう。
話す前から緊張してきた。
「…あの、話すと長くなるんですけどいいですか?」
「うん、いいよ。」
私は思い切ってあのこと──旅の本当の目的を話す。
ー・ー・ー
「うん、いいよ。」
と僕が答える。
その後、リーリンが話し出す。
「お母さんは、昔は僧侶でした。いや、昔といっても“七年前”の話です。」
この話も七年前なのか。
「ある日、私はいつも通り学校に行って帰ってきたら、いつも出迎えてくれるお母さんの姿がありませんでした。
お父さんは何故か落ち着かない様子でしたので、そんなに慌ててどうしたんですか?と、聞いてみたんです。そしたら、“今お母さんが大怪我で教会で治療をしてもらっている”と言うので急いでお母さんの元へ行こうとしました。
ですが、お父さんが“教会の方は今危険なんだ”と言うので結局その日は2人、落ち着かないまま家にいました。」
僕は黙って続きの言葉を待った。
「その後お母さんが戻ってきたときに聞いたんですけど、いつも行っている教会に爆弾が投げられて戦地になったそうです。いわゆる宗教戦争ってものに巻き込まれました。そんな中、お母さんは逃げてる途中に奇妙な物を見たそうです。」
「奇妙な物?」
「はい、奇妙な物を見たそうで、それは“魔物”だったそうです。」
「魔物?」
僕は思わず聞き返す。
「はい、そうです。でも宗教戦争は人間達によって生み出されているはずなので魔物は関与していないし、勇者エレンの大結界内に魔物が入れているのはおかしいんです。」
「たまたまそこにいただけってことはないの?」
「…それは無いと思います。その魔物は近くにいた僧侶だけを殺していたそうです。ただ人間を襲うのなら爆弾投げている人間でもいいですし、別の場所にいる人間を殺せばいいはずです。だから、魔物が宗教戦争に関与しているんじゃないのか?って思ったそうです。」
「なるほど、魔物は意図的にそこにいたってことなのね。」
「はい、そこで問題があるんですけど、魔物が宗教戦争に関与しているということは祈真教などの人間の宗教が邪魔ということです。」
何が問題なんだ……
……⁉︎
「じゃあ、あのウサギの魔物が属してる“兎和団”が裏で何かをしてるのか?」
僕は衝撃的なことに気づいた。
本当かどうかはまだわからないけど、きっとそうだ。
なんとなく会っている感覚がする。
そしてその感覚は合っていた。
「…はい、流石ですね。ハイドさんからの兎和団についての情報を聞いたときから、私もそう思いました。
兎和団では魔物でも入団できる訳ですし、宗教のようなものと言っていたので関与している可能性は高いと思います。その上、あのウサギの魔物のようにとてつもなく強い魔物なら自ら状況を観察しに来てもおかしくないかと。」
なるほど。
もしそれが合っているのだとしたら由々しき事態だな。
僕の七年前の時もそうだけど、そもそもそんな魔物が大結界に入ってるのはおかしい。
…大結界の中に魔物が入る術があるのなら僕らに安全な場所は無かったのか?
「そういえば、あの勇者エレンの逸話もおかしいよね。大結界を張ったはずなのに1人の強大な魔人は中に入れている。」
入れる条件のようなものがあるのかわからないけど、兎和団のやつみたいに知的な魔物が入れているのならこの先人類が滅びるのも時間の問題。
今も宗教戦争の陰で魔物が暗躍し、その姿を見せることなく人類を滅亡へと導いている。
いや、まだ滅亡していないのもおかしいか。
ますます謎が深まっていく。
「宗教戦争っていうのも奥が深いんだね。」
ー・ー・ー
「宗教戦争っていうのも奥が深いんだね。」
「そうですね。私も思ったより深刻な問題だと気づきました。」
気付いたからこそこの旅に参加したんだけどね。
問題の深刻さには気づいてもらえたみたい。
なら少しは協力してもらえるかな?
いやでも、魔王討伐の旅には必要のないことだ。
その上、そういう裏の部分に首を突っ込んだら容赦なく殺されるかもしれない。
そんな危険がある中で賛成してもらえるのかな。
そう思う一方で、私が覚悟してここまで来たのに話さないのは惜しい。
とりあえずは話さないと。
「あの、だから協力してほしいことが、あるんです、、けど、」
「この問題を一緒に解決して欲しいって?」
私が言おうとしたことを当てられて驚く。
驚きすぎて一瞬思考が停止した。
まったく。
あの一瞬でどこまで考えたんだ。。
もしかしたら、私の心読んでるのかな。
…いや、それだけはやめて欲しいけど。
「あ、そ、そうです。」
動揺して変な感じになってしまった。
気を取り直して私は伝える。
「きっとこの問題が解決しない限り、魔王を倒しても世界は平和にならないと思うんです。だから一緒にやってほしいなって。」
ザキさんは、黙ってこちらを見ている。
「もちろん協力するよ。」
「ほんとですか⁉︎」
喜びと驚き、疑問が混ざり合う。
「うん、ほんとだよ。僕も世界が平和にならないのは嫌だし、ハイドっていう何でも屋を雇っている以上こういう裏の世界にも踏み入れる覚悟はしてた。」
こんな先のことまで読んでたの⁈
「じゃあ、一緒にやってくれるんですね!」
思わず大きな声になってしまう。
「うん。でも、僕が賛成しただけで他の2人はわからない。」
あ、そっか忘れてた。
みんなが賛成してくれないと意味がない。
「そうですね……」
向こうのテントの中からハイドさんが出てくる。
そろそろ見張りの交代の時間だ。
「これはまた後で話そう。」
「そうですね。」
ハイドさんが眠たそうなエレードさんを連れてこちらに歩いてくる。
「ザキ達交代するぞ〜。」
「おっけー。じゃあ、頼んだよ。」
「はーい。」
私はテントに戻り、寝転がる。
とりあえずはこれでよかったのかな。
ザキさんには賛成してもらえた。
そしてハイドさん達にも話をしようとはしてくれている。
このままこの話が流れなければいいけど。
いや、そうなったらまた私から話し出せばいいか。
私が始めたのなら責任持って最後までやり切らないと。
たとえ反対されても諦めないで頑張れ私。
今日はドキドキを抱えたまま眠りについた。
ー・ー・ー
ザキ達が各々のテントに戻っていく。
そこでエレードが奇妙なことを言い出す。
「ハイド、ザキ達戻ったか?」
俺はテントの方を見て、戻ったのを確認する。
「え?戻ったけどどうしたんだ?」
「じゃあ、、ここから聞こえないように小さい声で言うぞ?」
そんなに周りを警戒しないといけないようなことをコイツは言おうとしてるのか?
なんとなく良くない気がする。
けど、気になる。
ワクワクして次の言葉を待つ。
「おう、なんだ?」
「…もしかしたら、ザキ、リーリンのこと好きなんじゃね?」
「⁉︎」
何を言うのか待っていればそんなことを言い出すとは。
……とはいえそうかもしれない……?
「いや、だって見張りのとき一緒だし、よくリーリンに魔法のことを聞いてるだろ?ほんとは魔法のこと知ってたりして…!あと、キングスライムのとき覚えてる?」
俺はそのときを思い出す。
「あぁ、たしかザキがリーリンをかついで攻撃を避けてたな。」
「うん、だから絶対そうだよな!」
「……!、そういえば前にザキの後ろをつけてじいさんの小屋に行ったときあっただろ?そこでリーリンに電話してザキの場所を聞いたときに、リーリンがザキのじいさんのことをもう知ってたんだよな。
だから、それってザキが先にリーリンにだけ話してたってことだよな。」
エレードのニヤニヤが止まらない。
「うわ!もう絶対そうじゃん!」
たしかに、考えれば考えるほどそうなってくる。
……のか?
聞いてみたいな。
「それに交代するとき毎回話が盛り上がってるみたいだし、あーもうそうだよね!」
「あー、たしかに!それに移動のときにザキとリーリン隣同士で歩いてるしやっぱそうだな。」
謎の沈黙が訪れる。
「…もう、それだな。」
「よしエレード、次から2人を観察するぞ!」
「そうだな!あわよくばどんな感じなのか聞こう!」
エレードは拳を空に向かって上がるポーズをしようとしたが、怪我のせいで痛がっている。
「痛ぇー!」
「あんまはしゃぐな。大きな声になっちゃっただろ。バレてないか?」
「まあ、大丈夫!」
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