第十三話 盗賊だ!
「じゃあ、屋敷内を探索しよう。」
移動している最中、リーリンが何かを見つけたようだ。
「あ、あんなところにウサギがいますよ。」
屋敷の近くの家の影にウサギがいる。
「ほんとだ、迷い込んだのかな?」
「可愛いですね!」
そう言ってリーリンがウサギに近づく。
その瞬間、
ウサギの身にナイフが迫る。
僕は、そのナイフに見覚えがあった。
まさかと思ってそのナイフの持ち手の方を見る。
すると、ハイドが結構勢いをつけて投げた後だった。
一瞬ウサギとナイフの間に結界が張られ、周囲に砂埃が舞う。
砂埃が収まってウサギの方を見てみると、そこには人影があった。
黒いローブを着てフードを被っている。
髪型は女性でいうショート、男性でいう長髪で、白色だが白髪ではないようだ。
顔には、黒を基調とした白色の模様が入った仮面がつけられていてわからない。
しかし、夜に目を光らせている野生動物のように見られているのが伝わってきた。
左耳にはウサギのイヤリングが揺れている。
「みなさん、初めまして。いやなに、怪しい者ではありません。ただ、貴方の様子を見ていただけですよ。」
貴方?
「おい、君は誰だ?」
と僕が言い終える前にエレードが魔法の光線を撃つ。
そしてリーリンは僕達に結界を張った。
ー・ー・ー
「おい、君は誰だ?」
ザキがそんなことを言っているが、そんな場合ではない。
アイツは魔物だ。
「【攻撃:キャウレスライツ】」
「【結界:マジックウォール】」
リーリンは結界を先に張る。
相当警戒しているようだ。
「【転移:イメージテレポート】」
そしてハイドはナイフを持って魔物の後ろにまわる。
だがしかし、ソイツの前では意味がない。
「【結界:マジックウォール】おやおや、そんなに警戒しなくたって大丈夫ですよ。」
コイツ、俺の魔法は最小限の結界で止めて、ハイドを右腕だけで止めている。
それなのにまだ余裕があるみたいだ。
「貴方も…なんでも後ろに回ればいいという訳ではありませんよ。」
と言いながらハイドをこちら側に投げ飛ばす。
あれ、片腕のはずたよな。
「僕は、君が誰なのかって聞いてるんだけど、答えてくれない?」
ザキが強めに言う。
「あぁ、忘れていました。といっても名を申すほどの者ではないですから、お好きにお呼びください。」
「そうか、じゃあ…
「帰れ。」
ハイドがザキの話を遮って言った。
いつも低い声ではあるが、さっきのはもっと低く重い声で、一度も聞いたことがない。
「そんなに怒らないでください、ハイドさん。」
「帰れ。」
魔物は困り顔を浮かべてから、
「わかりましたよ。くれぐれも魔物には気をつけてくださいね。」
と言ってまた砂埃が舞う。
再び目を開けたときにはもうその姿は無かった。
「あの魔物は何だったの?ハイド。」
とザキが言う。
「あー、アイツは兎和団ってやつなんだけど、その前に全員荷物確認しろ。」
「なんで?」
「今の一瞬で盗られたかも知らないだろ。」
そんなわけないだろう。
そう思いながらも、ハイドに貸してもらったカバンの中を見てみると、、
嘘だろ⁈
「あれ、俺の隠し持ってたお菓子セットが無い!」
「あ〜、盗まれたな。ドンマイ!」
ハイドが一応慰めてくれた。
「俺のお菓子が〜。」
「というかエレードさんお菓子を持ってきてたのですか?」
リーリンに鋭いことを言われる。
あ、これは怒る前のお母さんの雰囲気に似てる。
絶対、怒られるヤツだ。
「そうだけど?」
ここは逆に強気にいく事で、さも当然のような雰囲気を出しておく。
「どんな事が起こるかわからない旅なのに、その命綱となるカバンの中をお菓子で埋めたということですね?」
たしかに言われればそうだけど、、なんか良い言葉ないか?
…そうだ!
「ほら、旅してるときに甘いものが欲しくなるかもしれないじゃん。そういう小さなストレスを発散することで体調が良くなるかもしれないだろ!」
「まあ、たしかにいいかもしれないですが…」
俺、天才か?
こんな完璧な言い訳言えるやつ俺以外に居ないだろ。
「それに、みんなで食べればみんなハッピーになるだろ!」
「…あのですね。その甘いものが欲しくなるストレスはみんな感じますし、みんなでお菓子を食べればたしかに幸せになります。」
うんうん。
「その考えは良いですけど、」
ん?
「みんなでお菓子を食べる前提として持ってきた人が、“隠し持ってた”なんて言わないですよね?」
………
ザキは苦笑し、ハイドは小馬鹿にするような笑いをしている。
「まさか、1人で食べようとしてたんですか?まあもう盗まれたのでそれも出来ませんけど。」
リーリンが嫌味も混ぜつつ俺を攻撃する。
………
「あぁというか、カバンの中はそれだけでしたか?」
「ア、
(“呪いの魔法体系を記録している本”だなんて言えない。事情を話せば分かってもらえるかもしれないが、どうだろうか。
そもそもみんなは、魔王を倒すために旅に出たのだ。俺の呪いを解くためじゃない。
事情を話したところで協力してくれるかは微妙だ。
それに、この呪いがバレたせいでこのパーティを抜けることになるのは嫌なのだ。
なんてったってハイドがいる。人間であんなに呪いが使える人はそうそういない。
せっかく出会えたのにサヨナラすることになるのは避けたい。)
オレノお絵描き帳デス。」
「そんなものも持って来てたんですか?………
その後もリーリンに怒られたのでした。
ー・ー・ー
エレードがリーリンに怒られている。
流石の僕でもお絵かき帳なんて持ってきていたら怒れる。
とまあ、それは今重要じゃない。
あのウサギの魔物の正体を知りたいんだ。
たぶんハイドは何かを知っている。
話を逸らされてはいるけど、聞いておきたい。
「ところでハイド?あの魔物はどんな魔物なんだ?」
「あ?わかんねぇよ?」
「いかにも知っているかのような感じを出して?」
「そうだぞ。俺は兎和団っていうことしか知らない。」
それもだいぶ無理があると思うけど。
「じゃあそのと、とわだん?ってやつを教えてほしい。」
「わかった。」
兎和団とは、宗教団体の一種だそうだ。
基本的な教えとして、人間と魔物が共存する世界を理想としている。
だから、ああいう魔物も教徒になれるらしい。
「それだけなのか?」
「流石の俺でもわからないことはある。何しろあの宗教は不思議だし、有名所の宗教といえば祈真教があるだろ?それ以外の宗教はあまり知られてないのが現状だからな。」
「たしかに私も兎和団なんて宗教は知らなかったです。」
僧侶のリーリンですら知らないとなると相当マイナーな宗教なのだろう。
だけどまだ気になることがある。
「ハイド、あの魔物のこと本当にそれだけしか知らない?」
「あぁ、それだけだ。何回か仕事の方で絡んだことがあって、それでアイツに気に入られているだけで俺からはアイツのことは知らない。」
本当だろうか。
さっきあの魔物は“貴方”の様子を見ていただけですよ、と言ったし、ハイドっていう名前も知っている。
気に入られたからってわざわざウサギに変装してまで追ってくるのだろうか。
もしかしたらそこまではハイドの言う通りなのかもしれないけど、「帰れ」と言うハイドの声と圧は明らかに何かあるだろう。
そして、エレードのカバンが盗まれた。
でもそれを確認しようと真っ先に言ったのはハイドだし、あのカバンはハイドがエレードに貸した物だ。
ハイドと言い合いになりながらも伝えるとハイドは口を開く。
「……はぁ、ザキは意外と頭が回るんだな。。そうだよな。どうせいつかはこうなると思ってたし、先に話しておこう。」
「ありがと
「ただし、他には広めるなよ。」
またあのときと同じように、僕の言葉に被せてきた。
「…わかったよ。それで?」
「アイツは本当は、兎和団のボス。アイツをもとにあの団は動いている。これは俺の仕事で知った。」
「ボス直々に来たってことなのか?」
エレードが疑問をぶつける。
「というよりかは今のは、ボスとしてじゃなくて私人として来た感じだな。さっき言った通り俺はアイツに気に入られている。理由は俺も知らん。
そこはほんとに知らないんだ。
謎だな。
ハイドが、「そこは一旦置いといて、」と話す。
「そこで俺が侵入してるってバレたんだよ、アイツにな。そして捕まった。
まあ、そんときは俺も戦おうとしたけど見事に完封されて勝てないって悟ったな。
それで、その後アイツから『お話ししよう』なんて言われたから聞いてみれば、
『ここを出るかわりに私と協定を結ぼう』
なんて言ったんだ。
流石の俺でも困惑はしたけど、とりあえず俺はその協定を結んですぐ出たんだ。
すぐそこから出たから俺でもアイツのことはわからない。アイツが何考えてるのかもわからない。
だけど化け物ということだけわかった。関わるのは極力避けた方がいい。」
ハイドはそこまで言うと、軽くため息をついた。
「その協定っていうのは?」
「お前ほんとノンデリだな。」
そんなことないと思うんだけどな。
「普通、個人間で結んだ協定を他に話すことはしないぞ。それにあの協定の内容の中には、この協定の内容を他に話してはならない、ってあるからな。お前らが勝手に知っちゃった分には良いと思うが、そうなると真っ先に疑われるのは俺だからお前らも他に言うなよ。」
と、注意された。
そんなものがあるのか。
でもそれを知ってる人は何でも屋とか暗殺者ぐらいだろうから僕悪くないよな?
「それはごめん。まあけど、その協定を結んで大丈夫なの?」
「今のところは大丈夫。もし何か起きても俺の方で片付けとくよ。」
「そうか。じゃあ、任せるよ。」
きっとハイド自身が、一番この状況を分かっているだろうし、優秀な何でも屋ってことには変わりない。
僕が気にする必要もないか。
それから屋敷の探索を始めた。
屋敷は平屋に近いくらい横に広い。
一階と二階しかないが、エントランスホールは中央に大きな階段があり十分高さを感じた。
一階は、街の魔物が避難していたところだから重要な書類は無いとみて、二階を探索する。
数十分後。
とある資料を見つけた。
───────
活動報告書
暗殺者ハイドにツインソウルを殺す交渉は失敗した。
計画に従ってプラン2に移行する。
もう一度、ツインソウルの情報を集め直し実行する予定だ。
交渉失敗後、帰り際にハイドに襲われた。これは我ら魔王軍に敵対する意思が明確にあると見て間違いないだろう。依頼することは控えた方がいい。ハイドへの対応も近いうちに考える必要がある。
───────
「これ、僕のことじゃないか?」
僕はこの資料をみんなに見せる。
「そうだな、ザキのことだと思う。ただ、ザキを殺すのに大掛かりな計画を立てているのには疑問だし、ツインソウルって呼ばれているのにも疑問を感じる。」
その通りではある。
が、リーリンは何か知っていることがあったようだ。
「あ、一応ですが、私ツインソウルのこと知ってます。」
「どんなものなんだ?」
「祈真教の聖典に載っているお話で、女神の微笑みって呼ばれている夕日が見えた時に産まれた子のことをツインソウルと言って崇めたそうです。ツインソウルは女神が与えてくれた子供と言われています。」
「じゃあ、僕が産まれるときだから19年前に女神の微笑みがあったのかな?」
そのお話通りならそういうことになるはずだが。
「私はそのとき産まれてませんのでわかりませんね。」
「てかまだこれがザキと決まったわけでもないよな。全然違う人の可能性だってあるよ。」
エレードがそう話す。
エレードは違うと思ったみたいだ。
「はい、そうですね。それにツインソウルは近年は記録されていないそうですし、本当かどうかもわからないあの話と関係してるのかも不透明です。」
僧侶としてその発言は大丈夫なのか?
と心配になるがリーリン本人が言ったのだからきっと大丈夫だろう。
「そうなのか。じゃあ、この周辺にそれについての情報があるかもしれないから探そう。」
「わかりました。」
「おっけー。」
「了解。」
いつも思うけど、ほんと三者三様の返事だな。
また探索が開始される。
すると、調情団に関しての資料があった。
調情団はここに来ていてこの街をスルーしてどんどん南下していったみたいだ。
1kmも離れたところにいたところをカヲミが探知で気づいたみたいで、この資料にまとめられている。
探知ってそんなに広い範囲で使えるのか。
というか、調情団は南の魔人とか倒せないのだろうか。
各地に情報を取りに行ってるのだから倒せそうなんだけどな。
こういうときはみんなに聞いてみよう。
「調情団はここまで来ているみたいだけど、そんな人達なら魔人を倒せそうじゃない?」
「そうですね。ですが、近年は安全のために無理に戦いに行かないですぐにテレポートで帰ってくるみたいです。」
「“近年は”って前はどうだったの?」
「昔、調情団は今よりも命懸けで偵察に行っていたみたいです。ですので大量の死人が出ていたみたいですよ。だから今の形になったのではないですか?」
それに、と言ってハイドが付け足す。
「魔人は人間よりはるかに強い。魔法の精度が違いすぎるし、種類も豊富だからな。その上昔なんて魔人を討伐する機会なんてなかったから、そうなると長年生きてる魔人だらけになる。だから死人がどんどん出るのは無理もない。」
「そんなに違いがあるのか。」
「あぁ、だからアイツらを倒せたのも結構すごいことだぞ?そもそもあの主は分子を認識できていたみたいだし。そんなやつに勝てたのは奇跡的だぞ?」
「じゃあやっぱ俺天才だな!」
エレードが自慢げに言う。
「あー、そうだなそうだな。てんさいてんさい。」
赤子をあやすように、ハイドがエレードをあやしている。
そのうち、エレードをあやすって言っても意味通じそうだな。
「ほんとに思ってる???」
十数分後。
「みなさん、何か見つかりました?」
「特には…ハイドとエレードは?」
「俺もなかったよ!」
「俺もだけど、一個気になることがあって。」
どんなものかと聞いてみる。
「他のいろんな資料に“中央会議”っていう言葉が入ってるんだけど、会議をしたんだったらそれが紙に残るってことは少なくなるんじゃないかなって。」
「あ、ちょうど私も言おうとしてました。」
リーリンも気になっていたみたいだ。
「もう少し詳しく教えて?」
「えっと〜、中央会議っていう会議を開いたとするよ。そして話し合いをするだろ?そうなると、直接会って話しあっているのに、内容全てをわざわざ紙にまとめることはしないかもってことだ。それに残したとしてもすぐに消しているかもな。」
リーリンが、「それに加えて、」と付け足してくれる。
「中央と言うくらいですので魔王と一緒に話し合いをするのだとしたらどうでしょうか。仮に内容がまとめられた資料があるのだとしてもそれを手に入れられるのは魔王城付近ということになりそうですよね。」
なるほど、会議内容を資料として残している訳ではないということか。
会議の結果どういう行動をしたのかわかる資料があれば、それを探すだけで済んだし、その資料から魔人達がどんな情報を得ていたのかがわかったのに。
まあもし残っていても魔王が管理してそうなのは否めないけど。
「俺にもわかるように話してくれよー。」
エレードは今の説明ではわからなかったみたいだ。
正直ちょっとわかりづらいところもあったけど、流石にアホすぎるんじゃ……
「肝心の会議内容が書かれた資料はないかもって話であってる?」
「そうです、あってますよ。」
「そしてもしかしたら魔王と一緒に会議してるかもしれないから、仮に会議の資料があっても魔王が管理していて手に入れるのは難しいってことかな?」
「俺らのの説明でよくわかったな。」
「まあ、なんとなくで伝わったからね。」
「ハイドがあれくらいわかりやすい説明をしてくれたら俺もすぐわかったのに!」
逆に僕の説明でわかったのが凄い。
いや、ほんとにわかったのかな?
「悪かったな、わかりにくい説明で!」
「まあまあ、取り敢えずみなさん落ち着いてください。もしこの予測が当たっているのなら資料を片っ端読んでいかないといけません。南だけでなく全方位のこういう町で。」
リーリンが一つの可能性を提示する。
「たしかに、今回見つけた資料だけじゃどうしようもないかもね。」
「あぁ、だけど人間に関しての資料があるのってここら辺だけじゃないか?こっからさらに南下していったら人間の都市とは離れてくだろ?」
「う〜ん、それもそうですね。だとしたら少しは楽かもしれません。」
ハイドが言っていることも一理ある。
けど、確定しているわけでもない。
「でも、見逃すのも怖いし、やっぱりちょっとずつ調べるしかないかな。」
そうだな、とハイドも同意する。
「というか今日進展があった方がすごいだろ。」
「たしかに!俺ら凄い!」
エレードは、まるで子供みたいにはしゃぐ。
この人19らしいけど、本当は嘘ついてるよね。
流石にそうだよね。
そうだと信じたい。
「まったく元気ですね。」
「ほんとにね。」
ー・ー・ー
その後も俺らは屋敷内や町周辺まで二日くらいかかけて探索しつくした。
途中でコインたっぷりとを手に入れた。
これで準備にかかった10万コインが戻ってきた。
よかったよかった。
あの調子でなくなっていったら数年後には一文無しだった。
「じゃあ、今日からまた南下していこう。」
そしてまた旅は動き出す。
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